第58話 |死線《デッドライン》3
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霧の迷宮に風が鳴る。
風は魔力を帯びてなお、荒れ狂う波濤のような力強さと圧力を持っていた。
際限なく吹き荒れる風は、全てを吹き飛ばすほど激しく、時々荒々しいうねりを見せながらも同じ処から吹き出してくるかに思えた。
その証拠に、風は見るまに霧を円周状に外側へと押しやっていく。
沙樹を中心にして、魔女を取り囲む分厚い霧と雲の壁が形成されていく。何者かの意図が働いているとしか思えない状況が、急速に形作られていた。
その場にいる者達の動揺を尻目に、狩り場が完成に近づく。まるで魔力の海が出現したかと思えるほどの濃密な気配が、沙樹達の足元から競り上がってくる。
その中に潜む何者かの、得たいの知れない声が先程から迷宮内に響きわたっていた。
聞く者の不安を掻き立てる吠え声が木霊する。
「Aaaaaaaooooooooooooooonnn……!」
野太い其れは、明らかに人外のモノが発する咆哮。
「……なっ!? 何の声だい? こんな、聞いたこともないよ!」
次第に近付いてくる声に、魔女は手に汗を握った。
凄まじい早さで流れていく霧と雲の壁の更なる奥で、人ならざる声が響く。それは、主人を守護する使命を帯びた従魔の咆哮だった。
(この声は……! いったい、何がいるっていうんだい!?)
魔女の喉が嚥下する。
無意識に恐怖を飲み込み、抑えようとしたのだろう。だが、それは魔女ヘレナに不安と恐怖を認識させていた。
「ま、まさか!?」
魔女の驚きに見開いた目が、沙樹と霧の迷宮とを交互に見遣る。
(……いや、でも? 確かにそれ以外に方法はないかも知れないけれど、まさか!?)
片手斧を持つ手が震える。
彼女の内に、ある種の理解が生まれる。理解し難い筈の其れが、何故か真実味をもって胸に迫る。
「あんな小娘が、私の加害魔法の中で召喚獣を呼び出すなんて! そんな、有り得ないよ!!」
巨大な何かが潜む霧の迷宮は、今や人外の咆哮が木霊する場所となっていた。
気丈にも恐怖を抑え、魔女が周囲を窺う。彼女の視線が忙しなく周囲を警戒して彷徨う。見えない敵に備えるべく、魔女の対応は早かった。彼女の身体に魔力が駆け巡る。何時でも発動可能なように、臨戦体制を敷いていた。
(……この状態じゃ、使える魔力に限りがあるね。仕方無いが、手を緩める訳にもいかないんだよ!)
舌打ちする余裕も無く、魔女が周囲を警戒する。魔力を使えない理由は、彼女自身が誰よりよく知っているのだ。
亜流の魔女ヘレナが得意として使う魔術、加害魔法。
それは、後世において御業と呼ばれる大魔術のひとつ“四面廻廊”の原型であり、別の視点から見れば術者自身の魔力からなる支配領域を構築する魔術でもあった。術者として高い能力を持つ彼女が、全力で放つ最大魔法。大量の魔力を対価に、結界魔法の雄と言わしめた其の効果は、支配領域内への絶対的な魔力干渉を可能にする。
つまりそれは、支配領域内での敵の強力な魔術行使を制限できることを意味する。事実、彼女の師匠を含め、この”四面廻廊“を行使した魔術師は常勝無敗を誇ってきたのだ。よほどの魔術の使い手でなければ反撃さえ覚束ない。その証拠に支配領域内に取り込んだ獲物達は、これまでなすすべなく絡め取られていったのだ。誰一人として、例外なく。
その歴史が、破られようとしている。
魔女の懸念が大きくなったころ、唐突に巨大な唸り声が響き渡った。
「Gooooooooooooooaaaaaaaaaaaaaaaaaa……!」
不意に放たれた咆哮は、その場にいる者達全員の身を竦めさせた。
威嚇のために放たれた咆哮が、霧の迷宮を恐怖に染める。俄に夥しい血の匂いが、風に乗って運ばれてくる。
「あ、あ……!」
ヘレナの口から驚愕と疑いの念が漏れる。魔女の顔色が変わっていく。
「……ど、どうやって!? 私の魔獣達を! ああ、星の気配が消えていくよ!!」
支配領域内にいた魔女の魔獣達が気配を断たれていく。魔獣と呼べるほどの大きな体躯と強さを誇る彼女の手駒が次々と討ち取られていく。
なまじ見えないだけに、ヘレナには消えていく気配がありありと感じられるのだ。まるで不穏な空気が彼女を取り巻いていると錯覚するほど、殺伐とした空気が漂っていた。
ほぼ同時に、強風を受けた魔女の身体がジリジリと押されていく。風圧が彼女の細い身体を外周部へと押し遣ろうとしていた。生成りのローブ忙しなくがはためく。
予想外に強い風のせいで、狼狽えた魔女は足元が浮くような不安を覚えた。
(くっ! 身体が押されていく!? このままじゃ、あの中へ……。冗談じゃないよ!!)
身体をくの字に曲げて、ヘレナが必死に耐えようと抵抗する。
逆風が吹き荒れる。魔女の抵抗を嘲笑うかのように暴風が吹き、魔女の身体を押し遣った。
その隙を待っていたとばかりに霧の迷宮の奥深くから、何者かの気配が忍び寄る。
「くっ!」
体勢を崩し、霧と雲の壁がヘレナに迫る。
吹き荒ぶ風が、霧の迷宮をまるで荒れ狂う雲海のように見せていた。但し、落ちれば其処には得たいの知れない巨大な何かが潜んでいるのだ。
本能的な恐怖が、魔女の心胆を寒からしめた。暗い夜の海に潜む海獣の気配に似たものを感じたのだ。
今や唸りを上げる暴風は、円周状に叩き付けるような暴威を見せ、魔女を雲海に沈めようとしていた。
霧が渦巻く中に、また巨大な何かが動く。まるで水面下にいる何かが身を捩ったかのように、雲海の表面が大きく波立った。
僅かに現れた鈍い光沢を放つ鱗のようなものを見て、ヘレナの血の気が引く。そのあまりの巨体に恐怖が先立つ。いったい、どれだけの巨獣が隠れているというのか。
驚愕に魔女の目尻が裂けんばかりに開かれ、身の毛がよだつ。
身体が力んでいたことが、ヘレナの行動を阻害した。暗い海の底から、海獣を思わせる何かが一気加勢に迫る。
魔女の身体を呑み込むほどの巨大な顎が開かれたのは、雲海の表面が弾けた一瞬だった。
巨大な質量を持つ何かがぶつかり合う轟音が響く。同時に、圧力を感じる風がぶつかる。
間一髪、顋を逃れたヘレナが叫ぶ。
「ひっ!? ば、化け物!」
唸る暴風の中に潜っていくルンを見て、その偉容に眼を見張る。
魔女の口から出たのは、有り得ない言葉。
「あ、あれは……。ふ、古き蛇!?」
その言葉が、魔女の恐怖を煽った。
長い身体には龍鱗が覆い、顎には鋭い牙が生え揃う。暗い雲海に再び隠れる巨体は、優に人間をひと飲みにできるだろう。先程、自分の真横で閉じた顎の大きさと感じた圧力は彼女の精神をこれでもかと揺さぶっていた。
エジプト近辺に棲息するナイルワニでさえ、年齢を重ねた巨体となれば咬力は1トンにも及ぶ。噛みつかれた者は、まず死を免れない。そんなものを遥かに凌駕する巨体の幻獣種の咬力は、さながら死神の抱擁であろう。
「き、聞いてないよ! あんな化け物を呼び出せるなんて!!」
恐怖が魔女の精神を蝕み始めていた。
「神話の怪物じゃないか!!」
混乱状態となったヘレナは、もはや周囲の雲海から目を放せなくなっていた。
何処から襲ってくるか分からない怪物に、魔女の恐怖と警戒心は天井知らずに上がっていく。
荒ぶる風の圧力を受けて、魔女はその身を竦ませることしか出来ない。
ギリシャ神話において、神代の時代に登場する怪物達。
クレタ島の迷宮にいるミノタウロスや名高き英雄に倒されたゴルゴンなどが有名であろう。古代ギリシャにおいて圧倒的な力を誇る彼等は、純粋に生命体として高みにある存在として人間の力などものともせずに生きてきた。古き神々の血を引く種族的な優位性と相まって、彼等の存在は恐怖 だけではなく、畏敬の念と共に時に崇拝の対象とすらなってきた。
蝮の女しかり、海獣しかりだ。
例えばネメアーの獅子などは、ヘラクレスの最初の難行に数えられ、討伐後に魂はゼウスにより天上の星座とされ、獅子座になったと言われている。
神代の時代に生きた怪物達は、神々の導きを得た英雄によって討伐されるか、または争いを嫌うように時代の陰にひっそりと消えていった。唯の人間の手によって滅ぼされた種族などはいない。
そんな神話の怪物達を超える使い魔が、魔女の生命を狙う。
神話が息づく土地、ギリシャに生まれたヘレナにとって神々と魔術の存在は絶対的なものだ。
幼い頃から慣れ親しみ、真実であると受け入れてきた魔法界の存在。彼女自身が見たものは、まごうかたなき本物の迫力と存在感をもって迫るこの世の真実に他ならなかった。
(こんなところにいられないよ! な、なんとかして逃げ出さないと……)
魔女の精神を混乱させた使い魔の攻撃。其れは、単なる挨拶代わりでしかなかった。
自らの主人を狙った者への復讐の狼煙。その証拠に雲海の奥からヘレナを狙うルンの目が、強い光を帯びて輝き出していた。
風が、更に威力を増し始めていく。
「Goooooooooooooooooooooooaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……!」
三度鳴り響く守護獣の咆哮。
攻撃色を露にしたルンが、攻勢に出る。巨大な竜尾が雲海を叩く。それだけで雲海が割れ、荒れ狂う暴風の波が辺りを蹂躙していく。
疾風が駆けるより早く、ルンの操る風が魔女を追う。狙った獲物を逃がすまいと有り余る魔力が迸る。
特大級の風の魔術がルンの周囲に作用する。風を雲を切り裂き、空間を割る一撃がヘレナを狙う。その余波で、辺り一面にも真空波が乱れ飛ぶ。
到底避けきれない攻撃は、一人の魔女に死を運ぶ。
轟音と共に苛烈な一撃が講堂の床ごと地面を割ったころ、飛び散る血潮がヘレナを朱に染めた。
その衝撃がヘレナの脳を刺激する。
遠く離れ、薄れていた記憶が脳裏に流れ込んでくる。何処からか記憶の情報が入り込んできたと言うべきか。
その不思議な感覚が、魔女を戸惑わせた。知るはずのない記憶もまた見えたからだ。
デルフォイの館にある私室で、かつてヘレナが師と仰いだ男が神妙な面持ちで立ち尽くしていた。獣油を使った灯が、室内を照らす。外は暗く、出歩く者も少ない。秘密の話をするには、丁度良い頃合いであった。
ただ、彼としては珍しく表情に焦りを隠すことをしていない。陽に焼けた壮年の顔には、険しい色が宿っていた。魔術の一門を率いる立場上難しい問題でも抱えているのか、頻りに顎を擦る。
そんな彼の耳に、廊下を急ぐ足音が聞こえてきた。すぐに私室の扉がノックされる。
『師よ、お呼びでしょうか?』
慌てながらも衣服を正した弟子が問うた。灰色の眼が師を仰ぐ。
『来たか、バルベイトスよ』
『はい。しかし、師よ。いったい、このような遅くにどのようなご用件でしょうか?』
彼は自身の焦燥をおして平静さを装う。大事な用件である旨を伝え聞いたバルベイトスも師に従い、待機する。学究の徒として、冷静さは美徳であった。
『急ぎ来てもらったのは他でもない。大切な用件があるからだ』
ダイダロスはそう告げると、バルベイトスの名前を改めて呼ぶ。
『ヘレナを探せ。あの娘が行きそうな場所に人を出せ』
その用向きに、弟子であるバルベイトスのほうが困惑した。
『……しかし、何故にでしょうか!? 追放され、既にデルフォイにはおりませぬ』
弟子の疑問を打ち消すだけの事実を師が示した。
『帝国が眼をつけたのは、彼女なのだ』
『なんと!? では、巫女達ではなかったのですか?』
驚きに頭を抱えるバルベイトスに、師が手を示して制する。まだ話しの続きがあるのだ。
『私に次ぐ魔力と実力を知られたようだ。先ほど、神殿を破壊されたくなければ渡せと言ってきた』
魔術師として同門の仲間の生命か、それとも守るべき無辜の市民の安全か、苦渋の決断を迫られた師の顔は沈痛な表情をしていた。
『彼女はいないと帝国の要求を突き返すことは容易だが、デルフォイにどんな影響が出るか分からぬ』
時期的に農閑期ではあるものの、常備軍がある帝国の対応を予測してのことなのだろう。バルベイトスは続く師の言葉を待つ。
『帝国は既に200人規模の捜索隊を派遣することを決定した』
『……そ、そのような情報が? 私達はまだ掴んでおりませんが』
『私の協力者である出入り商人からの知らせだ。帝国は軍隊を派遣する。在野の騎士を集めるのとは訳が違うのだ』
ダイダロスの口から重い嘆息が漏れた。
『なんとか戦争から遠ざけようとしたが……。やはり、あの非凡な才能故か……』
『で、では? 彼女の追放は!?』
『どうして手塩にかけた愛弟子を戦地になど送り出せようか。ましてヘレナは女だ』
師の口から語られるヘレナ追放の真実に、バルベイトスは驚きを隠せなかった。突然の追放劇は理由があるとは思っていた。だが、高弟達は口を固く閉ざし、彼の妻アグライアも姉の行方と安否に心を痛めていた。
『帝国は魔術師による抵抗を危険視している。統治に対する危険因子と見ているのだ』
『……彼女を要求してきた理由は、何かあるのですか?』
『帝国が女性魔術師を求める理由は、融和政策を理由とした血統の取り込み……。つまり、呈のいい人質だ。子を成せば取り上げられ、幽閉されれば良いほうかも知れん』
『そのような要求、呑むことなどできません!』
思わず激昂したバルベイトスが、ハッとして師の顔を見た。
師の首肯する様を見て、弟子の表情が引き締まる。新たな任務にバルベイトスの灰色の目が毅然とした光を宿した。
『バルベイトスよ、ギリシャを明け渡してはならぬ。お前達と共にあれば、あの娘も憂いを断ち切れるだろう……』
『……では、彼女を無事にギリシャに連れ帰ることが必要だと?』
『その他にも幾つかあるが……。急ぎ準備をしなければならぬ』
やがて師がバルベイトスを見据え、指示を与えた。それは、彼の後悔と慚愧の念に他ならなかった。そして、ダイダロスは最後にこう言った。
『頼む。私の可愛い娘だ』
『はっ!』
弟子の返答が、師の心情を汲んだものだとしても、彼女は帰るべきだったのだ。戦火に巻き込まれるギリシャに、彼女は必要だったのだから。
頭の何処で、自分を呼ぶ声がする。
『御姉様! どうか、どうかこの子の名付け親になってください!』
美しい女が、悲しみに涙していた。知っている女だと思った。ただ、それが思い出せないだけだ。誰かが自分を呼んでいる気がしているのに、思い出せない。
頭に誰かの記憶が流れ込む。
『我が弟子ヘレナ。世が世なら、お前こそ私の後を継ぐはずだった。許しておくれ、戦乱から守るためには仕方がなかった。お前に話せばここに留まると言い出すことは眼に見えていた。すまない。生きておくれ、我が娘ヘレナよ』
哀しい記憶が流れ込む。何故、自分は思い出せなかったのだろう。
『帰ってきてくれないか?』
同門の友が、手を差し伸べてきた。それを何故、振り払ってきたのだろう。
『ギリシャも他の国も帝国の支配は変わらない。それならいっそ、共に戦い…』
思い出せない記憶が、哀しい記憶が脳裏を掠める。
何も思い出せないまま、全てが赤く染まっていく。思い出そうとした矢先に、熱い衝撃を感じた気がした。
ヘレナの意識が、赤く染まる。
流れ込んでくる無数の記憶が、彼女の意識を埋め尽くしていた。
「ウロボロス!」
「どうした、主人よ!?」
沙樹の声に使い魔が応える。
主人のサポートに徹した彼は、同時に別の秘術を手掛けている。その状態で、亜流の魔女との対決を余儀なくされていた。
「あの子がすごく怒ってて、制御しきれない!」
黒い革製の装丁も美しい魔術媒体を持つ手が魔力の波動に震えている。使役する召喚獣への魔力回路が、途方もない量の魔力を消費するのだ。その魔力供給の奔流が、魔術媒体にも影響を与えていた。
「主人ならばできる! 大丈夫だ、自信を持て!!」
「でも、跳ね回ってるし……」
「堪えるのだ! 制御には集中力が必要だ。意識をしっかりと向けておけ!」
「『魔法の書』ごと持って行かれそうなのに……!」
抗議の声が非常事態に掻き消される。ようやく合流した主従は、まだ魔術戦の途上にあった。
いよいよ呼び出されたルンは魔力の海を縦横無尽に泳ぎ回る。魔獣を蹴散らし、魔女の力を削ぐべく威嚇を始めていた。
「Goooooooooooooaaaaaaaaaaaaaaaa……!」
竜尾が雲海を叩く。その余波が空間全体を震撼させる。龍の鱗気にあてられて、沙樹達も背筋が震える。錯視の蛇の赤目が瞬くような光を放つ。
(ルンめ、このまま魔女を喰らうつもりか!?)
死線を踏み越えて、運命が迫る。
二人の魔女の未来を決める戦いの鐘が今や佳境と打ち鳴らされていた。
更に竜尾を叩き付けて、竜王が魔女を追う。雲海の渦を掻き回して、速度を上げたルンの巨体が迫る。その顎から、特大級の風の魔術が放たれる。
突然、瓦礫を巻き上げる衝撃に沙樹達は曝された。
「きゃあ!」
「主人よ!! 奴め、牽制なら別の方法があろうに!」
至近距離に被弾した衝撃波の威力に、主従がたじろぐ。刹那に通過する白い波の影を使い魔が魔力感知で間一髪防いでいた。
その直後、ルンの顎から僅かな魔力偏光が漏れるのを錯視の蛇は見逃さなかった。
「いかん! 主人よ、奴を止めろ!!」
「……え? なにっ!? ウロボロス、聞こえない!」
沙樹のほうも魔法の書を手にして必死に保持していた。暴風の中、両手で抱えこむような姿勢をとっている。
「主人よ、止めろ! 奴め、完全に魔女を仕留める腹積もりだぞ!!」
「でも、腕が痺れてきたのに! 無理よ!!」
「気を張れ! 今奴の制御を失えば、辺り一面が焼け野原になるぞ!! 腕が無理なら脇にでも抱え込め!」
使い魔の怒声が暴風の中に響く。互いに危険な状況にあるのを承知で、ルンの制御を握ろうとする。衝撃波のショックも覚めやらぬうちに、沙樹は『魔法の書』を脇に抱え込む。両手の痺れを無視して、使い魔の制御に腐心する。
だが、その時既にルンの口元に異変が起きていた。
紫電の光が竜王の顎から漏れ出づる。
有り余る魔力が、風属性上位の力へと変換されていく。幻獣種の力が、本格化する。
竜種の力の真骨頂が、今や遅しと発現しようとしていた。
牽制に放った風の魔術は、既に魔女を捉えていた。顕現したルンを止められる者など、もはや地上には存在しない。閉塞された霧の迷宮が、狭いとばかりに竜尾を振り回してルンが暴れる。
巻き起こす暴風の加減など知らぬとばかりに竜王が駆ける。雲海の波を引き裂き、亜流の魔女を討つべく広場に躍り出る。
居並ぶ者達の視線を奪って、紫電の奔流が竜王の顎に集中する。
次の瞬間、蒼い燐光が爆発的に膨れ上がり、遂に”四面廻廊“に向かって放たれた。
様々な要因がもとで、投稿が遅れました。何とか漕ぎ着けましたが、如何だったでしょうか?
詳しくは活動報告で。




