メグレン様と二人っきり
翌日。
昨夜の舞踏会で選ばれし十二名の候補者が発表された。
その中には当然私たちの名前も。
トルドの話では今日中に三人に絞るそうですが果たして私は最後まで残れる?
才色兼備の麗しき令嬢だから絶対の自信はある。ですが選ぶのはあくまで王子。
どうも個性的な方を選ぶ傾向にあるので油断できない。
まさか選ばれないことなどあり得ないがすべては今日次第。何だか緊張するな。
十二名はさすがに選び過ぎではありませんか?
これもすべて王子の優柔不断が招いたこと。
これまで通り令嬢を使っての暗殺が濃厚。必要以上近づかせないのが先決。
それなのに十名も選ぶものだから先が思いやられる。
自ら複雑にしてどうするつもり?
トルドの爺さんはわざと選んだと大口を叩きますがどうも当てにならない。
選ばされたようにしか思えず上手く騙されたなと。
彼女たち暗殺者を甘く見ては痛い目を見る。
そもそもターゲットは三択で。王子かメグレン様かトルドの爺さん。
失敗は自分の命で償うことにもなる。
ああ絶対にメグレン様だけは嫌! 私のメグレン様だけは絶対お守りしなくては。
ですが体調も対策も決して万全ではない。
ふあああ…… ダメだ。昨夜は緊張と恐怖で寝れたのは明け方。
三時間かそこらしか熟睡してない。それでは集中力は落ちるばかり。
お肌にだってよくありません。素敵な令嬢がそれではいけない。
どうしましょう? 急いで顔を洗う。
バチャバチャと豪快に。突き刺すような冷水をかける。
うん…… 気持ちいい。これで少しは頭がすっきりして眠気も取れるでしょう。
それでは今日も元気に行ってみよう!
「おはようマリオネッタ」
そんな風に気軽に声を掛けてくれるのはビアンカぐらい。
「おはようビアンカ…… 」
そうだった。ビアンカは朝早くに散歩に出かけたんだ。
十人の候補者は監視も厳しく好き勝手はできませんが私たちにはその縛りはない。
当然入口で厳しくチェックするが出る時はただ時刻を記すぐらい。
まさか奴らの命令を聞きに行ってるとはさすがに思わないでしょう。
昨夜のことで予定が変わった気がする。
王子暗殺には時間と手間を惜しまない姿勢。
そのため暗殺に邪魔になると判断した者を先に始末して回っている。
ビック隊長は毒殺されお付きの爺さんは狙われる始末。
それからは暗殺者たちは鳴りを潜めている。不気味なぐらい動かない。
「ははは…… メグレンだよ。どうしたまだ寝ぼけてるのか? 」
そんな風に笑うメグレン様。もう意地悪なんだからとは言ってられない。
こんな洗い立ての姿をメグレン様に晒してどうしよう?
嫌われてしまった? だらしない女だと思われた?
いや! 恥ずかしい! どうしましょう?
大げさに顔を覆うがメグレン様は気にする様子はない。
それはそれでどうかと思います。無関心なの?
そうか自分が被り物してるから気にならないんだ。それほどの怪我またはアザが?
もしかしたらご病気の影響かもしれませんので詳しくは聞けない。
「少し話さないかい? 」
そんな風に誘うメグレン様。少々強引な方。
うんどうしてこう惹きつけてしまうのでしょう?
私が何もしなくてもメグレン様の方から寄って来る。
ああ罪な私。これでは他の令嬢に悪い。選ばれた他の方にも悪い……
そうか。あれは王子のお相手。だとすると今メグレン様のお相手は私しかいない。
王子を奪い合うのは当然としてもメグレン様まで巻き込むのは違う気がする。
ここは私がメグレン様の相手をして差し上げましょう。それが優しさ。
寂しいなら抱きしめてあげてもいい。とにかく優しく包んであげたい。
「ぜひ喜んで! 」
外で二人っきりで出かけようとするが断られる。
トルドの命令で出歩くことをを禁じられているそう。
まったくあの爺さんは余計なことばかりして。
仕方なく建物の中を歩いて回ることにする。
これがメグレン様の希望なら致し方ありませんね。
手を繋ぎたい衝動に駆られるが体が緊張で動かない。
もう本当に情けないな。どうしてしまったんだろう?
「メグレン様! 」
「ごめん。慣れ慣れしかったかな? でもマリオネッタはかわいいから」
そんな風に褒められる。ああどうしてこう積極的なのでしょう?
朝だから誰も彼も大胆になるのでしょうね。これは意図せざること。
小さな段差があるからと腕を掴まれてしまう。
もうどこまで大胆なのでしょう? このままずっと続けばな。
そんな夢を見る。でも現実はそう甘くない。はしゃいでる時ではもちろんない。
王子暗殺に巻き込まれる可能性が高い。その時メグレン様をお守りするのは私。
「ねえどうして私たちも選ばれたのです? 」
恥ずかしがってどうするの? 詳しく聞き出さなくてはいけません。
緊張も取れリラックス。腕だって足だって問題ない。
もう心配なので思い切って腕を組んで歩くことにした。
ああこれはもう夢ではありませんよね? どうかこのまま二人きりでいさせて。
それが叶わないならいっそのことこのまま……
不謹慎なことを考える。もう相当酔っているらしい。でもおかしいお酒など……
「ねえってば! 」
つい甘える。これは嫌われたか?
「おいおいマリオネッタ。くっつき過ぎだし甘えてるぞ」
「それは…… 」
ダメ。強い想いを知られてしまったかも。これでは恥ずかしくて耐えられない。
「ははは…… ハッチみたいだな」
つい口から出るメグレン様の矛盾した感想。
これはどう言うこと? ハッチとは即ち王子のことで。
そのようにお呼びするのは国王様ぐらいでしょう。
あるいは王子の母であるクイーン・メカルカル様のみ。
ですがご病気で数年前に…… 実質王子をハッチと呼ぶのは国王様のみ。
それなのになぜメグレン様はハッチなどと気安く呼ぶの?
それが昔からの付き合いだとしてもどうしても納得できない。
続く




