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第二十話

「私はあなたに・・・お会いしたことなんてないのですが・・・」

もしかしたら、私が負傷して寝込んでいるときにでもお世話になったのかもしれないと思い、聞いてみた。そのときにでも、かなから私の愛称を聞いていたのかもしれないし・・・。

恐る恐る聞いた私の質問に、目の前の人離れした美貌を持つ彼は笑った後で言った。


「別に、会ったことなんてないよ。君と会ったのはこれが初めてだ」

なるべくなら、良い方向へとの考えは一瞬で砕かれました。

人離れした美貌の彼の笑顔はどことなく、企んでいるような感じがしました。


「でも、お会いしたこともないのに名前を・・・」

「そのくらい知っているよ。それで、君はどうしてここへ?」

納得のいかない私の質問に、『知っている』と答えた彼。追い討ちをかける様に言った言葉。

「かなちゃんを置いて、どうして君はここにいるのかな?」


私のことも、かなのことも知っている。

そして、私が今かなから逃げ出してここに居ることも、知っているのかもしれない。

でも、彼の質問に今の私は彼から視線を外してからしか、答えきれなかった。


「そ・・・それは・・・。別に、置いてきたわけじゃ・・・」

「まあ、大体は知ってるけどね。でも、まだ君は・・・かなちゃんの傍を離れるべきじゃない」

予想外の言葉に、私は顔を上げて彼を見た。

てっきり、『神銀の乙女』を置いてきてと責められると思っていたから。

人離れした美貌の彼は先ほどの、企みそうな笑顔ではなく無表情のような感じだった。

でも、その金色の瞳は真剣な眼差しのような気がした。

そんな気がした。


目の前の彼にしても、フーガにしても私を責めているようではなかった。


「あきちゃん。君は・・・この世界に望まれて来たわけじゃない。だから、かなちゃんの傍で自分の居場所を持たないと・・・つらいと思うよ」

目の前に立つ人離れした美貌の彼は、また私を『あきちゃん』と呼ぶ。

「・・・あの、どうして私を『あきちゃん』と呼ぶのですか?それと、あなたのお名前は?」

彼は、少年にも青年にも、壮年にも見えた。年齢がわからない。

自然と言葉は畏怖を含めて、敬語口調になる。


「嫌だった?」

首を少しだけ傾げるしぐさ。男の人なのに、全然違和感がありません。

「いえ・・・。ただ、知りたかっただけです」

最初はすごく驚いたけど、なんだか話していてこの人はこんな人なんだと納得し始めてる自分が居る。

「名前は・・・。今は教えてあげない」

今度は、悪戯を思いついたように楽しそうに笑った。彼は私が思ってたよりも、表情豊かだった。

「そう・・・ですか。わかりました」



そう長くは無い時間だけれども、名前も知らない彼と私との間に沈黙がおりた。

「私は・・・望まれて来たわけでは、ないのですね」

先ほど彼が言った言葉。

自分でも薄々勘付いてはいたが、いざ言葉にされると思った以上にショックだった。

何が原因なのかは私にはわからないが、私はかなのおまけのようにこの世界に来てしまったらしい。


誰しもが少なからず持っているだろう、特別な何かになりたいという気持ち。

大多数の人間が、現実と向き合い平凡な人生を歩む。

極極一部の人だけが、特別な何かになれる。


ただでさえ、違う世界に飛ばされるという稀有な体験。

自覚はしていた。異世界に来た事。そこには何か目的があって呼ばれたんだ。自分は特別な何かになれるのかもしれない、という期待をしていたことを。

現実なんてこんなものだ。

私はおまけ。


「そう・・・だね。かなちゃんのように、確かな目的があって呼ばれたわけじゃないけど・・・」

聞いてしまった。

彼の言葉が信じられるのか今はわからないけれども、私は聞いてしまった。


「生け贄になるよりかは、良いんじゃないのかな?」


『生け贄』。

生け贄となるということは、死ぬということ。

かなはこの世界に『生け贄』として呼ばれた?


「生け贄って・・・どういうことですか・・・?」

驚きのあまり、私は立ち上がり目の前の彼に食ってかかった。

「生け贄ってなによ!?かなは生け贄としてこの世界に呼ばれたの!?」

勢いのまま、私は彼の胸ぐらを掴み揺さぶった。

「ねえ!答えて!!」

揺さぶられるまま、彼は悲しそうな表情で言った。

「・・・君たちを・・・元の世界に戻す力を持つものは居ないから。・・・異世界から来た『神銀の乙女』がどうなったかを調べてみるといいよ?」


かなが・・・この世界のために命を落とす。

それが、かながこの世界に呼ばれた理由。

もし、生け贄として呼ばれたということが本当なら・・・。

どうすれば・・・いいんだろうか?

かなに死んで欲しくなんてない。

一緒に、元の世界に戻りたい。

どうすれば、生け贄とならずに済むのだろうか?


「・・・どうすれば・・・いいの?どうすれば、かなを助けられるの?」

きっと今私は、悲壮感の漂う表情なんだろう。

昼間、あれだけ泣いたのに、また泣いてしまいそうだ。

「・・・・」

「お願い!教えて!かなが死ぬなんて嫌!!」

目の前の人離れした美貌の彼も、とても悲しそうな泣き出しそうな表情に見えた。



「どうした?」


後ろからフーガの声が聞こえた。

視線を目の前に居る彼から外し、フーガの声のした方向を見る。

目を逸らしたその一瞬、目の前に居る彼の胸ぐらを掴んでいた手から、布の感触が消えた。


慌てて視線を戻すと、つい先ほどまで目の前に居た彼は、そこには居なかった。

掻き消えたように、その場には誰も居なくなっていた。

私がただ一人で立っていた。


すぐ周りを見回しても、あれほど存在感を放つ人はどこにも居なかった。

周りには、誰も居なかった。

誰も、居なかった。

私は一人だけで、中庭に立っていた。

逃亡中の主人公に話しかけてきた金色の人。でも、あんまり金色を強調し損ねた気がする。


ものすごく遅い更新となってしまいました。申し訳ありません。

遅くなっても頑張って更新していきますのでお付き合い願います!

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