第二十一話
「何を一人で騒いでいる?」
呆然と、先ほどまで金色の人離れをした美貌を持つ彼が居た場所を見ているままの私に、フーガは近寄りながら話しかけてきた。
「あ・・・え・・・?あの、一人じゃ・・・なかったんですけど・・・」
「?」
要領を得ない発言に、フーガは少し首をかしげた。無表情だけど、なんとなくその仕草だけで彼が何を言っているんだ?って思ってるのが伝わってきた。
「今は、話さない方がいいよ」
しどろもどろに答えようとする私の耳に、先ほどの彼の声が聞こえてきた。
まだ近くに居るんじゃないかと、つい周りを見回してみたが、やはり居なかった。
姿は見えないが、声が聞こえてきた。もしかしたら、フーガにも聞こえたんじゃと思い聞いてみる。
「今の声・・・聞こえました?」
「声?君の声か?」
フーガの答えに、理解した。
漫画とかや小説などである、個人にしか聞こえない声。きっと先ほどの彼の声は、それと同じ類だったんだろう。
ならば、それを説明するのは難しい。下手な説明のしかたをすると、頭の変な人という印象しか与えない。今私にその印象がつくのは、まずい気がする。
「いえ、空耳だったようです」
そう言って、フーガを見上げる。
自分じゃ上手く出来ているかわからないが、笑顔を浮かべたつもりだった。作り笑顔を。
先ほどの金色の彼と話して得たことは、私がこの世界に望まれていないこととかなが『生け贄』にされるかもしれないという二つの情報。
この情報を信じることができる根拠は何もない。
根拠は何もないが、頭から信じないこともできない。
今の私には、信憑性の高くないこの二つの情報を忘れないことが大事なんだと思うことにする。
「あの、思ったよりも遅かったですね」
体感として半時くらいに感じていた。実際もっと短かったとは思う。あの金色の人のせいだ。
「ああ、すまなかった。これを持って行けと怒られた」
そう言いながら、フーガは左手を差し出した。
差し出した左手に持っていたのは、布を被せたバスケットだった。
「これ、何ですか?」
差し出されたバスケットを受け取り、フーガに聞いてみる。勝手に開けていいものか、差し出されたんだから開けても良いとは思ったが聞いてみた。
フーガが答えるより前に、受け取ったバスケットが主張していた。
ぐぎゅるるる・・・
わ、私は悪くない!と思いたい。
受け取ったバスケットが悪いんだ!
ものすごく美味しそうな臭いをさせてるんだもん!
夜ご飯だって食べてないんだし、お腹が鳴いたって仕方ないじゃないか。と、自分に言い訳をしてみる。
先ほどまでフーガを見上げていた顔を下げ、縮こまるしかなかった。
「本当に待たせてしまったようだな」
「これ、ご飯なんですね・・・?」
「ああ、そうだ。広間にあるような豪華なのではないがな」
私は恥ずかしいやら情けないやらで頬を高潮させながらフーガを見上げると、彼は少し目を細めていた。多分、今彼は笑っているのだろう。
私は第一印象でフーガは無表情なんだとばかり思っていた。
でも、彼はただ感情を表に出して表現するのが下手なだけなんだと、思い始めた。
よくよく気をつけて、彼を観察していればその表情の変化はわかりやすかったからだ。
フーガは中庭にある私が最初に座っていたベンチに腰掛け、こちらに座るように促した。
「食べるといい」
大人しくフーガの隣に座り、渡されたバケットからご飯を頂く。
中に入っていたのはサンドイッチのようなものだった。というか、サンドイッチ。
見た目も、味も、食感も変わりないし。何より、料理の名前を聞いたらサンドイッチだと教えられた。
一年に一度ある『女神の祭典』で行われる大会で優勝した国がその年女神からの祝福として、様々な技術や新しい作物または一年災厄に見舞われないといったような恩恵が受けられるらしい。
サンドイッチなどに使うパンは、どこかの国が女神の恩恵として頂いた料理の技術の一つだったそうだ。今ではそれが世界中に広まり、一般的な食事として食卓に並ぶまでになった。
そして、明後日にある『聖帝の祭日』で行われる祭りの一部に、『女神の祭典』にスニクス国として出展する物を決定する大会も行われるらしい。
なんだか思ったよりも、身近に感じる女神のようです。
食事をしながら、夜空を見ていたので大きな月と小さな月について聞いてみた。
「大きな月を銀月と呼ぶ。夜の闇に怯える我々人間のために、女神のその深き慈愛の心によって空に浮かべられた。小さな月は金月と呼ぶ。女神の弟神が銀月を支えるためにと浮かべたと言われている」
そう説明された。フーガもバスケットの中からサンドイッチを食べている。
彼は食事をせずに私を探していたのかなと思うと、とても悪いことをした気がしてきた。
しかし、銀月と金月か。
今の私は金月と聞いて、金色の先ほどの人を思い出していた。
せっかくなので、少しだけ私たちの世界のことをしゃべってみた。
私たちの居た世界では、月は一つだけだということ。
月の光が霞むほど、強い光を使っているということ。
昼も夜も関係なく、家族のためとずっと働く人が居るということ。
そして、かなの家族のことと私の家族のこと。
家族の話を聞いている間、フーガは少し辛そうな感じに見えた。もしかしたら、自分に置き換えて考え、哀れんだのかもしれない?
その証拠に、『辛いだろうな』と聞かれた。
これに私は苦笑いするしかなかった。
かなの家族の話をした今だからきっとわかってもらえると思い、私よりもかなの方が立場的に辛いと思うんです、と言った。
そうしたら、フーガは『そうか』と言っただけで、それ以上は聞いてこなかった。
少しだけ、それを安堵した。
あまり、聞いてきて欲しくなんてない。
フーガに胸のうちをすべて吐露できるほど、まだ彼のことが信じられなし、迷惑をかけたいわけじゃない。
まだしばらく、この世界に厄介になりそうな気がするから。
今はまだ、耐えられる。
耐えられなくなったら、そのときにでも考えればいい。
もし、そのとき感情をすべてぶつけれる様な相手が居なければ考えよう。
食事も終わり、時間的に戻るようにと催促された。
人の気配とかが解るわけじゃないが、遠くで聞こえていたような喧騒とかは聞こえなくなっていた。
広間に向かうまでの通った廊下に似た場所も、明かりが所々消えてさらに暗くなっていた。
フーガは最初、クラウがかなにしたように腕を差し出してきたが、私はそれを首を振るだけで拒否した。
後ろだと何かあったとき対応が遅れるからと諭され、フーガの隣を歩くことになった。
部屋に戻るまでの間、フーガとの間に会話らしい会話というのはなかった。
それでも、乗馬のときに比べると幾分気が楽な沈黙だった。
主人公人間不信ってわけじゃないよ?多分。素直じゃないだけです。
そして、フーガの性格は不器用と完全に固定になりました。後はこれを頑張って表現していくだけ。
かなちゃんが全然出てきません・・・。次しっかり出てくる予定!




