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「ちょっとちょっとお姉ちゃんこの小説読んでみて。あー私にもイケメンの王子様が迎えにきてくれないかなぁ。」
「何言ってるのよ。男はお金よ。もー夢ばっかり見て。」
「お母さんてば、お父さんの前でお金って言っちゃダメでしょ。」
「お前達に彼氏はまだ早い。」
「あなたってば固いんだから。これぐらいの年の子は彼氏ぐらい2.3人いるわよ。」
「お母さん、彼氏は1人だから。ねーお姉ちゃんは顔とお金ならどっちをとる?ちょっとお姉ちゃん聞いてる?」
「もーうるさい。」
あれ?
目を開けると、小さな白い花が辺り一面を覆い尽くしている花畑にいた。
「ここは?」
さっきまで私はどこにいたんだっけ?夢を見ていた?どんな夢だったっけ?
思い出そうとすると頭に霞がかかって思考が纏まらない。
ええっと。
少し落ち着こうと自分の頬に触れる。なぜか私の頬は涙で濡れていた。
悲しくも嬉しくもないのに涙が止まらない。
「泣かないで。」
「ここにみんないるよ。だから泣かないで。」
「笑って。笑って。」
「みんないるから楽しいよ。」
「そう。そう。楽しい。」
いつの間にか私の周りは沢山の小さな光の玉に囲まれていた。その光は意志を持つようにふわふわと自由に漂っている。
その内の1つが私の目の前に踊るようにやってきた。
「会いたかった。やっと会えた。だからとっても嬉しい。」
「えっと、あなた達は何?森の妖精?私と会いたかったってどういうこと?」
私は纏まらない頭で必死に疑問を言葉にした。
「私達は約束。約束したからここにいられるの。」
「そうそう。だからまた約束しよう。」
「今度はどんな約束?」
「うんうん。楽しみ。」
目の前に沢山の光の玉が集まってきて前が見えない。
「あのね。約束って言われてもよく分からないの。それに、ここってどこなの?」
集まってきた光の玉はきゃっきゃと私の髪で遊び始めた。質問には答えてはくれないようだ。
この不思議な光景を眺めながら私は、自分の思考を平常へと戻していく。
周りを見渡すと、木々に囲まれていて人の気配はない。空には月が高く上り、もう夜の遅い時間のようだ。
白い絨毯のように咲き広がっている花は、まるで月の光のように淡く光り、この一帯を照らし出していた。
「どうやって帰ろう。」
「帰っちゃうの?」
「なんで?どうして?」
「約束は?」
私の一言に、光の玉がまたわらわらと集まって騒ぎ出した。
少しずつ数が増えている気がする。
「ウィル.....」
光に囲まれ身動きが取れなくなる恐怖に、私はペンダントを強く握りしめた。
「遅くなってごめんね。」
聞きたかった、優しい声。
温かい腕に抱きしめられて、頭を撫でられる。
泣きたくなるぐらい安心出来るこの腕の中で、私は顔を上げることが出来なかった。
「リルは返してもらうから。」
ウィルの怒った声が頭上に響く。
「帰っちゃうの?何で?」
「でもこいつ嫌い。」
「この魔力嫌い。」
「本当にヤダねー。」
「でも約束はどうするの?」
また私の髪へイタズラが始まる。私への抗議なのか、さっきよりも力が強い。
「リル、目を瞑って、僕に掴まってて。いいよって言うまで離しちゃダメだよ。」
ウィルは、私の頭を抱え込みしっかりと私を抱きしめる。
思わず目を閉じてウィルにしがみつくと、温かい魔力に包まれ、足元の感覚が無くなった。
「いつでも待ってるからね。」
頭の中に一つの声が残った。




