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剣の雨が止むと、グルンナインの近くにいたはずのジルトニスの姿はなく、影縛りも解除されていた。
おそるおそる歩いてみると地面が妙に固いことに気がつく。驚いたことに足下が剣で埋め尽くされていたのである。
「な、何がどうなってやがる」
目の前には一本の剣が突き刺さっていた。
「私はここです」
それはジルトニスの声だった。彼は巨大な剣でできた椅子……いや玉座に腰掛けていた。
彼へと続く王への道は剣で敷き詰められ、まわりは逃亡ができないよう、不規則ではあるが、剣が所狭しに突き立てられていた。
「はじめましょう。開演・剣王の玉座を」
「ふざけるんじゃねえ! こっちはそんなもんに付き合うきはねえんだよ!」
「私は、あなたの火竜を完全にトドメはさしていません。ですが、あと一撃を与えれば浄化されることでしょう」
スッとジルトニスが指を指し示した先。そこには一本の剣が突き刺さっていた。あたりが急に暗くなったかと思うと、その剣のところだけスポットライトに照らされる。
「火竜を救う方法はただ一つ! その剣で私を倒すこと!」
「ふざけるな! てめえは得物が数多じゃねえか!」
「私は剣は使わない! 私はこの拳でお相手しよう!」
それを聞いたグルンナインは少しだが、勝機を見た。
「おもしれぇ! その言葉を忘れるな!」
グルンナインは剣を抜き、ジルトニスに挑みかかる。これでも剣の心得はあるのだ。生半可な相手には負けるつもりはなかった。
ジルトニスは玉座からゆらりと立ちあがり、グルンナインを見据える。
「死ねええっ!」
グルンナインのかけ声と一緒に剣が頭上の右斜め上から迫ってくる。ジルトニスの両手に剣が握られた様子はなく、相変わらず手ぶらだ。
「この剣は持ち主の心の強さが強度になる」
ジルトニスは剣を左手で受け止める。普通なら手も一緒に頭からかち割られることだろう。だが、剣はその手に握られている。その手は剣で切り裂くこともできなかったのだ。
「弱ければ握りつぶされる!」
左手に握られた剣からピシリというヒビが入る音が響く。ジルトニスが左手に力をこめると剣のヒビがどんどんと広がり、やがて剣は粉々に砕けしまう。
「う、うわあああ!」
グルンナインが発狂する。すぐさま逃げようとするが、体が動かない。彼はいつの間にか影縛りされていたのだ。
「これにて終劇――」
ジルトニスのアッパーがグルンナインの顎に直撃をする。ゴキッと言う顎の砕ける音が響き渡ると同時、グルンナインは上空に投げ飛ばされ、そのままジルトニスの後方にいた火竜の頭上に顔面から落ちるときにグシャッという音を立てた。
ジルトニスは横顔だけを背中に向けて、こう言い放った。
「――超神拳!」