第14話 捜索者
腕時計の針が示すのは9時ちょうど。
今年の色沢高校文化祭、そして色沢美術館創立25周年記念展示の始まりを知らせるチャイムが鳴る。
オレの目の前には、噂の『勇壮な翠玉』がケースに入れられて展示されている。もちろんケースは柵で囲まれているが。
「あれが、数千万の価値がある宝石か」
一端の高校生にその金額は「凄く高い」ということしか分からず、規模などの感覚は全く持てない。
文化祭は始まったばかりで、この4階には関係者の姿しか見えない。今頃玄関では来客がゾロゾロと入っているのだろう。
オレが今いるのは「生徒会準備室」という、もともとは生徒会で使う書類や資料を保管する部屋らしい。ちなみにオレがここに入るのは今日が初めてだ。
どうやら生徒会の提案でここを使うことにしたらしい。
宝石を飾っている展示ケースも生徒会からの提供らしい。
部屋には、入り口と出口に警備員がそれぞれ1人ずつ、計2人が立っているが、宝石からはかなり距離がある。今のところあの2人の働きは看板と同じだ。だって立ってるだけだし。
ふと廊下を覗くと、遠くから1人の男が曲がってきた。
色沢高校の制服を着て『生徒会』と書いてある腕輪を付けている。
その男——生徒会書記は、斜め下を見つめながらこちらに歩いてくる。
挨拶しても良いのだが、このタイミングで会っても話すことが見つからない。
書記が顔を上げそうにないことを確認して、オレは静かに出口へ寄った。
そして書記が入り口からこの部屋に入るのと同時にオレは出口から廊下へ出た。
すぐに傍の階段へ逃げ、部屋をなるべくバレないように覗き込む。
書記は部屋を見渡し宝石に真っ直ぐ歩いていくと、柵の前で立ち止まり宝石を見つめる。
その瞳には憂いが浮かんでいる気がした。
暫くして、書記は入り口側の警備員に近づき、
「ご苦労様です。1つよろしいでしょうか。僕より先にこの部屋に本校の生徒が来ませんでしたか?」
「え?ああ、君が入ってくる直前に男の子が居たと思うよ」
「ほ、ほんとですか?男子だけですか?他に女子はいませんでしたか?」
「そうだね、男の子1人だけだったよ」
「その男子の胸に付いている校章は赤でしたか?」
「うーん・・ごめんね、そこまでは覚えてないなぁ・・」
その返事に書記は「そうですか・・」とトーンを下げて退室した。
口調はかなり落ち着いていたが、明らかな焦りを声色が示していた。
入室時に部屋を見渡したこと、そしてさっきの警備員への質問・・。
あの男は、『誰か』を探しているのだ。
そして俺は、その『誰か』の候補者を4人知っている。
男なら2年生、女なら1年生か2年生だろう。
つまり・・
「恐らく、あの男は『探偵部の誰か』を探しているんだろうな」
行方不明者は、捜索者《書記》の背中を見つめてそう呟いた。




