【1】ー8 魔物の望み
「全員揃っているな?」
教官が一通り見渡して確認すると、よしとつぶやいた。
「知っている者もいるとは思うが、そろそろ対抗模擬戦の時期だ」
教官はそう言うと、黒板を使って説明を始めた。
対抗模擬戦は、各学年ごとで実践に近い形式で試合を行い優勝を争う行事のことで、通常の教育機関でいう体育祭のようなものだ。しかしこのときに良い結果を残すと、それに応じた成績をつけられる、というメリットもある。
「詳しくは廊下にでも貼り出しておくから見ておけ」
教官の説明後、こそこそと生徒たちが騒がしくなる。期待と不安が、五分五分というところか。これからの頑張りが直に反映されるので、気合が高まる生徒たちだったが、しかし、教官は生徒が喜ぶことをよしとしない人柄だった。
「まあ、おまえらの実力には期待していない。せいぜい足掻いてこい」
本人は激励のつもりだろうが、これで生徒たちのモチベーションは半減だった。
それをまるっきり第三者的な目で見るのは、レヴァン。フロルは緊張し始めたアミナを「応援してるからね!」とプレッシャーで追い詰めていた。
そんな様子を目に留めた教官が、思い出した、というように口を開いた。
「レヴァンとフロルも参加しろとの決定だ」
その瞬間、場が凍った。
レヴァンとフロルも驚きを隠せない様子で教官を見つめている。他の生徒達の視線はレヴァンたちの方へ集中している。
「……決定って言いましたよね? 誰のですか……?」
恐る恐るといった感じでレヴァンが尋ねると、教官はサラリと答えた。
「誰って……監視者だが?」
「監視者っ!?」
浄魔士を統括する存在であり、政府の議会と同等の権力を持つほどの人が?
そんな疑問を口にしようとしたレヴァンであったが、同時に気になることもできた。
「……フロル? どうした?」
フロルがなにか嫌なことを聞いたように、眉をひそめていたのである。
「……ううん。なんでもないよ」
しばらくの沈黙の後にそう返すフロル。大丈夫なわけがないのだが、考えにふけりだしたようだったのでレヴァンは尋ねることが出来なかった。
そんなやりとりも生徒たちの目にさらされている。気にした途端、渋面を形づくってしまうレヴァンだったが、笑顔を浮かべている者もいた。
「…………レヴァン、フロル、私負けない、から」
「あ、ああ。そりゃ俺たちも負けらんないな」
「う、うん。そうだね」
アミナの嬉しそうな声にフロルも現実世界へ帰還する。
とてつもなく微妙な空気に耐えられなくなる前に、教官は特に何もなかったように連絡を再開した。
「近々模擬戦も行われるため、この際、実習も形を変えることにした」
疑問符が飛び交い始めたその場を一喝して鎮めた後、詳しい内容を口にする。
「これからグループに分かれてもらう。メンバーは自由だが、目安は五人だ」
分かれろ、という言葉で席を立って生徒たちは戸惑いながらもグループを形成し始める。レヴァンたちはそのまま動くことなく座ったままだった。
「よし、分かれたな。登録してやるから、リーダーを決めて申請しに来い」
全員教官の指示に従う。レヴァンたちのグループは、本人以外満場一致でフロルがリーダーに決まり、
「やだなぁ、そーゆーの」
とかぐちぐち言いながらも、フロルは申告に向かった。
教官は生徒たちの申告を聞きながら、同時に手際よく出席簿のようなものにその内容を書いていく。やがて、フロルも申告した。
「アイヤネンたちは二人でいいのか?」
そう教官が言ったとき、その内容を理解したのは何人いただろう。
「やだなぁ教官。俺、フロル、アミナで三人じゃないですか」
そうレヴァンが反論すると、その返事を待っていたかのようにすかさず教官は切り返した。
「ん? おまえは人間じゃないからな」
「…………いや、そうですけど」
一瞬音を立てて固まった空気を、レヴァンが言葉をつなげることで緩和した。しかし、この教官の一言はギリギリであるとその場の全員がそう思った。
「冗談だ」
そのため、教官のこの言葉はなんの助けにもならなかった。周りの生徒は気まずい顔をしたままである。
しかし教官はそんなことを気にした様子もなく、口端をニヤリと持ち上げた。
「ま、劣等生を一人と数える気はさらさらないがな」
「ひどッ!?」
「文句言う前に、成績を残せ、成績を」
このやりとりに生徒の大半が苦笑し、幾分かいつもの空気を取り戻すのだが、
「レヴァン……」
「大丈夫」
心配そうに見てくる幼馴染を一言で収め、レヴァンは微笑む。それだけで、長年の付き合いであるフロルは追及するのはやめた。レヴァンにとってはありがたかった。
「そういうわけだ。各々切磋琢磨し、己を磨くように。以上」
時計を見て危機感が出たのか、強引に話をまとめる教官。実際のところまとまってなどいないのだが、教官に逆らえる者などいない。結局、そのまま終わってしまったのだった。
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「はッッ!!」
烈帛の気合で放たれた相手の掌底を、手首を返す動きで軌道をそらしてかわす。最小限の力で洗練された防御だった。そのまま相手にできた隙を逃さないよう、指先を伸ばした突きを打つ。
「ッ!?」
驚愕とともに距離をとろうとする相手に、さらに詰め寄る。そして右の手のひらを広げ、掌底の形を作る。近過ぎる距離から強力な攻めは出来ないはずだった。
そう判断したのか、相手はその攻撃を防ぐ手を片手だけにし、もう一方の手でカウンターを叩き込もうとしているのだろう。相手が力を溜めるのが分かった。
しかし慌てることなく、空いている手を肘に当てる。ここが狙い目だった。
「やぁッ!」
かけ声とともに肘にある手で、自らの肘へ掌底を放つ。その掌底は右肘を思い切り伸ばし、結果、
「…………かはっ」
超近距離であるにもかかわらず、強力な掌底を放つことになった。そんな攻撃を片手で防ぐことなど出来るはずもなく、相手はバランスを崩す。そこにすかさず、
「私の勝ちだね、アミナ」
フロルはアミナの鳩尾へ拳を押し付けていた。
「…………うん」
実習の時間。第一修練場にて。グループ毎に分かれて訓練をしていた。教えを請いたいときは自ら教官のもとへ赴くという仕組みで、これから実習の形式はこのようになるらしい。
招魔という「力」が生み出されてまだ年が浅いため、熟練した浄魔士が貴重なこの時代。そのため、教官は少ない。教える側の不足を補うには仕方ない方法であった。
「にしてもアミナ、強くなったよね。最初は私も少し手加減してたけど、今は必要ないよ」
純粋な感嘆を含んだフロルの言葉に、アミナは感謝で答える。
「…………フロルの武術、レヴァンに?」
続けてかけられた質問に、フロルは目を丸くする。
「……よくわかったね?」
「…………うん」
続けて、
「…………私が強くなる、のも、レヴァンのおかげ」
とややうつむき気味でそう言った。不思議に思ったフロルがアミナの顔を覗き込むと、その顔は桜色になっていた。それを見てフロルがなにかを考え込む。
「……これは早急に対策を考えないと」
「…………?」
「いや、うん。アミナは気にしなくていいからっ」
焦ったように取り繕うフロルに、アミナが逆に不思議そうな顔を向けたとき、周囲の気温低下とともに二人は残りのメンツのことを思い出した。
その当人たちを見るといまだ修練の途中だった。
「小僧、右手の魔力が薄まっているぞ」
「くッ……!」
ミグルスが放つ氷の弾丸を、レヴァンが魔力をまとった腕で弾く。異なる個体の魔力は反発する性質があるため、魔力の皮膜さえあれば強力な魔氷といえども腕が凍りつくことはない。
しかし、デメリットもある。反発するということは、それだけ衝撃も強くなるということなのだ。うまく衝撃を受け流さなければ、腕を折ることもあり得る。そのため、怪我をしている方の腕をレヴァンはなるべく使わないようにしていた。 応急手当の魔法で怪我は目立たない程度までふさがっていたが、回復したかと言われるとそうでもなかった。違和感がしばらく残るのだ。
しばらくそんな応酬を繰り広げ、体術に優れるレヴァンも次第に動きが鈍ってきた。
「どうした。先程までの威勢は虚言か?」
「……ぬかせ……ッ!」
言葉とともにレヴァンの動きが速くなる。それにミグルスは好戦的な笑みを浮かべると、
「……って、ちょ、おい! これ、まじ、速す――」
加速したレヴァンが対応出来ないほど、氷弾の射出間隔を短くした。
じりじりと下がっていくレヴァン。ミグルスは間隔を緩めることはしない。
「……この……くそッ」
レヴァンは悪態をつくと、くるっと一回転。すると氷弾の一つがミグルスの方へと飛んでいく。絶妙な力加減と巧みな柔法で返したのだった。
「フッ」
驚いた様子を笑いで隠して、ミグルスはそれを避ける。レヴァンは舌打ちを鳴らす。
氷弾を撃ち落とし、ときたま反撃を試みるレヴァンに、容赦なく射出し続けるミグルス。それが長い間続いた後、目を細めてレヴァンを眺めていたミグルスがふと言った。
「小僧。基本魔力は操るものだ。操られるようになるな」
「……わかってるよ」
「同時に魔物の力そのものでもある」
氷弾を緩めて語りだしたミグルスに訝しげな視線を送るレヴァン。それに気づいたのかどうか。ミグルスは構わず続けた。
「この世の理を一部分にしろ改変してしまう大きな力。魔力というのは魔物が操るというその仕組み上、その個体の望みを叶えるとき、より大きな働きをする」
だからどうしたと言いかけるレヴァンを遮って、話は続く。ついには氷弾を撃つのをやめてから、その小さな黒犬はレヴァンの目をまっすぐ捉えた。レヴァンは意味が分からずとりあえず話を聞いていた。
「おぬしはその魔力で何を望む?」
だから、子犬が放った疑問の返事を、
「……」
レヴァンは言葉にすることが出来なかった。
「何の話してるの?」
「…………訓練、終わった?」
「あ、ああ。終わったよ」
助け舟的なタイミングの二人にレヴァンはすかさずのっかる。ミグルスは呆れたような顔をして、その場から離れた。また他の生徒達に食べ物をもらいに行くのかもしれない。
その小さな後姿を見送ってから、レヴァンは思考を切り替えた。
「二人も組み手は終わったのか。どうだった?」
すると二人はお互いに不足していると思う技術について言う。
「私は足運びかな? 相手との距離がつかめないの」
「…………体勢を崩されたときの対処」
二人に技術的な工夫を教えた後、レヴァンは精神的な指導もする。教育機関ではしないような方法であったが、少女二人には合っているようだった。
体術の訓練が一区切りつくと、次は魔法の訓練。フロルが教師役となって残りの二人に指導する――
「……フロル、寝不足か?」
はずが、レヴァンの疑問に進行が滞る。
「え、なんで」
「くまが出来てる」
自分の目の下を指し示すレヴァンにフロルは苦笑した。
「ちょっと夜更かししちゃって」
「魔法使うのに大丈夫か?」
魔法は失敗すると、爆発するという厄介さがある。それを含んだ質問だったが、フロルが「だいじょぶだいじょぶ」と気楽に言うのでレヴァンは心配をやめた。この幼馴染は滅多なことで失敗というものをしないのでそこまで心配していたわけではなかったが。
「それじゃ始めるよ~」
今日は光系にしよっか、と地面に模様を描いていくフロル。それは光系発散魔法の陣で、数秒ほど強力な光源を生み出すという目眩ましの魔法だった。
地面に描かれた魔法陣を見てまず動いたのは、アミナだった。
「…………がんばる」
小さな手をぐっと握って気合を入れると、右手を宙空に掲げた。そのまま同年代平均以上の速度で地面のものと同じものを形作っていく。
そのまま危なげ無く描くこと数秒。やがて魔法陣が出来上がった。その瞬間、陣の中心に顕現する拳ほどの大きさの球体。それが突如強烈な光を生み出した。少ししてそれもなくなる。
一連の様子を見たフロルは、学校の備品である遮光板を目から下ろして、うんうんと頷いた。
「アミナ、よかったよ!」
ぐっと突き出した親指に、嬉しそうな顔でアミナは応える。しばしの間そのように喜びを分かち合ってから、
「じゃ、次はレヴァンね」
と、フロルはレヴァンの方へと向いた。しかし、レヴァンは、
「ッッッッッッッッッッッッ……!?」
目を押さえて地面を転がりまわっていた。
「……いったい何してるの?」
フロルが呆れたように、アミナが驚いたように目を丸くしている先で、レヴァンはようやく動きを止める。そのあと、呻くように、
「目がいてぇ……」
とつぶやいた。
「もしかしなくても、さっきのアミナの魔法をまともに見たの?」
「……だからどうした」
「光系魔法って言ったのに」
フロルが呆れたため息をついた。
「…………大丈夫?」
「あ、ああ。悪い」
心配したアミナがレヴァンを助け起こす。礼を言って立ち上がったレヴァンとそれを心配のまなざしで見るアミナはもうすっかり仲良くなったようだった。
「始めるよ」
「……どうした、フロル? なんかムッとしてるけど」
「……してないよ。早く準備して」
「わ、わかった」
何故か発生した威圧感に言葉をつまらせながらもレヴァンは準備する。
地面の魔法陣をよく見て大体を覚える。そして気合を入れ直すと、その指先に力を込めた。
「ってちょっと! 魔力多すぎ!」
「そ、そうか?」
言われたことを正すように集中して、続ける。
しかし、レヴァンが丁寧に描いていても、
「線が曲がってる!」
「わ、悪い」
……。
「魔力がまた濃い!」
「っとと……!」
…………。
「円がゆがんでる!」
「まじかよ……ッ!」
………………。
「もー、どれだけ間違ってるの」
一つ一つのプロセスで必ず注意が入り、時間もかかる。すでにアミナの三倍ほどの時間が経過していた。
そんななかでレヴァンもだんだんイライラとし始める。これほど神経を使うのはレヴァンの得意とするところではなかった。だから、
「レヴァン、もっと速くまっすぐ――」
「あああああ! もういい! 俺には無理だッ!」
そう叫びながら腕を思い切り振り下ろすのも仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。しかし、熱くなった頭は直後に一気に冷めることになる。
「「あ」」
フロルとアミナ。二人がつぶやいたのが聞こえ、何気なく自分の目の前に視線を戻す。先程までそこにあった魔法陣は未完成のままこの世の理を変えることなく役割を終え、すでに消失してしまったはずだった。
「……」
――だったのだが、そこにはまだ魔法陣が残っていた。客観的に見てぐにゃぐにゃに描かれた上に、最後の一本は必要以上の力で引かれたため、それに引っ張られる形で形を歪めていた。そして最も重要なのは、魔法陣は手順だけで言うなら完成しているというところにあった。
魔法陣が光り輝き、
「えっと……」
描かれた魔法陣に沿って魔力が循環し、
「あの……」
しかし魔法陣の歪みから魔力が滞り始め、
「これって……」
そして、
「青春は爆発だっ!?」
反発する魔力どうしが反応を起こし、爆発を生じさせる。
最も近くにいたレヴァンは、迫り来る恐怖に意味不明な言葉を叫びながら爆発、爆風に飲み込まれていった。
「……怪我もしてないなんて。私もびっくりだよ」
「別に助けてくれてよかったんだけど」
驚いた顔をして覗き込んでいたフロルに、レヴァンは地面に転がったまま軽口を返した。爆発の直前、フロルはアミナの後ろへ隠れ、アミナは顕現して現れたミグルスが守った。今は、ミグルスが呆れ尽くしたような表情をして去った後だ。アミナも最初の頃のように過度に心配する様子はない。慣れてきたということなのだろうが、こんなことに慣れられても正直レヴァンは嬉しくなかった。
「…………大丈夫?」
それでも心配してくれるアミナに、レヴァンは心を和ませる思いだった。
「ほら、大丈夫なら立った立った」
「お、おいっ、ちょっと……」
突然そう言うフロルに不思議そうな顔をしながらも、レヴァンは力を入れて立ち上がる。多少関節がきしむ感じがするが、動かす分には問題ないようだった。魔法の失敗をしてこれだけで済むということがすでに異常なことであるが、レヴァンの身体は頑丈であるのだった。
「なんか最近扱いが酷くないか?」
「そう? そんなことないと思うけど」
感じることが思い過ごしかどうかは、レヴァンには判別できなかった。しかし、ここ最近のフロルがなにか変わった気がするのも思い過ごしとするのは難しい気がした。
「そ、そういえば、最近冥種が増えてるらしいね」
なぜか焦った様子のフロルの話題転換に、レヴァンの意識も現実へ戻る。そして、その話題が興味深いものであったため、へえ、という顔をした。
「そうなのか?」
「うん。なんか、シレンティアの周囲でけっこう目撃されるらしいよ」
冥種は浄魔士にとって最も危険な相手とされている。そのため、それが増加傾向にあるという知らせは、嫌な知らせ以外の何物でもなかった。
ふーん、と納得した様子のレヴァン。しかし、もう一人はそうもいかなかった。
「? …………なぜ、知ってる、の?」
「え?」
疑問で返すアミナに、予測してなかったのかフロルが聞き返す。
「…………報道でそのニュース、入ってない。もしそれが、本当なら――」
ここで、少し考えるような仕草をした後、
「――物見塔の職員しか知らない、はず」
アミナが言うのと、フロルの顔色が驚愕に染まるのは同時か。
「……どゆこと?」
一人状況がわかっていないレヴァンの発言だったが、フロルにはさらなる追求に聞こえたようだった。
「え、えっと……わたし、実は物見塔に知り合いがいるの」
なぜかしどろもどろ気味に話すフロル。頷くことしかしないレヴァンと違って、アミナは何かを探ろうとするように、じっとフロルを見つめ続けた。その表情をひとしきり見て、
「…………そうなの」
とつぶやいた。
「?」
アミナやフロルの変化についてはわかるものの、その原因が分からないレヴァンは口を出すことができない。
「んじゃ、さっきフロルが言ったことがホントなら、浄魔士が大変になるってことだよな」
だから、話を続けることに専念した。すると二人もそれに乗って話を続ける。
「うん。それに合わせてはぐれも増えるかもしれないって」
「…………はぐれ」
話題が話題なだけに明るい声では話さないが、雑談感覚で話し続ける。そんななか、アミナがふとつぶやいた。
「…………そういえば、あのときも」
「……ああ」
アミナが言っているであろうことを思い出し、レヴァンも声を漏らした。
「え、え? 何の話?」
一人だけ分かっていないフロルが、ものすごい勢いで食いついてきたので、レヴァンは大雑把に説明する。先日、はぐれに襲われたときのことを。
驚愕に染まりきったフロルの顔を見ればわかるとおり、はぐれなんてものはめったに出会うことなどなく、最近問題視され始めたほどなのだ。
「ち、ちょっと! それってかなり危ないことじゃない!」
驚愕がそのまま心配に変わったフロルが、大きな声で言う。そのおかげで周りで訓練している生徒たちがこちらを注視する。
「フロル、目立ってる」
「……ご、ごめん」
慌ててトーンを落とすフロルを確認して、今度はアミナの視点で説明を開始した。しかしその説明は、
「…………とてもかっこよく、て」
とか、
「…………冥種と互角に、戦ってた」
と、自分を褒めちぎるものばかりでレヴァンは照れ死んでしまいそうになった。
「…………それで、レヴァン、助けてくれた」
そこで頬をさっと赤らめるアミナ。先程からの褒め殺しで同じく顔の赤いレヴァン。その二人を見て、
「……ふぅん」
フロルは大層不機嫌だった。しかし、すぐににっこり笑う。
「そんなことがあったんだ?」
「……フロル? なんか目が怖いぞ」
思わず後ずさりするレヴァンに、フロルは深い笑みのまま自然な感じで腕を掲げる。
「訓練、しよっか」
フロルはそのままその手を動かし始めた。残るのは蒼い軌跡。
「…………レヴァン、頑張って」
「ちくしょうッ!! 俺、なにか悪いことしたか!?」
本能と持ち前の反射神経で、レヴァンはダッシュでその場に背を向けた。




