【3】ー6 特別授業
訓練着へと着替え、第一は第四学年が使用中だったため、第三修練場へ集合する。そこにいたのは黒一色のラフな服装をしたヒュームと、守護士用の青と白のジャケットを着たオクタヴィア。その後ろで何やら教官と相談をしているケイナ。
レヴァンたちはファミグリアで固まって、クラスメイトたちに加わった。
「うし、全員揃ったか」
見渡してうんうんと頷くと、ヒュームはバッと手を振り上げた。
「魔闘士目指してる奴は俺より右、後衛のやつは左な。……ほら、移動しろー」
その指示に従って全員が動く中、レヴァン、リン、ハンス、カナンはその集団から外れた。フロルとアミナは後衛の方へと移動する。
全員の動きが止まったところで、ヒュームがオクタヴィアを呼ぶと、パンパンと手を打って皆の注意を引いた。
「はい、注ー目ー! んじゃ、改めて。俺は『絶対零距離』ヒューム。よろしく~」
「私は……名乗らなくてはならないのか?」
当たり前だろ、と小突くヒュームに嫌そうな顔をしてから、やがて諦めたように口を開いた。
「『遣竜魔導女』オクタヴィアという」
二つ名のあんまりな出来に笑った生徒全ての額に、指先ほどの魔法弾をぶつけるオクタヴィア。その力量の高さに、皆唖然としていた。
さすが守護士。さすが頂点。生徒の間からそんな声が漏れる。それを受けてヒュームはニヤリと笑った。
「おいおい、なに感心しちゃってんだ。おまえらも俺らぐらいにならなきゃ、戦力にならないんだぞ?」
厳しい現実を突きつける。自然と暗い表情になった全員を真面目な表情で見た後、パンパンと手を打って注意を引きつけた。
「んじゃ早速訓練を始めるぞ~。魔闘士希望は俺に、後衛は魔導女様に教えを請いな」
「魔導女言うな」
オクタヴィアのツッコミをスルーし、「俺についてこい!」と何故かテンションの高いヒュームは修練場の奥の方へと、猛烈な速度で走りだす。それに遅れながらも、男子生徒の大半は追いかけていった。
「では、残りは私が――」
「えーっと、オクタヴィア先生? 私たち装器士志望なんで、自主練します」
オクタヴィアが訓練を開始しようとした時に、リンが手を上げてそれを遮った。その様子を見て、ふむ、と唸ったオクタヴィアは何故かレヴァンの方をちらりと見る。
「そうか。ならばやむを得ないな。残念ではあるが」
お許しも出たことなので、レヴァンたちはいつもの場所でいつも通りの訓練をするため、その場を離れたのだった。
他のみんながコーチ付きで実のある練習をしている中で、レヴァン達はのんびりと時間を過ごしていた。朝に身体を動かしていたので、今ここで積極的に鍛えようとは思わないのだ。
「おい」
そのとき、ハンスの常に不機嫌そうな声がレヴァンを呼ぶ。「なんだよ」と言いながら、レヴァンが振り向くと、ハンスは存外真面目な顔をしていた。
「あの二人……てめぇのことをマークしてやがった。一応気ィつけておけ」
レヴァンは目をぱちぱちと何度か瞬いた。
――自分が二つ名持ちの守護士に目を付けられている?
そんな訳のわからない話を聞いて信じられない思いだったが、ハンスの言うことだと思い直して聞き入れることにした。ハンスは根拠のない忠告をするような男ではない。
「わかった。ありがと」
そう言うと、ふん、と顔を背けて黙想に入ってしまった。まったく……このツンデレめ。そんな感じで苦笑したレヴァンはそのハンスをしばし眺めた後、自分も黙想をしようと目を閉じた。
そして、ここで戦慄を感じたものが一人。
「ふ、二人の距離が一気に縮まっています……!」
そして、対抗心に燃える目を黙想しているレヴァンに向けているカナン。このままではハンスが取られてしまうかもしれない。そんな嫌な考えを抱いて「負けません……っ!」と拳を握る。
そんな真剣な彼女の様子をすぐ横で寝っ転がっていたリンがくすくすと笑いながら見ている。
一応扱い的に装器士志望ということになっている四人は、こうして久々にのんびりと寛ぐことが出来たのだった。
一方、フロルたちは。
「……皆と別れちゃったね」
「…………うん」
遠くへと離れていくファミグリアの面々を渋々見送って、フロルがつぶやく。それにアミナも同意した。彼女たち二人は、ファミグリア全員揃った練習じゃないためにやる気が下がってしまっていた。
自分たちは残りのメンバーに比べて接近戦は弱い。そのためこうして後衛の授業を聞きに来ているのだが……予想以上に、メンバーが揃わないことで集中を欠いていた。
「いいか、聞きたまえよ? そもそも魔法の攻撃は、我々が認識している物質としてのものとは限らない。魔力という無形のものが原料なのだから、形やその法則まで自らである程度定められるはずなのだ」
オクタヴィアが後衛志望の生徒(大半が女子なのだが)を自分の前に集合させ、魔法の仕組みについて説明している。確かにこの部分の理解を欠くと、その効果を発揮することはできない。
……ないのだが、それはフロルやアミナにとっては違った。
「レヴァンたちと一緒にいればよかったかも……」
今さら後悔しても遅い。結局、魔法の根幹理解と属性陣(魔法の属性を決める魔法陣)の練習に留まった。
「はぁ……次から自主練にしてもらえるかな?」
「…………お願い、する」
二人は静かな意思を固めて、今回の授業を終えたのだった。
「どうだったよ? 俺らの授業は」
そう問いかけるヒューム。彼が連れ回した男子生徒たちは、一人の例外もなく全身痣まみれだった。なんでも、相手に密着したまま殴りあうという荒訓練をしたらしい。
魔闘士には必須の技術とはいえ、なかなか手を抜かない教育姿勢に、レヴァンは好感をもった。だからといって、やるかと言われると別の話だが。
「後衛もお疲れ。魔法を結構使ったらしいな? 身体休ませとけよ~」
全員に向かって労いの言葉をかけるヒューム。その後、これからもこんな感じなのでよろしくといったような話が続いた後、ようやく解散となった。生徒たちが我先にとシャワー室へ向かう。
さあ行くか、とレヴァンがファミグリアのメンツと更衣室に向かう。全員とまず合流してから、雑談を交えながら歩き出す。
しかし、レヴァンは顔を瞬間的に強張らせると、バッと後ろを振り返った。




