【3】ー5 新任と兄妹とコント
「どういう意味ですか?」
「口で言うより、実際に見たほうが話が早い」
リンの手を上げての質問に教官がそう答えると、「入って来い」と教室の扉の外へ声をかけた。入ってくる人影は、三つ。
そしてその人物は、レヴァンたちの予想とは違った。
「……大人?」
教室の扉を音を立てて開いたのは、男だ。目鼻立ちが整った美形な顔つきに、それを引き立てるような逆立てた黒髪。軽い感じの印象を受けるが、教官と同じくらいの年齢だろう、青年と呼ぶのにふさわしい男だった。そして、その顔立ちは誰かと似ている。
その後ろには一人の女性。暗緑色のボブカットにピンを付け、凛々しい雰囲気を出しているその女性は、先ほどの男の後ろに付き従ったまま、その背後に控えた。
そしてもう一人、男に比べるとまだ幼い印象を受ける少女だ。年齢はレヴァンと同じか少し上。亜麻色の長髪を二つにくくってツインテールにした小柄な体躯をしていた。しかし、その自信に満ち溢れた表情は、その小柄さを意識させない。独特の雰囲気をまとった少女だった。その姿は、男子生徒たちの視線を釘付けにしていた。
「いてっ。何すんだよ」
「「……なんでもないよ」」
理由もない足への攻撃に、レヴァンはフロルとアミナに視線を向ける。すぐにそらされた。納得いかないまま、レヴァンは視線を前に戻す。なんだか前にもこんなことがあった気がする。
その三人が教壇に並んでレヴァンたちと向き合うと、教官が説明のために口を開いた。そして、男と少女を指さす。
「今日からこの二人も特別講師として貴様らの指導に加わる。男のほうはヒューム・スピノラ。女のほうはオクタヴィア・アマビスカだ」
その教官の言葉に、
「あんまり強そうじゃないけどな……特にあの男の人」
リンがコソコソとつぶやく。それをレヴァンは首を小さく振って否定した。
「いや、あの人…………かなり強いぞ」
え、とリンがその言葉を不思議に思った丁度そのとき、聞こえていなかったはずの壇上の男がレヴァンの方にニヤッと笑いかけた。
「よくわかってるな。俺様、結構強いぞー?」
おどけるようにそんなことを言う姿に、リンは驚く。そしてレヴァンは自らの確信を深めた。
「教官。その後ろの方は?」
そのやりとりを横目に、フロルが質問。それに、本人であるところの女性が答えた。
「私はヒューム様の世話役をしているケイナと申します」
「おいおい、世話役はないだろ。俺が何も出来ないみたいじゃん」
「実際、その通りかと」
「正直が良いとは限らないぜ……傷ついた」
「安心して下さい。何も出来ない訳ではありません。……何もしてもらわないほうがこちらとしては助かるのです」
「相変わらずブラックな奴だっ!」
小首を傾げるケイナ。それを見てヒュームががっくりと膝をつく。そんなコントみたいなやり取りを見て、生徒たちは反応ができない。そして教官は呆れるようなため息を吐いた。
「ケイナ。そこら辺にしておけ。話が進まん」
「すいません」
ヒュームを無理やり立たせ、前を向かせる。そして、教官は衝撃の言葉を口にした。
「この二人はそれぞれ二つ名を持つ守護士だ。貴様らの中にも目標としている者がいるだろう? この機会に色々学んでおけ」
ぽかん。直後に、教室全体に大絶叫サプライジングタイム。
それはそうだ。都市最強である守護士が、自分たちを教えてくれるというのだから。周りと同様に驚いていたレヴァンとリンに他のファミグリアメンバーが、えー知らなかったのという表情をしていた。
そして、サプライジングタイムは終わらない。
ヒュームが立ち直ってしっかりしたと思いきや、ファミグリアのいる辺りに向かってブンブンと手を振ったのだ。
「アミナー! お兄ちゃんだぞぉー!」
「「「な、なにぃっ!?」」」
これにはパルメル兄妹も驚愕。フロルだけは「まぁ、名前を見ればね」と余裕を保っていた。
そんな大騒ぎが苦手なアミナはボソリとつぶやく。
「…………ヒュー兄、嫌い」
「なんでだぁっ!?」
悲しみに叫んで、ヒュームは再びがっくりと膝をついた。
そんな騒がしい中で自己紹介を終了し、すぐに実習へと移ろうとするその場の面々。しかし、レヴァンは気づいていなかった。
「……ようやく見つけた」
自分を見つめる視線が壇上から注がれていることに。




