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招魔の祈り ~law distorters~     作者: 平山コウ
3.~都市アベリオン~
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【3】ー2  瞬間回復



 昼休み終了のチャイムが鳴る。

 それを聞いて、レヴァンは手元の本を閉じ、席を立った。その本を丁寧に元の場所へしまうと、そのまま図書室を出る。次は訓練の時間なので遅れると教官の鉄拳制裁が待っているため、遅れるわけにはいかなかった。

 レヴァンがファミグリア専用の更衣室へ向かう。以前は男女兼用のものだったそこは、レヴァンの要望が学校の方に通って男女で真ん中を可変式の仕切りで分けている。女子が出るまで待つ必要はないのだ。

 素早く服を脱ぎ、持ってきていた訓練着を着る。肌触りのいい布で作られた白に、黒の線が幾つか縁を走っている道着のようなものだ。これはカナンのお手製で、ファミグリア全員に同じものが配られている。しかし同じものとはいえ、そこは女子だからなのか、それぞれの訓練着で使う色を変えたりして工夫しているらしい。……レヴァンにはわからないが。

 肩を回し、関節を伸ばして訓練着を体に馴染ませて修練場へと向かう。その途中ですれ違う顔なじみと挨拶を交わしながら、レヴァンはファミグリアの面々が待つ場所へと向かった。


「遅いよ~」

「…………遅刻。パフェ」

「いや、それはもう勘弁して……」


 フロルとアミナの言葉にいきなりげんなりして答える。そして立ち話をそのまますることなく、すぐに訓練を始めようということになった。

 しかし、

 レヴァンたちの学年は突然の全体実習をすることになった。教官がスピーカーを使って招集をかける。それにハテナマークを浮かべながらも、全員が教官の元へ小走りで向かった。










 そして始まる捕獲競争。

 レヴァン、ハンス、リンの三人が逃げまわり、他の全員でそれを捕まえるという毎回恒例のものだった、のだが……。


「……ほんとにどうしたの? らしくないよ」

「……少し寝不足なんだ」


 後ろ手に縄で縛られ転がされるレヴァン。開始十数分で捕まってしまうという最短記録だった。

 いまだリンとハンスも逃げ回っている状況で、フロルとアミナ、カナンの三人が心配そうにレヴァンの顔を覗き込んでいた。レヴァンが縄を自力で解こうともぞもぞしていると、カナンが口を開いた。


「本当にどうしたんです? 最近、ずっと上の空のようです」

「そう?」

「はい。授業中は真面目になって、訓練では上の空で、それに頭も……いえ、とにかくおかしいです」

「お願いです。最後の内容を教えて下さい、気になります」


 冗談です、と微笑んでから、「こういう時はいつも通りみたいですけど……」と何やらブツブツつぶやく。レヴァンがすこしずつ引き始めた時、カナンはレヴァンに向き直った。


「とにかく、問題はないんです?」

「うん、元気元気」


 いつものように脳天気な笑顔を浮かべて肯定するレヴァンを見て、そうですかと納得したような声を出す。

 質問タイム終了を感じ取り、レヴァンがトイレアピール。フロルが縄を解除し、レヴァンはそそくさとその場を後にした。

 その後ろ姿が完全に見えなくなったのを確認してから、カナンは目の前で悲しそうな顔をした二人に話しかける。


「どうですか?」

「……やっぱり様子が変」

「…………考え事、みたい」


 フロルとアミナの考察を聞いて、カナンはうーん、と唸る。しかし原因も分からないため解決は不可能だ。


「なんだか覇気がないと言うか……」

「…………辛い顔、してる」

「そうですか……」


 三人でうむぅ、と考える。しかし、やはりいい考えは浮かんでこない。そのまましばらく考えていると、ふと「いやあぁぁぁぁぁぁ!」と悲痛な声が聞こえてきた。

 反射的にそちらを見ると、そこには教官に引きずられていくレヴァン。「あちゃー」と声を揃えて言うも、三人はただ合掌してそれを見送った。









「ほら、始めるぞ」


 教官の合図で互いに構える。そして、教官の片眉が上がった。レヴァンの構えに疑問を抱いたのだろう。


「変えたのか?」

「少しだけ」


 レヴァンの構えは以前より守りが手薄になっていた。そうかとだけ返すと、教官は開始を口にした。すかさず二者の距離がゼロになる。

 教官の先制ストレート。渾身の力が込められているらしく唸りを上げるそれを、以前のレヴァンは見極めてから安全に避けてから攻撃に移っていた。しかし、


「……なにっ!?」


 教官が驚愕の声を出す。

 レヴァンは拳の直撃だけを避けるように、すれすれの最小限の動きで躱した。しかし、教官の拳はただの拳ではない。巻き込まれた風が、局所的なカマイタチとなってレヴァンに及ぶ。

 それを受けないように今までは大きくかわしていたのだ。しかし、レヴァンにはこうできる理由があった。

 レヴァンの頬の皮膚が裂ける。少量の血も流れる……が、すぐに止まった。

 そして、その傷も瞬間的に“治った”。

 そのまま教官の懐で攻撃を振るう。最小限の動きで躱したため、体勢も崩れず、それはかなり強力な一撃だった。

 しかし、さすが教官。横から手刀を入れて、レヴァンの拳を安全圏に逸らした。

 同時に二人は距離を取る。


「……瞬間回復か。便利だな」

「魔物の特権です」


 レヴァンが唇の端を歪めてそう言うと、教官は鼻を鳴らして軽く笑った。しかし直後、表情を改めると、真剣な顔でレヴァンに忠告した。


「しかし、回復に頼るその戦闘……あまり良いものとは言えないな」


 再び教官が動く。それに続いてレヴァンも拳をぶつけていった。


「どうした、普段より荒々しいぞ」

「大したことじゃないです」

「……そうか」


 激しい応酬を繰り広げながらの会話。暫くの間、続いたかと思われたそれは、しかし、すぐに終わる。教官が突然構えを解いたのである。


「……え、教官?」

「もういい。おまえから闘気が感じられん」


 興味を失くしたようにそう言い、去っていく教官の背をぼーっと見送り、


「……戻るか」


 レヴァンは内心を外面に出さないようにしつつ、仲間たちの元へと戻った。

 仲間たちと合流して着替える。そのあと、喫茶店へと行く流れだったが、レヴァンは図書室に行くためにそれを断った。「ごめんな」と言いながら仲間たちの元を離れるレヴァンの背中を、


「……」

「……」


 二人の少女が悲しそうに見つめていた。



 



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