【3】ー1 少年と勉強と物思い
第三章スタートです!
ココからは急展開です。しかも、定期で更新できるかもわかりませんが、精一杯やっていきますのでよろしくお願いします!
パラ……パラ……。
静かな空間。西向きの窓から夕日が、その空間を幻想的に照らしていた。置いてある長机や椅子も茜色に染まり、空間の半分以上を満たす本棚も趣深い色合いに染まる。
場所は図書室。その一角であるところの机に座り、熱心に本を読む姿の少年がいた。
レヴァン・グラフェルト。
都市唯一の人型魔物であり、イレーネ浄法院の生徒である。
くたびれたような薄い水色の髪をしたその少年は、歴史書を読み漁っていた。
「これじゃ、ないなぁ……」
あてが外れたとでも言うようにその歴史書を元の棚へとしまう。そして、再びその手に新しい魔導書を反応防止用の手袋をつけて取ってくると、そのページを捲り、読み始めた。普段の彼を知っている人物が見たら、さぞ驚かれる光景だろう。
しばしレヴァンが読書にふけっていると、扉の音を響かせて図書室に二人の学生が入ってくる。レヴァンは無意識にその気配を読み取る。そのまま干渉しまいと本に目を落としていると、向こうの方から話しかけてきた。
「あれ、レヴァンくん?」
聞き覚えのある声にレヴァンが顔を上げると、そこには亜麻色の短髪を後ろでまとめた活発そうな女子である、ラナがいた。その横にはエンケもいる。
「ラナじゃん、どした? エンケも」
とりあえず社交的に言葉を返すと、「歴史の授業の片付けを任されちゃって」と苦笑気味の答えが返ってきた。それに「お疲れ」と声をかけて、二人の手元を見る。そこには確かに紙束や書籍などたくさんの資料があった。
「にしても、二人って一緒にいること多いよな? ……お、もしかして付き合ってたり?」
「えぇっ!?」
話の種がなくなったためテキトーな話を振ったレヴァンが、予想に反したラナの強い反応に驚く。その横で、エンケは苦笑していた。
「ち、違うよ違うよ。エンケくんは頼れるリーダーであって……」
「確かに。むしろレヴァンとそうなりたいのだろう、オールウィンは」
「きゃあああああ! 言わないでっ」
ラナが何やら恥ずかしそうに主張する。それを見てレヴァンは「俺は頼れるリーダーにはなれないな」と苦笑する。話に合わせたつもりだったが、エンケからは呆れた視線を向けられた。
「……まあ、頑張るといい」
「なにその微妙な励ましっ!? 私が何を頑張ればっていうのっ」
ラナがツッコむ。しかし、「言って欲しいのか?」というエンケの問いかけに「すいませんでした」と返すラナのやり取りを見て、新鮮なものを見た気になり、楽しくなった。
「にしても最近の訓練で頑張ってるよな、二人とも」
レヴァンがふと言ったその言葉に、「あぁ、チーム交流?」とラナが反応した。すると、エンケも真面目な顔でうむと頷く。
「冥種の危険性が更に上がり、浄魔士の強さも求められるようになったからな」
「だよねー。あの襲撃のとき、私全然動けなくて……落ち込んじゃったよ」
「そのためのチーム交流だろ? 他のチームのみんなと合同演習とかして実戦向きになったじゃん」
それでもねー、と意味ありげにレヴァンの方を見たラナ。それに続いてエンケもそうだなと同調した。レヴァンはその視線に「なに?」と尋ねた。
「いや、まだレヴァンのようになれない」
「ねー、救世主だもんね」
からかうような口調でそんなことを言う二人にレヴァンは苦笑だけを返す。二人とは訓練や教室での交流を通し、比較的仲が良い。自分が受け入れられつつあるという実感を得て、レヴァンはこれからも頑張ろうという気になるのだった。
「二人が持ってきたそれ、見せてもらっていいか?」
しばらくの雑談の後に、そんなことを言うレヴァン。それを不思議そうな顔で見返した後、二人は手にある資料たちを机の上に置いた。
「ありがとう」
そう言ってペラペラっと軽く中身を流し読み。先ほどまで収穫がゼロだったこともあり、それほど期待をしていなかったのだが……その考えは外れた。レヴァンの手が、あるページを開いたまま止まる。
ラナがレヴァンの手を覗き込むと、あー、と声を漏らした。
「魔人計画ね……」
「知ってるのか?」
「レヴァンくん知らなかったの? これ教科書に載るような史実レベルで有名だよ」
念のためエンケの方を見て確認を取ると、彼も頷いている。そして、ラナは少しむくれた。
「私の言葉だけで信じてよーっ」
「ごめんごめん」
そんなやり取りをすると、図書室の司書の先生が閉室を告げる。
「もうそんな時間か……」
「そういえば、レヴァンくん何してたの?」
「ちょっと調べ物をね」
それだけ言うと、二人の資料の片付けを手伝う。
レヴァンに感謝を言う二人に「いいって」と軽く返しながら、
「……」
魔人計画についての資料を、自分で分かる位置にしまっておいた。
「おはよ、レヴァン」
「……」
「……レヴァン?」
「…………あ、フロル。おはよう」
自分にかけられた挨拶にレヴァンが手を上げて返事をすると、挨拶の主、フロルはなぜか悲しそうな表情を見せてレヴァンの隣の席に腰を下ろした。
「どうした? なんか今変な顔してたけど」
「……失礼だね。なんでもないよ。レヴァン、元気?」
そう言って心配そうな顔を向ける幼馴染の顔に「心配ありがとう」と声をかけてから元気を主張する。
少し笑顔でほぐれたフロルの顔を見て、レヴァンは自分の荷物から次の授業の道具を取り出した。それを、フロルが信じられないものでも見るような目で見る。
「……レヴァン、どうしたの? 今まで授業前に道具の準備なんてしなかったじゃない」
「なにって、勉強のためだよ。予習もしてきたんだ……っておい! 俺の額に手を当てんなっ! 熱なんてないわっ!!」
レヴァンの言葉の途中から黙って手のひらで熱を測ろうとしたフロル。その手を払いのけてレヴァンは自らの準備に戻った。
「ごめんね。レヴァンが勉強なんて初めてだったから……レヴァン?」
「…………ん? あ、ああ、なんだ?」
「……大丈夫? なんだかぼーっとしてるけど」
再び心配そうな視線を向けるフロルに「大丈夫だって」と答えてから、レヴァンはフロルの後ろへ目をやった。アミナが登校してきたところだった。
「おっす」
「おはよう、アミナ」
「…………おはよう、フロル、レヴァン」
いつものように挨拶をかわしてからアミナがレヴァンの後ろの席に座る。それに合わせるようにして、エルゼ教官が教室へ入ってきた。
全員が席につき、教官から連絡。それも手早く済ませると、早速講義へと移った。
「――招魔の属性展開中、その影響を受けないのは発動者だけだ。それを利用し、相手をすぐに仕留めるか更に有利な状況を作るかは各々の戦闘スタイルによるが――」
カリカリ……。
「冥気は魔力と反発する性質が確認された。よって、それを受け止めるのではなく受け流すことが浄魔士が身につけるべき技術で――」
カリカリ……。
「……」
教官が講義をする口を塞いだ。話が急に止まってしまったことに生徒が不思議そうな顔をする。その沈黙が重くなり始めたとき、教官は労るような声で口を開いた。
「レヴァン。……保健室に行け」
「勉強をするのは、おかしいですかっ!?」
レヴァンが思わず立ち上がって抗議する。それに少し可哀想なものを見る目で応える教官。
「頭か……」
「おかしくありませんからっ!? っておまえらも笑うなよ!」
周りから漏れる笑い声に指を突きつけて注意する。そんな様子を見て、教官は苦笑を漏らした。
「ふ、すまない。珍しかったんでな。つい」
「つい、でイジらないでください……」
レヴァンが席についてがっくりと肩を落とす。それを見て再び教室中が和やかな笑いに包まれた。
「まあ真面目なのは良いことだ。そのまま継続するようにな」
教官はそれだけ言うと、再び講義の内容へと戻った。




