【2】ー21 魔導機兵と対抗策
久しぶりの更新です。戦闘パートが長くなってしまいました。
「了解、ご主人様」
いつものような気楽な口ぶりでそう言った後、レヴァンとフロルは前の敵を見据えた。すると、カクタスがその指先に魔力をちらつかせて立っていた。
「話し合いは終わったかな? 力は全部見せてくれないとね」
どうやら待っていたようだ。レヴァンはそれに犬歯を剥く笑みを見せて、フロルの手を握った。
フロルは一瞬顔を赤くし、そして真剣な顔に戻る。レヴァンに腕を活性してもらったのだ。魔力による肉体活性は、レヴァンほど魔力に親しんでいないと加減が難しい。
「魅せつけてくれるねぇ」
カクタスはそれに気づいた様子もなくニヤニヤと笑うばかり。レヴァンはもう一度不敵に笑った。
「勝負は……ここからだッ!」
一瞬、レヴァンの体がかき消える。そして、次の瞬間、機兵の身体に強烈な蹴りをお見舞いしていた。
機兵の巨体がぐらりとよろける。残念ながら高性能で倒れることはなかったが、それでもレヴァンの攻撃でよろけさせた。
「……すごいスピードだ。でも、機兵を先に破壊するのは無理だよ」
カクタスが魔法陣を展開する。その速度はかなり速い、が。
「させない!」
フロルが普段の倍近い展開速度を見せ、カクタスの放った氷の射出魔法を炎の防御魔法で遮った。それにカクタスが舌打ちを鳴らす。
機兵が再び攻撃を開始したため、レヴァンは機兵を引きつけるようにしながら、ステップを踏んでカクタスから距離を取った。
「……聞きたいことがある」
「なんだい?」
レヴァンがカクタスへ尋ねた。
「リンを苦しめたのは、おまえか?」
その声は強い苛立ちを含んでいて、それを必死に抑えようと力が込められていた。そんなレヴァンの質問を聞いて、カクタスは道化のような仕草で肩をすくめた。
「苦しめただなんて失礼な。あれは自分の意志で君たちを裏切ったんだよ」
「……嘘をつくな」
「本当だよ。大体、浄法院に近づいたのも僕の指示だったのだから、君たちに親愛なんて抱くはずがないだろう?」
まさか編入までするとは思わなかったけど、とカクタスが付け足すようにつぶやいた。そこでフロルがついに抑えきれなくなる。
「嘘! リンは私たちの仲間だよ!」
「仲間……ねぇ。そんな言葉が信じられるのかい? 所詮、所属を意味する単語だろう?」
「そんなこと――」
「……確かにそうだな。仲間っていうのは所詮言葉だ」
フロルが何かを言い返そうとした所で、レヴァンがそれを遮った。
「レヴァン……」
「でも、リンは俺たちを大事に思ってくれていた」
レヴァンは機兵の攻撃を紙一重で避けながら、思い出していた。エリカ先輩の口撃からかばってくれたリンの姿を。
「リンが仲間になった日々は騒がしくて、うるさくて……そして、楽しかった」
いきなり語り始めたレヴァンをカクタスが怪訝そうに見る。それを感じながら、レヴァンはその視線を睨み返した。
「楽しかったことを、否定はさせない」
そのはっきりと思いが込められた言葉に、カクタスは腹を抱えて笑った。
「ハハハハッ! 傑作だね! 君は知ってるのかい? あれが実は人間じゃ――」
「そんなことはどうでもいいんだよ」
は? と口を開いたまま固まっているカクタスに、吐き捨てるようにレヴァンは続けた。
「大事なのは、リンがいい奴かどうかってことだけだよ」
「そうだよ!」
フロルも同調する。冷静に、冷たい視線を送るレヴァンと、強い思いを秘めたフロルの瞳。その二つを向けられ、カクタスはため息を深く、腹の底から吐き出した。
「……くだらないな。どうやら君たちとは相容れないみたいだね」
「こっちにはそんなつもりはハナからない」
そうかい、と肩をすくめるカクタス。しかし、直後レヴァンは視線を彼にとどめておくことはできなかった。
機兵が再び魔法を使い始めたのだ。
「ちっ! フロル、作戦開始だ!」
「……わかった!」
レヴァンが咄嗟に機兵から距離を取ると、その場所を風刃が乱舞する。どうやらかなり高位の魔法も使えるらしい。
フロルがカクタスに牽制を打ち始めたのを確認してから、レヴァンは、
「はあッッ!」
機兵に向かった。
その不意をつくような動きは相手が人間であれば動揺を誘うようなものであったが、機兵にそんな機能はない。レヴァンの動きを分析し、その太い腕部分をレヴァンに振り下ろしてきた。
レヴァンは身を捻りながらそれをかわすと、そのままの勢いで回し蹴り。見事胴体に決まるものの、やはりダメージは薄い。たいしてブレることもなく、レヴァンを叩き落とそうと腕を振るった。
「ぐぅッ!」
レヴァンがそれを腕で防ごうとして、そのまま飛ばされる。機兵はレヴァンが着地をする前に追い打ちをかけようと、右腕部分をレヴァンに向けて真っ直ぐ伸ばした。
ジャキン、と音を立てて現れたのは、機兵の標準装備とも言えるマシンガン。
それを空中のレヴァンに向けて、機兵は引き金を引いた。
しかし、ここにいる誰もが予測できない自体に陥った。
「なッ!? そんなはず――」
カクタスが信じられないという風に驚愕する。その視線の先、機兵のマシンガンが弾詰まりを起こしていた。
それでも引き金を生き続ける機兵。その結果、やがてマシンガン自体が爆発し、機兵にダメージを与えた。
轟ッ!!とバランスを崩す機兵に向かっていくレヴァン。それをさせまいと、機兵が今度は左手部分の装備を開放し、レヴァンに向けた。
対戦車用の砲だ。
人に対して使われるべきでないそれを、機兵はレヴァンに向けて発砲した……筈だった。しかし、
「今度は何だ……?」
レヴァンとカクタスがつぶやく。狙われたレヴァンは無事で、周りに着弾した様子もない。左手部分から放たれたものは、しっかりレヴァンの足を“地面に貼りつけた”。
「と、トリモチ?」
レヴァンがつぶやくのに、馬鹿な、とカクタスが呻いた。
「リンめ……きちんと整備をしろと言ったものを……」
「これがリンの失敗だと思っているのなら……あなたの頭はメデタイね」
「なんだって?」
フロルが優しい声を自然と発し、それにカクタスがつっかかる。フロルはふふっと堪え切れない笑みを漏らしながら、胸を張ってカクタスに告げた。
「リンはとっくに正義の心に目覚めていたってこと」
カクタスが訳わからないという顔をして固まっている一方、実はレヴァンは危ない状況だった。
「く、くそ……ひっついて取れない……」
トリモチに地面へ縫い付けられ、レヴァンは動けないでいた。機兵とは三メートルほどの距離。攻めも守りもできない距離である。
それをしっかり分析したのか、機兵の目が赤く光る。今のうちにと言った感じで、魔法陣を描き始めた。
今度こそ仕留めようという考えなのか、描かれる魔法陣はかなり大きい。それに加え、複雑怪奇な模様で埋め尽くされている。
「アハハハッ! リンがなにかに目覚めたと言うのは理解できないが……これでどちらにしろ、研究材料が手に入る!」
カクタスが狂ったような笑いをあげ、レヴァンの方を見る。フロルも心配そうな顔を向けていた。しかし、それだけだ。
機械ならではの無駄のない動きで、機兵が魔法陣を八割方完成させたとき、それは起こった。
「ひっかかったな」
にやりと笑うと、レヴァンは脚に魔力を込めトリモチを強引に引き千切った。
「なにっ!?」
カクタスが驚愕するも、もう遅い。レヴァンは瞬間的に機兵と距離を詰めると、
「くらえッ!」
魔力をまとった右腕を機兵の組み立てる魔法陣に突っ込み、無茶苦茶にかきまわした。
「馬鹿なッ! そんなことをしたら君もろとも……!」
「レヴァンっ! ちゃんと成功させて!」
カクタスの言葉をフロルが遮る。レヴァンはそれに頷いて答え、右手を引き抜き、代わりに左手により一層濃い魔力をまとって、魔法陣を完膚なきまでにぐちゃぐちゃにした。同時に右手の甲に魔力を流す。
機兵はデータ予想外な敵の動きに混乱し、動きを鈍らせる。
その瞬間、魔法陣を流れていた膨大な魔力が、流れを滞らせ、爆発した。




