【2】ー6 依頼開始
そのまましばらく雑談で盛り上がっている内に、レヴァンは外が暗くなっていることに気がついた。
「うわ、いつのまにか暗くなってるぞ。そろそろお開きにしないか?」
それもそうだね、というフロルの声を最後に、全員が席を立った。
「……やっと終わったか」
ほっとしたような顔でそんなことを言うハンスに「おつかれ」と声をかけると、「ほんとにな」と返事。思わずレヴァンは苦笑いをした。
「おや、もう帰るのかい? またのご来店を待っているよ」
「はい、ありがとうございます、マスター」
ひょこっと顔を出したマスターに会釈を返してから、全員が扉を開けて外へ出た。冷えた外気が肌を触って身を震わせる。
「じゃあな、二人とも」
「はい、また明日です」
「……あばよ」
浄魔士として、浄法院の寮には住んでいないパルメル兄妹をレヴァン達は見送る。二人の姿を最後まで見届けると、人数が減ったためか、少し空気が寂しく感じた。
そしてレヴァンは残る二人に顔を向けた。
「行くか」
「そだね」
「…………うん」
三人はまだまだ続く話を続けながら、浄法院の方へと向かっていったのだった。
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「レヴァン……遅いなぁ」
外周西門。冥種の襲撃のショックが大きいのだろう、人がめっきり少なくなってしまったその場所は、洒落っ気のない門と相まって、なんだか寂れた雰囲気すら漂わせていた。
そして依頼の集合場所であるその場所に、フロルは腕を組んで立っていた。
隣でアミナがミグルスを撫でている。嫌がるような素振りを見せるミグルスとそれに構うアミナは、なんだか微笑ましい図になっていた。
「ほんと……なにやって――」
「悪い。遅れた!」
走ってやってきた自らの招魔を、確認してフロルは、まったく、と長いため息をついた。それに居心地が悪くなったレヴァンが「ご、ごめんなさい」と素直に謝罪。
「まぁ、まだ依頼の時間じゃないんだけどね」
「ならなんで今ため息をっ!?」
じろりとレヴァンを睨むフロル。依頼で指定された時間にはまだなっていないが、フロルが決めた集合時間を破ったのには変わりない。それをわかっているのだろう、レヴァンはもう一度謝った。
それからフロルが小言を続けること数分。やがて、他にも人がやってきた。
「あなた方が浄法院の生徒の方ですか?」
その声の方を向くと、門の方からやってくる二人分の人影。
一方はカツカツとハイヒールの音を響かせて歩み寄ってくる女性だ。その女性はフロルの前まで来ると自己紹介のために口を開いた。
「物見塔所属、自然資源調達課のイルナ・バースです。あなた方の依頼人でもあります」
「浄法院二年、フロル・アイヤネンです」
支障の出ない程度に最低限の紹介を互いに済ませ、「早速ですが――」とイルナと呼ばれた女性が説明を始めた。事前に聞いてた通り、資源車に乗り込み、害獣に襲われないよう護衛をする、というもの。
「怪我などはしないように。今回は重要度の低い資源にしてあるため、もしものときは放棄も出来ます」
「そうならないよう、依頼はこなさせて頂きます」
自信満々に言い切るフロルに対してイルナは目を丸くすると、口を綻ばせた。
「いい返事ですね。期待しています」
「はい」
いきなり啖呵を切り出したフロルに冷や汗が背中を流れるのを感じたレヴァンだったが、相手側も気にしていない、と言うよりも気に入ってもらったようでほっとする。
さすがフロルだな、と感心していると、袖を引っ張られる感覚。レヴァンが見ると、それはアミナだった。いつのまにかミグルスは消えている。
「…………挨拶。私たち、も」
「お、そうだな」
アミナに促され、挨拶を済ませるレヴァン。
よろしくお願いします、と互いに声をかわしてから、依頼人は連れていたもう一人を示した。
「こちらは今回同行してもらう用心棒です。浄法院の生徒だけというわけにはいかないので」
用心棒と呼ばれた女性が、挨拶に腰を折った。
フロルとアミナがそれに返すように会釈をした所で、レヴァンはハッと我に返って会釈をした。
「どしたの?」
「い、いや……」
――なんていうか、その……。
レヴァンがそっと伺うように用心棒の女性を見る。いや、女性というよりも若く、年はレヴァンたちと変わらないような少女だ。
「? どうかしたのかな?」
その少女が、特徴のポニーテールを揺らして明るい口調で話しかけてくる。その腰には六本の戦闘用ナイフ。
「……」
なんとも見覚えがある姿。レヴァンはとりあえず苦笑をしておいた。
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乗用車ほどもある双頭の害獣が、資源車から引き剥がされる。
四足歩行の素早い種だったが、レヴァンはその害獣の足に強い魔力を流しておいた。これで足止めにはなるだろう。
レヴァンは息を整え、資源車の後方から辺りを見渡し、危険がないことを確認する。
シレンティアの外に広がる荒野。そこには植物もなにもなく、生物はみんな突然変異をして凶暴化してしまっている。
その中でも特に黒の波動――先の騒動後、便宜的に「冥気」と名が付けられた――を有するものを冥種という。
資源車の上で害獣撃退の任を任されたレヴァンは、ふと自分にとって左側、つまり進行方向右側で柔軟をしている人影に目を向けた。
色落ち気味の茶髪でポニーテール。彼女はやはり、以前浄法院の敷地内で迷子になっていたリンだった。
イルナが助手席に行ってから顔色を気にしなくなったのか、リンは騒がしくレヴァンとの再会を喜んでいた。
その瞬間はムスッとしていたフロルとアミナであったが、レヴァンが紹介するより早くリンは自己紹介を行い、その勢いで圧倒してあっという間にフロルたちとも打ち解けてしまった。フロルたちが目を白黒させながらリンに応えていたのが見ていて面白かった。
リン恐るべし、と一人考察にふけっていると、
「どうしたの? さっきからこっち見てるみたい」
言われて気づくはもう遅い。レヴァンが目をそらすと同時に、リンはニヤリと笑った。
「にしし。アタシの魅力にメロメロかな?」
――メロメロって……。
もうなかなか聞くことのないフレーズに恥ずかしさを忘れ、レヴァンはリンに近づいた。きちんと害獣への警戒はされているのを見て、リンも拒まなかった。
リンの隣まで行くと、レヴァンは早速気になっていたことを聞いた。
「リンってさ、体術凄いな。装器士になろうと思わなかったのか? 特別な資格なんていらないだろ」
「え、アタシ? 無理無理」
最初から望む様子がないのを見て、レヴァンは内心首を傾げる。
「そうか? 並の装器士より強いと思うけどな……」
まあ、なりたくない理由があるのかもしれない。そう思って、レヴァンはその話題を打ち切った。
しかし、新しい話題が見つけられずにレヴァンは硬直を余儀なくされる。あまり話すことが得意というわけではないのだ。
「……じゃあ、アタシも聞いていいかな」
だからリンが口を開いたことにほっとして、先を促した。リンはレヴァンと真面目な顔で対面した。
「……レヴァっちは犬耳少女は好き?」
レヴァっち? 犬耳? 言いたいことは山ほどあったが、リンが本当に真面目な顔をしていたので、ツッコめなかった。
「ね、どうかな?」
答えを急かすようにリンが身を乗り出してきた。
「まぁ、嫌いじゃない……ていうか好きだよ」
質問の意味を掴みかねながらも、正直に答えるレヴァン。リンはその姿をじっと見つめて、やがてぷっと吹き出した。
「い、犬耳少女が好きだなんて!」
「わ、笑うな! それはおまえが――!」
「んー?」
「いや、なんでもない……」
なんだか反論するだけ惨めになりそうだったため、レヴァンは自分から折れる。よくわからないが自分が恥をかいて、心まで折れてしまいそうだ。そして一方、リンは可笑しそうに笑っていた。
しかし、顔をすぐに引き締めた。
「レヴァっち」
「ああ、来る」
もう呼び方はいいや、と投げやりに思いながら、資源車の進行方向を向く。そこには二、三体の害獣がいた。比較的大型のようだが、冥種でないだけましか。
「んじゃ、行くか」
「仕事だね」
レヴァンはハンスから借りたガントレットを装着しなおし、リンは腰のナイフに手を触れさせた。




