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招魔の祈り ~law distorters~     作者: 平山コウ
2.~ファミグリア結成~
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【2】ー1  模擬戦リターンズ

 薄暗闇の中。

 飾り気など微塵も感じられない通路。金属の部品を組み合わせて作られたそこは、どこか不気味な空気が漂っていた。


 カッ……カッ……。


 そんな音だけが響いてくるその空間には照明の類は見当たらない。しかし、何も無いわけではなかった。

 円筒型の水槽。

数えきれないほどのそれが、通路の両脇に並んでいる。そこから漏れる光が、照明無き通路を淡く照らしていた。

 そして水槽の中。

 全ての水槽に違う形状の生き物が、眠るように体を丸めてゆらゆらと浮かぶ。違う形状とは言ったが、全てに共通している特徴もあった。その生き物たちは、全て濃紫の身体をしていて――

 カッ。

 唐突に、そんな音が水槽の側で響いたかと思うと、そこにはいつのまにか一人の男が立っていた。


「……被験体からの抽出は困難、ですね」


 誰に話しているわけでもない。ただ確認するように、男は一人呟いた。シワひとつない顔を見ると二十歳そこらの青年を思わせるが、身にまとう雰囲気は落ち着いていて、その姿を実際より老けて見せている。身につけた白衣のポケットに手を突っ込んで、水槽を、そしてその内側に眠るモノを冷たい瞳で観察していた。


「……やはり、アレが必要のようですね」


 男は一つ頷くと、踵を返して来た道を戻るようにして、通路の奥へ進んだ。


「わざわざ取りに行くのも面倒臭いのですが……やれやれ」


 困ったような、それでいておかしくてたまらないという禍々しい笑みをその顔に浮かべて、


「それでは、取りに行きましょうか」


 男は薄暗闇の中に消えていった。



  ************************



 沸き上がる歓声。それは、壇上の選手が風魔法で敵の招魔を転がしたことに対してのものだった。

 招魔を一時的に無効化された契約者は、簡易の防護魔法を生み出すために陣を描く。相手が攻撃を加えるより先に、それを発動。とどめの一撃の筈だった雷撃はその効果を存分に発揮することなく水で出来た膜に阻まれ、消えた。


「……惜しかったなぁ」


 そうつぶやいて再び魔法陣を描き始める少女。雷撃が無効化されるとは思っていなかったために、少し悔しそうですらあった。

 ダメ元で風魔法を射出。それは体勢を取り戻した大猪の招魔に防がれた。相変わらずの巨体に少女はため息をつきそうになった。

 少女がスカーレットの髪を耳にかけ直す。その仕草を隙と見たか、相手である男子生徒――二つ上の第四学年だ――が大猪に攻撃を命じた。

 人間の身長の倍近い巨体に似合わない速さで突撃してくる大猪を、少女は見た。しかし、躱すことはしない。そもそも躱せるほど相手は遅くないのだ。

 大猪がフロルを目標に攻撃を加えようとした、そのときに、

 一人の少年が少女の前に躍り出た。大猪の牙を掴んでその動きを真正面から受け止める。その手足には、仄かに蒼光が宿っていた。


「……危ない真似するなよ、フロル」


「だってどうせレヴァンが守ってくれるんでしょ?」


 対戦相手の驚く顔を視界に収めながら、気楽そうに話す二人。「それにしてもさ……」と不満そうな顔をして、少年――レヴァンがフロルという少女を見る。その隙に大猪はレヴァンを突き飛ばすようにして距離を取る。フロルは右手で魔法陣を展開しながら、それに笑った。


「がんばって、私の招魔なんだしっ」


「楽しそうに言うなよ」


 招魔。契約によって、その主を守る役目を持った魔物。レヴァンは特殊な事例だが、フロルと契約する人型の招魔なのだ。


「じゃ、行くよ?」


「……はいはい」

 マイペースなフロルに応じるレヴァン。これから、事前に打ち合わせていた作戦を実行するのだ。


 フロルが、展開していた魔法を発動させる。それはフロルがかけ慣れ、レヴァンがかけられ慣れているものだった。

 大猪の視線がレヴァンへと集中する。生憎、人間には効果が無いようで、契約者の方は魔法の効果が理解できずに訝しげな表情をしている。それもそうだろう。この「囮魔法(ルアー)」はA級魔導書にしか載っていないような、マニアックな魔法なのである。


「レヴァンお願い!」


 後ろに下がって更に魔法を展開し始めたフロルの指示に、へいへい、と応じてレヴァンは大猪の方を見据えた。

 フロルの展開に焦って、相手も急いで陣を展開し始める。やはりここまで勝ち上がってきた猛者。魔法陣を乱すような事にはならない。

 そこまで観察してから、レヴァンは目の前の大猪に集中した。向こうの方も今はレヴァンしか見えていない状況。勢い良く猛っているのが圧迫感として伝わってきた。

 彼我の差が一気に縮まる。レヴァンは駆け、そして跳んだ。

 大猪は小回りが効かない。勢いに乗った巨体はそのまましばらく前に進み、勢いを落とした時点ですぐにでも振り返ってレヴァンに仕掛けようとする。

が、その頃にはレヴァンが背後から距離を詰めていた。拳を五回、大猪の背に一気に浴びせる。大猪は苦しそうな鳴き声をあげた。

 しかし、そのままでは終わらない。反撃として、振り返りざまに牙でレヴァンを突こうとする。それを予測したレヴァンはその攻撃が行われる前に再び跳んだ。

 振り返った猪の背後に降り立つ。全力の攻撃が空振りされ体勢を崩したその招魔を、


「……っはぁ!」

 気合一発。蹴り飛ばした。


 持ち上がることなど想像も出来なかった巨体が、低空飛行で空を舞い、壇上の端へと飛んでいく。


「……うわぁ!?」


 相手の生徒が驚いたような声を上げる。仕方ないことだ。大猪の巨体が自分に向かってきているのだから。

 魔法展開へ注意を払いすぎていたのか、相手の生徒は咄嗟に動くこともできない。結果として、その巨体に押しつぶされることに。その時に漏れた「うぐぇ」という声には、さすがのレヴァンも耳を塞ぎたくなった。

そして、


「びりびり~」


 そんな間の抜けた声と共に発動された雷系射出魔法が”五つ”。フロルの元から相手の元まで綺麗な放物線を描いて雷が走る。着弾と同時、相手側の契約者と招魔の聞くに堪えない叫び声が、試合終了のブザーとなった。


   *


「大勝利だね~」


「もう少し温情を見せよう、温情を」


 何気に嬉しそうな声で喜ぶパートナーに、レヴァンは苦笑気味に答える。「勝負に甘えは許されないんだよ?」とキョトンとした顔で言うものだから、レヴァンは背筋が寒くなったのを感じた。

 四試合目が終了し、今は選手控え室。そこにはレヴァンやフロルの他にも何人かの生徒がいる。自分の出せる力を出し切ろうと、絶えずウォーミングアップをしているようだ。レヴァンはそんな様子を見ながら、今回のイベントのことを思った。

 現在、中止となっていた模擬戦が行われているのだ。

 門の近くで行うのは危険と判断したのか、浄法院の修練場を全て使って開かれたこの模擬戦には、先日の倍近い人数の見学者がひしめき合っている。冥種の襲撃を受けたあのときに浄魔士の必要性が最認識され、議会の方も浄魔士育成に力を入れ始めた、と報道でも流れている。

 そして、当の浄魔士たちはなるだけ自分たちの部隊に戦力を引きこもうと、こうして隊長職だけに留まらず浄魔士の卵たちを見に来ているというわけだった。

 そして、そのことをレヴァンは他人事に出来なかった。


「フロル、今度は何処からもらったんだ?」


「えーっと……四番隊」


 なぜなら、フロルが勧誘を受けるからである。

 フロルが創作魔法を使うことはなぜか知られておらず、特異性を買われて勧誘されているわけではない。単に優れた魔法戦闘技術を見込まれていた。

 まあ、それだけなわけもなく。幾つかの部隊はレヴァンの物珍しさに興味を持って、という理由があるからのように思えた。


「ってあれ? 二番隊の誘いはどうしたんだ?」


 先の試合後にもらっていた二番隊の名刺が無くなっているのを見て、レヴァンが尋ねた。すると、フロ

ルが半笑いを浮かべた。レヴァンには、それが怒りを孕んだものだと理解できた。


「だってあそこ……レヴァンをまるで……」


 そこまで言って口をつぐんで、暗い顔で俯いてしまうフロルに、レヴァンはふっと笑った。


「ありがとな」


 なるべく優しく聞こえるように言う。フロルが顔をわずかに明るくしてハッとレヴァンを見る。レヴァンの言葉に自嘲の響きがないことを感じ取ったのだ。レヴァンが笑いかけると、フロルも微笑み返した。


『二学年のフロル・アイヤネン。三学年のラル・デリアス。次の試合の準備を始めてください』


 とそこで流れた出番を知らせる放送に二人とも「え、もう?」という顔をする。まあ勝ち上がったからかな、と瞬間的に納得して、お互いため息をついた。


「もう少しダラダラしたいな……」


「今回ばかりは同感」


 優等生のフロルの賛同を得て、サボタージュしようか悩むものの、自分だけの問題ではないのでレヴァンは頬を叩いてその考えを押しのけた。


「よし、行くか!」


 レヴァンは気合を入れて立ち上がる。その様子を微笑みで見つめていたフロルも、軽く足首を回してから立ち上がった。が、そのとき、


「お、おい!」


 フロルはバランスを崩し、そのまま体勢を崩す。危うい所でレヴァンが支えて、フロルは怪我をせずに済んだ。


「う……? おかしいな……?」


 フロルはレヴァンに咄嗟に謝って、少し身体に力をいれるようにしてみるも、ろくに体が動かせない様子。突然の事態に、レヴァンは慌てた。


「だ、大丈夫か? さっきの試合で怪我でも……」


「それはないんだけど……少し頭痛いかな」


 らしくない姿を目にして、レヴァンの混乱度も上昇。加えて、よく見るとフロルは額に細かな汗をびっしりとかいていた。レヴァンは今まで気づかなかった自分を呪った。


「と、とりあえず、試合は棄権にする。その後保健室に連れて行くから」


 仕方ないかな、と弱々しくつぶやく様子は今すぐどうにかなるという感じではなかったが、放ってはおけなかった。


「それじゃ、言ってくる」


 安心させるために笑顔を見せたレヴァンは、魔力で活性した脚で模擬戦本部の方へと向かった。




 第二章スタートです。

 第二章からは文字数を少なくして更新しようと思います。それによって更新も早くなるとは思いますが……正確には決まっていません。

 もっと気軽に読んでもらえるよう努力していきたいと思うので、これからもよろしくお願いします。

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