9 ビビりな『木』の神様
俯きながら庭園に戻ってきた私と、ヒルコさん。
その庭園には、今まで見たことのない顔の人物もいた。この人がおそらく、残りの神様なのだろう。
「たっだいま~!」
「……ただいま、戻りました……」
『『ヒルコ様、ハノメ様、お疲れ様でございます。お二人が外界に出ておられる間に、ククノチ様がお戻りになられましたよ』』
双子ちゃんは私が外界に行っても何もできなかったことを知っているのだろうか。わずかに微笑み返してくれるだけで何も言ってくれないけれど……自分が酷く情けなく思ってしまった。
そして、ククノチと呼ばれる神様に顔を向けると軽く頭を下げて挨拶をした。
「水鏡葉乃芽といいます……」
「はひ!は、初めまして!ぼ、僕は、ククノチといいます!」
?
えっと、ビビらせてしまったのだろうか。やけに怯えているというか、怖がっているというか……ビクビクしている様子のククノチさんに首を傾げてしまう。
「はは!ククノチー!お前のそのビビり癖は相変わらずかよー!ちょっとは慣れろって、俺らは仲間なんだからさ~」
「は、はひ……わ、分かってはいるのですが……はは、これは性格のようなものでして……」
ビクビクおどおどしているククノチさんは髪も瞳も見事に緑色をしている。そして他の神様と誰一人として同じ恰好をしていない。ククノチさんは複数の布が重なった民族衣装風の恰好をしていた。さきほど荒れた土地にいたからだろうか、ククノチさんのような人がいたらきっと素敵な森とかが復活するんじゃないかと考えてしまった。
「……で?ソイツは、何か出来たのかよ?」
ぎくっ
カグツチさんの言葉に体が強張り、何も言えなくなってしまった。だって、実際に何も出来ていなかったし、ただ怯えていただけだったし……。
「いや、何も?怖い場面に遭遇させて悪いことさせちゃったな~って、俺、反省してるところ」
「はは!やーっぱりな。お前、何も出来ねえんじゃねえか?ここに来られてるのだってきっと何かの……」
『『カグツチ様。ここにいるということは素質はじゅうぶんにありますよ。それ以上、ハノメ様をイジメないでください』』
「……へいへい」
『アホらし……』と呟くと、カグツチさんは花びらが舞う大木の根元でまた寝っ転がってしまった。ドグジンさんは双子ちゃんの近くに座りながら優雅にお茶を口にしている。そして、ヒルコさんはククノチさんをからかっては楽しそうに『わはは!』と大きな声で笑っていた。私……私は、この場にいて良いのかな……。この場にいること自体が、おかしいんじゃないかな、ってだんだん思えてきた。
「……あの、私……」
「悪い悪い!別に怖がらせるつもりで外に連れて行ったわけじゃねえんだけれど……やっぱ怖いよなあ……うん。ごめんごめん……」
『『……他の皆様も、ハノメ様はまだ力をじゅうぶんに発揮できない状態にあるので、くれぐれも外に連れ出すときにはご注意くださいませ』』
双子ちゃんは、今まで聞いたどの声よりも少しばかり怒りを含んでいるかのように周りの男性たちに向けて言い放った。でも、本当に怒りを向けた方が良かったのは私だったのかもしれない。だって、本当に私、何も出来ないんだもの。これじゃあ、足手まといにしかならない。こんな状態で、怨霊退治?に行ったって何もできないまま、怨霊とやらに倒されるのがオチだよ……。
『『ハノメ様。まずは、ここで心身ともにお休みくださいませ。焦ることはありません。むしろ焦りは余計に焦りを生み、良くないモノを引き寄せてしまいます。まずは、ゆっくりお休みください』』
「は、はい……」
双子ちゃんはそう優しく言ってくれるけれど、でも、きっと内心では焦っているかもしれない。やっと五人目の属性が揃ったというのに、私が能力に目覚めないせいで世の中のバランスが整わないのだから。だから、双子ちゃんもいつまでもあの姿のままで過ごさなくちゃいけない……どうしよう……。
「お、そうだそうだ。さっきの怨霊だけれどさー……って、ハノメ?どうした?」
「……え?」
「いや……気のせい、か……なんか、顔色が悪く見えたもんだから……まあ、今はゆっくり休もうぜ?ここって何度も来るけれど不思議だよなあ。ここに来ると疲れなんて一気に吹っ飛ぶし、心も落ち着く気がするんだ。だから、さっきの恐怖を少しでも和らげるために、休もう……な?」
ククノチさんは、今度はドグジンさんと向かい合ってなにやら話し込んでいるけれど、ククノチさんは時折、『ひえっ』とか『うぎゃ』とかって悲鳴を上げているのだけれど、そんな様子を楽しみながら話し込んでいるドグジンさん。ククノチさんの悲鳴にはびっくりするけれど、性格とかだって思えば、普通になんでもないように思えるようになるのかな。
大木から舞い散る花びらは、いつまで経っても止まる様子は無い。こんなにたくさんの花びらが舞っているというのに、花はまだいくつも咲いている。まるで、無限のように。
大木の根元に座って、大木を見上げると本当に次から次へと花が咲いては花びらが舞って、そしてまた新たに花を咲かせているんじゃないかと思えた。
『『……不思議、ですか?』』
「あ……はい。こんなに咲いて、舞っているのに……って、思っています」
『『実際に、この木は不思議なモノでして。いつまでも咲き、こうして花弁を散らせています。でも、この大木があることで皆様の心身を癒してさしあげられているものと考えて良いでしょう。外界に出て疲弊した体、穢れを持ち込んだとしてもここに来れば癒される……と皆さん仰っていますからね』』
双子ちゃんは私のことを気遣ってくれているのか、私の近くに座るとニコニコと微笑みかけてくれている。
「私、本当に……何かできるんでしょうか……さっきだって、何もできなくて、ヒルコさんにご迷惑ばかりおかけしてしまって……情けなくて……」
『『我々も……我々も、直接戦う術はありません。出来るのは外界とこことを繋ぐ道を作ることだけ、です。他の神様たちが傷を負い、ここに帰ってきたとしても何もしてさしあげることができません』』
「……でも、あなた方は力を使うことができて、みなさんの役に立てています。……私は……どうすれば良いのかさえ分からないんです……」
『『ハノメ様……』』
情けない、自分が情けなさすぎて、泣くこともできなかった。
俯いた私の近くに影ができたものだから、思わず影のできた方向へ顔を向けると、そこにはドグジンさんの姿が。
「双子さんも仰っていましたが、焦ることはありませんよ。こうして、五名の属性が揃ったことさえ素晴らしいことなのですから。力については、これからゆっくりと考えていけば良いだけのこと。それまではゆっくり、お茶でも飲んで過ごしていきましょう」
ドグジンさんが言うとまた何処からともなく黒子さんたちが現れて、新たなお茶とお茶菓子を用意してくれた。このお茶とお茶菓子ももしかしたら、私や神様たちにとって良い作用でもあったりするのかな……。実際に、お茶からは普通のお茶だけじゃないような……とても、イイ匂いがする。
『『こちらのお茶は、この大木の花びらを使っています。そしてお茶菓子も花びらを練り込んで作っておりますので、心身を内側から癒すのにぴったりだと思いますよ』』
「……無くてはならない、存在なのですね」
「……それは、お前だってそうだろ。今はまだどうなるか分からねえけどよ……これから、もしかしたら凄い力が出せるようになるかもしれねえじゃねえか。お前はなんで、そんなにマイナスに考えているんだよ?」
意外にもカグツチさんからフォローされてしまった。だって、何もできない、ただ見ているだけなんて情けないと思うじゃない。何かしたいのに、何もできないなんて悔しいだけじゃない。ぎゅっとスカートの端を握りしめながらしばらくの間、俯くことしかできなかった。
一応、メインとなる五行属性の神が揃いましたね。良かった良かった!
それぞれに性格があって、それぞれに戦い方があって、それぞれに存在している意味がある……と皆さんが考えているのですが、なかなかに自分を認めるっていうのは難しいことですね……。
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