第131話 砂糖吐きそう……
「負け……ました……うう」
「ふふ。リベンジ成功ね」
そう言って、先輩は、横で対局を見ていた僕にピースサインを向けました。
放課後。将棋部の部室。再会の挨拶もそこそこに、死神さんと先輩は、以前約束をしていたリベンジ戦を始めたのでした。結果は、見てのとおり、先輩の勝利。
「二枚落ちの練習、しておいてよかったわ」
ニッと笑みを浮かべる先輩。机に突っ伏して「うう……」と声を漏らす死神さん。対照的という言葉がこれほどまでに似合う場面というのもそうないでしょう。
その時、不意に、死神さんがフラフラと立ち上がりました。そのまま、ゆっくりと僕に近づき……。
「し、死神さん!?」
ギュッと僕に抱き着いてきたのです。
「…………」
「え、えっと……」
「……慰めて」
「…………」
「……早く」
「……はい」
なでなで。なでなで。
僕は、ゆっくりと死神さんの頭を撫でました。死神さんの綺麗な白銀色の髪が、僕の手の動きに合わせて優しく揺れます。
「……ニヒヒヒヒ」
「……もういいですか?」
「まだ。もっともっと」
「……分かりました」
僕は、死神さんの頭を撫で続けます。
「砂糖吐きそう……」
先輩の不満げな声。チラリと先輩の方を見ると、先ほどの笑顔はどこへ行ったのやら。苦々しげな表情を浮かべています。
「私も、お姉さんくらい積極的になれば、部長ともっとイチャイチャできるのかしら? じゃあ、今度会った時に……」
顎に手を当てながら、何かを考え出す先輩。一体何を……。
「よーし、充電完了!」
その時、部室に響き渡る声。どうやら、死神さんの元気が戻ったようです。
僕から離れ、先輩に向き直る死神さん。つられるように、先輩も、死神さんに向き直ります。
「先輩ちゃん、もう一局だよ! 次は負けない!」
「ふっ、のぞむところよ」
二人の対局。リベンジ戦のリベンジ戦というわけの分からない対局が、今まさに始まろうとしています。
「君」
「はい」
「ちゃんと傍にいて、応援してね」
「分かってます」
死神さんの言葉に、僕は力強く頷きます。もう、死神さんの傍にいられなくなるなんて、ごめんですからね。
僕たちの将棋は、まだまだ終わらないのです。




