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70歳の一人部活  作者: 種田潔
17/19

小川の少年

4月になると河川敷に行って投擲練習を始めるが、3月末までの期間は冬季練習と称して、もっぱら室内と庭で体作りに励む。

仕事柄パソコンに向かっていることが多いので、目の疲れを癒すのと体をほぐすのを兼ね、この時期には妻と一緒に夕方散歩することが週に一二回ある。

散歩コースで三匹の猫とも知り合いになった。

そのうちの二匹は丘の上にある寺の近くの民家の庭先にいつもつながれていて、私が近づいて来るのを見ると

(ああ、いつものおじさんね)

という顔付をするが、すぐに顔を背け、こちらに近づいて来ることはない。

背中やのどをなでさせてくれはするものの

(ほっておいてくれないかな)

という迷惑そうな態度はあからさまにこちらに伝わってくる。

紐につながれ徘徊の自由を奪われている猫は何となく痛ましい。


今一匹は路地裏の塀の上にいつも座っている猫で、私を見ると嬉しそうに「ニャー」とないて塀から飛び降り、いそいそと近づいてきて背中を私の足に摺り寄せる人懐っこい猫だ。ひとしきり撫でまわし、その場を立ち去ろうとすると名残を惜しんでずっとついて来る

「暗くなるからもうお帰り」

というと道の真ん中に座り、私たちが角を曲がるまで見送ってくれる。

その猫も年が明け、気温がぐっと下がってからは姿が見えない。

(猫はこたつで丸く)なっていると思われる。


冬は夕陽がとりわけ美しい。

近所の丘に登ると夕映えの瀬戸内海と宮島が遠望できる。

丘を下ると土の広場がある。河川敷が工事で使えない時など私が円盤を投げる場所だ。

マスターズ陸上の仲間で、60歳代部門の五種競技の日本記録保持者であるSさんが、ここでやり投げの練習をしているのを時々見かけることがある。

その広場の隅に山から小川が流れてきている。小川というよりも用水路といった方が正しく、幅は1mあるかないかというところだ。

小学2,3年生と見える男の子が二人、たも網で流れの中を探っている。この二人の男の子は10月頃にもここで見かけた。その時、半ズボンの二人は裸足で流れの中に入って獲物を探していた。

彼等と同じように川で遊んでいた60年前の自分を思い出した。

近寄ってみると小さなバケツの中には小魚やエビガニが入っている。

「クレソンがあるよ」

そう言って男の子が指さす先を見ると、水の中にクレソンが自生している。

「俺、とって帰って食べる」

「俺も食べる」

「魚とエビガニは家で飼う」

そう言って二人はまた水の中に戻って行った。


ズボンが濡れるのも構わず、時がたつのを忘れ、夢中になって遊んでいる男の子。

二人の少年に、今、黄金の時間が流れているようだ。

「人間は木の年輪のように成長している。輪切りにすると、その芯にはいつも子供の時代が息づいている」

そう言った人がいる。

ホームグランドの人けのない河川敷で、時のたつのを忘れて円盤を投げられる桜の四月が待ち遠しい。


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