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70歳の一人部活  作者: 種田潔
15/19

カメラマン

円盤を投げているところを写真に撮られたことがある。


5年前のこと、いつもの河川敷で投擲練習をしていると、近づいてきた若い女の人が声をかけてきた。

「円盤を投げているところを写真に撮らせてもらってもいいですか?」

聞けば大学の写真部のメンバーで、発表会のための写真を撮り集めているところだそうな。

円盤を投げている人は初めて見たのでぜひ取らせて欲しいと言う。

「なんだか気恥しいなあ」

と言いながらも、私はまんざらでもない気持ちを抑えきれなかった。

「顔が影になって映りにくいだろうから帽子を取りましょうか?」

というと

「かぶったままでいいです」

と言う。

「自由に投げてください、勝手に撮りますから」

と言って彼女は私の左右や後ろに回って、しばらくシャッターを押していた。

私はなんだかファッションショーの花道を歩くモデルになったような気分になった。自分のフォームが、かのギリシア彫刻の円盤投げ若者のように華麗に、力強く見えることを私は願った。

いつもなら投げる瞬間は力が入って鬼瓦のような顔になるのだが、なるべくにこやかな表情で投げようとしている自分に気が付いてそのいやらしさに苦笑する。

ああ、しかし何ということか、カメラの前で投げるという晴れがましい時に限って円盤は私をあざ笑うかのように飛ばないのだ。

「いつもはもっと飛ぶんだけどなあ」

と言い訳がましいことを私は彼女に聞こえるようにつぶやく。

いいところを見せなくてはと、黒こげの邪念となって私は投げ続けた…。


普段の練習ではデジカメで自分のフォームを動画にとって見ているが、人に写真を撮ってもらうのはその時が初めてのことだった。そもそも見知らぬ人から(写真を撮らせてほしい)と言われたことなど私の人生でただの一度もありはしなかった。

「いい写真がとれていたら今度持ってきます」

そういって彼女は立ち去って行った。

いいのがとれていなかったのか、それとも被写体の私にそもそも問題があったのか、彼女が写真を持って来ることはなかった。

カメラを気にしてどんな気取った顔つきで円盤を投げていたのか、さぞ気持ちが悪いに違いない自分の姿を見てみたかった。


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