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70歳の一人部活  作者: 種田潔
11/19

君がイヌノフグリか

ウオーミングアップを終えて円盤を投げ始める。

フラフラと力なく飛んでいく円盤が何となく投げられるのを嫌がっているように見える日がある。

投げには満足できないが広い河川敷を独り占めして円盤を投げるのは何と爽快なことだろう。

贅沢な時間を生きている気がする。


ターンしての本練習では10回投げて32m50がベスト。

ここ数年、シーズン最初の練習ではいつも35mは越えていた。

今年はグッと低い地点からのシーズンインになった。

まあ、小さく生んで大きく育てるという言葉もある。

私の今年の伸びしろは大きいと考えることにしよう。


河川敷に可憐な青い花が咲いていたのでデジカメで写真を撮り、家に帰ってパソコンで調べてみた。

ああ、君がイヌノフグリだったのか!

積年の謎が解けた。


小学校で教わった草野心平の詩に「春のうた」があるが、ここにイヌノフグリが登場する。


ほっ まぶしいな

ほっ うれしいな

みずは つるつる

がぜは そよそよ

ケルルン クック

ああいいにおいだ

ケルルン クック

ほっ いぬのふぐりがさいている。

ほっ おおきなくもがうごいてくる。

ケルルン クック

ケルルン クック


この詩はまさに私のホームグランドであるこの河川敷の春のウキウキした喜びを歌っている。

毎年春がめぐって来るたびに、私は半世紀以上前に教わったこの詩を思い出す。この詩の「ほっ」「ケルルン クック」が小学生だった私によほど強い印象を与えたようだ。

小学生だった頃の娘と息子にこの詩を教えてやったものだが、二人は今でも覚えているだろうか。

河川敷でトレーニングを始めて14年間、ずっと「小さな青い花」だったのが今日「イヌノフグリ」という名を持った。名前を知ったことでただの野草から今度会えば挨拶をかわしたいほどの親しい花になった。

「野に咲く花の名前は知らない…」

と始まる歌がある。私の学生時代、一世を風靡したザ・フォーク・クルセダーズの「戦争は知らない」だ。

今ではめったに耳にすることのない歌だが、聴くと月日の流れの速さを思って何がなしセンチな気分になる。


私の子供の頃-昭和30年代の広島には原っぱがいたるところにあった。そこは子ども達の格好の遊び場で、蛇もいたし、トカゲもいた。蝶もバッタもとんぼもやって来た。私は友達と藪の中に秘密基地を作り、そこにビー玉や牛乳瓶のふたなどの宝物を貯めこんだものだ。

「原っぱ」と言う言葉がそもそも死語になっているようだが、そこには雑草にまじって、よもぎもどっさり生えていた。母は私の摘んできたヨモギで草餅を作ってくれたものだ。

他の草の名前もそれを使ってのいろいろな遊びも知っていたが、今ではきれいさっぱり忘れてしまった。

季節が進んでいくにつれ、この河川敷には私の子供時代そのままに様々な色の野の花が咲く。今年はその花の名前を覚えることにしよう。そうすれば私が一人で円盤を投げるこの河川敷はますますもって70歳の私の楽しい遊び場になっていくことだろう。




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