武道大会3
「悪いが、同じ二刀流としてお前に負ける気はしない。」
アダスが右手に掴む愛刀の刃先を大会の対戦相手に向けて宣言した。
「・・・フッ、僕も貴方に負ける気はしませんよ。」
アダスに刃の先を向けられているのは、忍び装束を身に纏った小柄な青年だった。
その顔には幼さが残っている。
「この大会で戦果を上げて一族に栄光をもたらすことと、なにより僕自身の力の限界を知りたい……だから、僕は貴方を倒します。」
「かわいい顔して大きなことを言うじゃねぇか。」
「童顔で背が低いですけど……ハハ、こう見えて僕は貴方と同い年ですよ。」
少年が苦笑する。
ジリジリと二人の距離が縮まり、
「行くぜヨシキチ。お互い全力でやろうぜ!」
「はい!負ける気はありませんよアダスさん!」
少年、ヨシキチが高速で二本の忍び刀を抜刀。
左手を普通に握り、右手を逆手持ちに握って構えアダスに向かって歩き出す。
「俺だって負ける気はしないな!」
アダスは二刀を構える、ヨシキチに向けて足を踏み出した。
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大会開始数時間前……
「いよいよ三戦目か……」
「三戦目で勝ったら次は決勝戦だね。」
アダスとケイトが二人で王国の国民、商人階級の繁華街を歩いていた。
「あぁ、大会に出場しろって言われた時は全然ヤル気なんてなかったが……」
人混みを避けながらアダスが言う。
「戦って戦って勝ち抜くたびに優勝してやるって気分になったな。」
「アハハ、アダスらしいね。」
バシバシとケイトが笑いながらアダスの背中を叩いた。
「本当、負けず嫌いは昔から変わんないね。」
「当たり前だ。負けっぱなしは俺のポリシーに反する。」
アダスがガッツポーズを取る。
「小さい時から俺はこのポリシーを守ってきたからな。だからいつかグレイ、ロイス叔父さんや親父よりも強くなってやる!」
「小さい時か……そうだアダス。」
突然、ケイトがアダスの前に立ちふさがった。
「ん、何だケイト?」
「小さい頃って、よく手を繋いで一緒に歩いてたよね。」
「い……いきなりどうしたんだよ?」
ケイトの一言でアダスはかなり驚いた。
な、な、なんだいきなり!?
「なんか最近、過去に来て色々なことがあって…あんまりアダスと一緒にいなかったし……なんか急に昔みたいに手を繋いでみたいなって思ったんだ。」
「・・・そうか。でもべ、別に手を繋がなくても………ハッ!」
ケイトの瞳に涙が溜まる。
「う゛…、わかった手を出せ…!手を繋いでやるから、な!」
「うん!」
ニコッ!と涙を拭ったケイトが手を差し出した。
「・・・・・。」
な~んか、うまく事を運ばされた気がするな。
やるせない気持ちを抱えたアダスがケイトの手を取ろうと自分の手を伸ばし……
「た、助けてください!!」
ドン!
「キャッ!」
「うおッ!?」
アダスとケイトの間に小柄な人影が突進して来て、アダスはケイトの手を握れなかった。
「ちょっと失礼!」
一言と共に突進して来た人物は軽くタイルの道を飛び跳ねたかと思うと、軽々とアダスの肩に飛び乗った。
「なッ!?」
気づいた時には肩車の状態になっていた。
「すみませんが、少しだけここにいさせてください。」
すまないと思うなら降りろよ。
アダスから見て飛び乗ってきた人物の顔は死角で見えない。
「・・・いきなり何だお前?」
アダスがそう言いながら肩に掛かる脚を掴もうとしたその時、
「ワンワン!」
飛び乗ってきた人物が来た前方から犬の鳴き声が聞こえてきて、少し経つと可愛らしい仔犬が走ってくるのが見えた。
「うわぁ~カワイイ❤」
走り寄る仔犬を見てケイトが言う。
「僕も犬欲しいなぁ~」
「・・・・・く、来るな」
「ん?」
小さな呟きが聞こえたかとアダスが思うと肩に掛かっていた脚が首に巻き付き、強く絞まった。
「オぅフッ!?」
「アダス!見て見てこの子、すっごく人懐こいよ!」
ケイトが仔犬を抱き上げてアダスに近づく。
ギシギシ…ミシ
脚の締め付けがより強くなった。
「・・・・・!」
く、ぐるしぃ……い、息が!!
命の危険と判断したアダスは両手で首に絡まる脚を掴んで
「・・・け、ケイトすまん!!」
と言い、猛スピードでその場を走り去った。
「・・・えっ、何がすまん!?」
「アウ~ン?」
ケイトと仔犬は首をかしげながら走り去るアダスを見るのだった。
先程の繁華街から少し離れた公園で…
「いい加減俺の上から降りろ!」
「い、仔犬はいませんよね?」
首に巻き付く脚の力が弱まる。
お、ゆるんだな……今だっ!
「ていっ!」
「っ!?」
素早く首と脚の隙間に手を滑り込ませたアダスは脚を掴んで前に投げ飛ばした。
「いきなり投げるなんて酷くないですか?」
アダスが投げ飛ばした人物は空中で身を捻り音も無く地面に着地した。
その人物は少年?だった。
日の光を白く反射する長い髪、顔にはまだ幼さが残っているが鋭い知性輝きを秘める赤色の瞳。
服装は王国ではあまり見られない東の国の服……
まぁ、見なれなけど最近見たばかりだけど驚くことはないな。だが、気になるところはあるなぁ………
アダスが少年の姿に一番目が引かれたのは、少年の腰左右に下げられた二本の刀だった。
「ええっと……初めましてアダスさん。」
少年がお辞儀する。
「僕の名前はヨシキチ。東の王国にある小さな村から来ました。そして…」
少年が腰左右に下げる刀の柄頭を撫でる。
「アダスさんと同じ二刀流です。」
「・・・ん~あ~、そうか。で、何で俺の名前を知ってるんだ?」
「えっ、」
アダスの質問に驚いたのかヨシキチの赤色の瞳が大きくなった。
「ん、どうかしたか?」
「いや、あの…普通は同じ二刀流ってところにもう少し反応するかと思ったんですけど」
「いや~なんかさ、確かに二刀流ってのも気になるけど、何で俺の名前を知ってるかの方が気になってな?」
「名前なんて武道大会に出場したら普通は対戦相手……ハッ、(ΦωΦ)ピコーン!」
「ん?」
「いや、あの、繁華街でアダスさんとお連れの方の会話が聞こえて分かったんですよ。」
いやいや、何今考えたみたいな顔で言ってんだよ。
あれだ、発対面で名前を知っている……ここは闘技場で客には誰と誰が闘うかは伝えてないから関係者か……
「・・・そうか、ヨシキチが次の対戦相手か。」
「そうそう、そうなんで……って、やっぱり気づいてましたか!」
「まぁな、あそこまでボロを出して気づかないのはおかしいだろ。」
「・・・・・。」
ババッ!
いきなりヨシキチが大きく後ろに跳び、木の枝に飛び乗った。
へぇ、あんな細い足なのにたいした脚力だ。
なんてのんきに思うアダスであった。
因みに、ヨシキチが飛び乗った枝と地面との間の距離りは見た感じ4メートルぐらいはある。
「さ、さすがですねアダスさん。」
枝の上からヨシキチがアダスを見下ろす。
「ここまで大会を勝ち抜いただけはありますね。」
偉そうに言ってるけどヨシキチさんよぉ…………顔紅いぜ(笑)
「お前もすげぇな。でも負ける気はしないぜ。」
「僕だって負ける訳にはいけないので……では」
ヨシキチが隣の枝から葉を何枚かむしり取り、自分に被せるよう上に投げた。
「大会で待ってます。」
全ての葉が舞い落ちる時にはヨシキチの姿はそこにはいなかった。
「・・・・・。」
「あっ、アダスここにいたの!」
しばらく木を眺めていたアダスに仔犬を抱えたケイトが駆け寄ってきた。
「早く会場に行かないと大会が始まっちゃうよ!!」
「あぁ、行こうか。」
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ヒュン、
刃が風を斬る音…
「・・・そこか。」
アダスが右手に持つ愛刀を横に振るう。
キィィィンッ!
アダスの愛刀が二本の刃を受け止め、火花を散らした。
「今のを止めますか……素晴らしい反射神経ですね。」
二本の刃が弾かれる勢いに合わせてヨシキチが後ろに跳んで距離を取ったかと思うと、石畳に足がついた瞬間に姿がぼやけ、姿がかき消えた。
「・・・速い、だが」
ヒュン、
アダスが一歩後ろに下がって躱し、
ヒュン、
今度は顔を少し横に傾けて躱し、
ヒュン、
3度目は左手の刀を使って受け流す。
速いと言ってもグレイや魔将のキュアリスに比べれば遅ぇな。
カッと目を見開いたアダスが気合いを入れて愛刀による一閃。
ザシュッ!
「――――ッ!!」
ブツリっと何かが切れる音とがしたかと思えば、ヨシキチが驚いた顔でアダスから離れた所に立っていた。
「・・・そんな、僕に一撃を与えた!?」
「髪型変えても似合うなお前。」
アダスを睨むヨシキチの後ろ髪を束ねていた紐が切れ、長い髪がバサリと垂れた。
ヨシキチが真正直に超速で前から斬りかかって来たから軽く受け流して、髪紐を斬ったのだ。
「まだだ……僕は負けてはいけないんだ!」
まだ軽く刃を合わせた程度なのに、ヨシキチの顔が無表情になり再び姿をかき消した。
いや、なんでそんなに思い詰めてんだよ。
メンタルが紙なのか?最初の余裕がもう崩れてるぞ。
「・・・まぁ、手は抜くつもりはねぇけどな。」
アダスの体に青いオーラが湯気のように立ち昇り、体を包む。
アダスがこの数日でグレイとの修行で手に入れた闘気術の成果だ。
アダスが一歩前に足を踏み出した。
ヒュン、
またヨシキチの姿がかき消える。
今度は真正面からではなくアダスの背後にヨシキチが霞の如く現れ、二本の刀を振り抜くが
「ヨシキチ、何度も同じような技はしない方が良いぞ?」
スカッ!
「何ッ!?」
刃は空を切り、何が起きたか理解ができないヨシキチに青い闘気を纏ったアダスの刀の峰がヨシキチの胴に直撃。
「がッ!」
軽いヨシキチの体を闘技台の端まで吹き飛ばした。
「ヨシキチ、一言言わせて貰うぜ。」
アダスが石畳の上に寝転がるヨシキチに向け、刀気で青く光る刃を向ける。
「お前さ、なんで焦ってんだよ?そんなぶれぶれな刃で俺を斬ることはできないぞ。本気出せよな?」
「・・・・・焦ってる?斬ることはできない?本気を出せ?」
石畳の上で寝転がっていたヨシキチが背筋の力で、跳ね起きた。
紐がほどけた長髪が顔にかかり表情が見えない。
だが、髪の毛と髪の毛間に赤く燃え上がる瞳が見えた。
「あ~あ、何やってんだか……」
特等席で闘技場を見下ろしていたグレイが懐から金の懐中時計を取り出し、いじりだした。
日の光を反射して懐中時計の表面に彫られた鷹の紋章がきらめく。
「なに調子こいてんだよアダスのやつめ…」
「・・・グレイのおじ様、何か言いましたか?」
横でキャーキャーと甥のアダスに黄色い歓声を送っているこの王国の未来に生まれる姫のことケイトがグレイの呟きに反応した。
「お、おじ?」
「さっき、アダスに向かってなにか言いましたか?グレイのおじ様。」
「・・・ん~姫、グレイのおじ様と呼ぶのはやめて欲しいんだが。」
「ではロイスのおじ様?」
「・・・本名もだめです。おじ様をつけずに普通にグレイと呼んで欲しいんだけど…」
「まぁ、そんなことは横に置いといて」
面倒になったのか、ケイトが話題を変えた。
「僕はアダスの青い闘気について伺いたいです。」
「そ、……そんなこと…か。」
グレイの顔に悲しみの影が射した。
そんなグレイに気づかないケイトは急かす。
「あれは一体なんですか?なぜ白い闘気が青いんですか?」
「あ~、説明すんの長いから後でいいですかそれ。ほら、アダスの試合見てあげてくださいよ。」
さて、とアダスはブチ切れた(多分)ヨシキチの猛攻を全て紙一重で躱しながら襲いかかってくるヨシキチを見つめる。
アダスがヨシキチの攻撃が当たらないのは簡単な理由がある。
死にかけるまでそれより速い攻撃に襲われるという修行をしたからなのだ。
グレイの亜音速を超えるパンチを雨のように浴び、失神したらどこかのダンジョンで拾ったという謎の回復薬でダメージと失神という異常状態を治され、また亜音速パンチのローテーションという鬼畜な修行のおかげで短い期間内で、痛めつけられたくない一心でアダスは青い闘気を発現し、それにより胴体視力はある一種の達人の域まで届くことになった。
もともとアダスは居合いと言う東の大陸から伝わる技を伝授しており、自分の間合いすなわち〝領域〟を持っている。
その領域の範囲が鬼畜な修行によって広がり、その領域内では全て、とまではいかないが攻撃に対処できまた、相手を一撃で仕留めることが可能になったのだった。
まぁ、グレイに使用してみたけど音速を超えるパンチをしてきた時点で無理だったけどな。
いくら足が速いのが自慢でも、亜音速を超えるまで速くなければアダスは余裕で対処ができる。
「ヨシキチ、もうお前は俺の領域に入っている。」
青い闘気に身を包ませながらヨシキチの攻撃を受け流し、受け流し、受け流す。
「なんで、当たらないんだ!」
「さぁ、降参しろよ。今のお前じゃ俺には勝てないよ。」
アダスはヨシキチの攻撃を受け流し、ヨシキチの膝裏を蹴り、四つんばいにさせた。
「・・・僕は…」
ムクリとヨシキチが起き上がる。
「僕は負ける訳にはいかないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「うわぁ、なんか発狂しちゃったなコイツ。」
奇声をあげるヨシキチに軽くひくアダス。
「オオオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
腹の底から響くような唸り声をあげてヨシキチがズドンッと闘技台の石畳を踏み割り、物凄いスピードでヨシキチがアダスに斬りかかった。
「おぉ、急に太刀筋が変わったな。」
でたらめに上下左右に刃を振るっているかのように思えるが、その刃のどれもが一撃で相手を葬ろうとする殺意のこもった太刀筋だ。
何というか、野性的である。
「おい、何殺しに来てんだよ。試合に殺しは御法度だぞ?」
「僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は……ッ!!」
瞳孔が見開いき、体中の皮膚が赤く染まったヨシキチを見たアダスは
こわっ!
あれですか?バーサーカー状態、狂乱してらっしょるんですかね?
振るわれてくる刃を日本の刀で全て受け流しながらアダスは引いていた。
『はぁ、うるさいのぉ~黙らせるかの。』
「は?」
アダスの耳元で女のつまらなそうな声が聞こえたかと思うと、
ズンッ―……
「グッ!?」
まるで巨大な足に押さえつけられるかのようにヨシキチが石畳にめり込んだ。
「一体何が……」
「ぼ、僕は………」
ヨシキチが意識を失った。
体中から血を垂らしながら
『アダス選手の凄まじきプレスによりヨシキチ選手がダウンだ!!』
男爵の実況が闘技場に響き渡る。
「・・・違う、俺がやったんじゃ」
『勝者は[時の王国]出身のルジー・アダスだ!!』
ワァァァァァァ……
男爵の実況と観客の歓声がアダスの声を無力化した。
「はぁ?次の試合はサバイバルだって!?」
アダスが驚いた顔でグレイを見る。
「各七ブロックから勝ち抜いて来た七人の中から一人勝ち残るのがルールだ。」
「な、なんて野蛮な……」
「サバイバルの舞台は王国唯一の無法地帯、奴隷・死刑囚地域だ。」
「マジかよ。」
無法地帯にはスラムの町があり、奴隷と死刑囚が共存しているが……
一番外側の席……
「・・・魔王様。」
「何だキュアリス?」
苦虫を噛んだ顔をしたキュアリスに涼しく答えるリリス。
「妾はただ試合を早く終わらせようとしただけじゃ。」
「・・・・・やはり魔王様でしたか。何しちゃってんですかねもう。」
うなだれるキュアリス。
「あの……魔王様、お客様が来ておりますが。」
オロオロとしたワンピースを着たナタニアがリリスの横まで来て報告した。
「誰かのぉ~、愛しのロイスかえ?」
バチバチ…
「俺だ、魔王よ。」
リリスの後ろで空気中に静電気が弾ける音と共に一人の男が立っていた。
男の姿を見たキュアリスとナタニアが膝をついて敬意を表した。
「なんじゃ、雷帝か。魔将の筆頭が何のようじゃ?」
リリスが面倒臭い奴が来たという顔で後ろ振り返った。
雷帝と呼ばれる男の姿は長い外套を羽織り、素顔は鬼を模した仮面を付けて隠していた。
「お前が勝手に魔将二人を連れて城から脱け出したから迎えに来た。」
魔族最強であるリリスと唯一対等に話せる者は雷帝しかいない。
「嫌じゃ。貴様みたいなオッサンと帰るのは嫌じゃ。」
バチバチバチ……
雷帝の左手から電気が溢れ、周りの空気を焦がす。
「待ってください雷帝。」
キュアリスが止めに入る。
「ここは人族の王国ですぞ。無闇に暴れられたら困ります!」
「止めるなキュアリス、このワガママ魔王の上に雷を落としてやる。」
「貴様らうるさいのぉ~。」
ズンッー…
「なッお嬢てめぇっ!?」
リリスの放つ重力により雷帝が膝をついた。
「お嬢じゃなくて魔王じゃ!ふぅ、貴様はそこで見ておれ。」
「クッ、これぐらいの重力なんか……」
雷帝が気合いで立ち上がるが、
ズンッー…
「ぬぉッ!?」
またしても膝を着いた。
「貴様は堅苦しいことばかりしか言わんから、耳が痛うてつまらん。」
そう言い残し、リリスは控室に向かい歩き出した。
その後ろをナタニアがおろおろと着いて行く。
「すみませんね雷帝。」
床に押さえつけられた雷帝の横にキュアリスがすまなさそうに言う。
「私達の主はいつもあんな感じなのは、数十年前に魔将の頂点となって私達の家庭教師になった貴方には理解できませんよね。」
「全くだ。昔からやんちゃが過ぎる魔王だな。」