スラム前編
スラム街
王国一の人口を誇る街で有り、罪人が送られる暗黒街とも呼ばれる街でもある。
街を取り仕切るのは奴隷商や死刑執行人であり、東西南北と納めている。
「はぁ?次の試合は無差別だって!?」
アダスが驚いた顔でグレイを見る。
「各七ブロックから勝ち抜いて来た七人の中から一人勝ち残るのがルールだ。」
「勝ち残り戦ね……」
なんか、野蛮だなぁ…
「サバイバルの舞台は王国唯一の無法地帯、奴隷・死刑囚地域……スラムだ。」
「マジかよ。」
無法地帯にはスラム街が存在し、奴隷と死刑囚が共存している街だ。
スラム街の主は奴隷商や死刑執行人などがいるらしい……
「当然、試合中にスラムの住人に襲われることがあるだろうな。それを見かねて、選手達には一本ずつミニ打ち上げ花火が渡される。」
グレイが懐から花火を取り出した。
「この花火はな、倒した……気を失った相手の花火を打ち上げてリアタイアしたことを知らせる物だ。スラムの主達には一応は話をつけているらしいが、あのスラムの連中が参加者を殺す可能性もも無くはないからな。」
「何で決勝戦がこんなに危ないんだよ!」
アダスが額を押さえる。
「サバイバルなんて普通は予選で、森とかでやるもんだぜ……まったく。」
「まぁ、普通じゃないから諦めろ。このルールを考えたのはあの偽公爵だ。どう考えてもろくなものじゃねーさ。」
死んでもなお迷惑な偽公爵だな!
「・・・はぁ、早く自分の時代に帰りてぇ~。」
アダスが嘆いていると控え室にケイトが入って来た。
「アダス、ヨシキチ君見てきたよ。」
「おう、悪いなケイト。」
試合後ケイトにヨシキチが心配だから見に行ってもらった。
「で、どうだった?」
「う~んとね、石畳に叩きつけられた時にアバラが数本折れただけだって。何日かしたら治るらしいよ。」
「そうか、それはよかったな。」
骨折って数日で治るものなのかと少し疑問に思ったアダスであった。
「しかし、何であんなことが起きたかだな。」
ヨシキチとの戦いで起きた現象をアダスは思い出して呟く。
「え、何でってアダスがやったんでしょ?」
「いやいやいや、俺にあんな技を持ってるわけないだろ!俺はアイツ、ヨシキチとは同じ二刀流として刀で倒すつもりでいたんだよ。」
「・・・あの時の………か。」
グレイが呟く。
「あの~すいませんが、そろそろ時間が近いので…」
王国所属の兵隊が控室の出入口に立っていた。
「あ、おう。じゃぁ、行ってくるわ。」
「アダスがんばれー!!」
「まぁ、そこそこな。」
アダスがケイトの髪をぐしゃぐしゃ撫でる。
「に“ゃ~っ!」
「スラムで死ぬなよ。」
グレイが強くそして少し優しくアダスの背中を叩いた。
「死ぬ訳にはいかねぇからな。」
※※※※※※
決勝戦が始まる数時間前のスラム街、廃棄物放置場。
「おい野郎共!」
一人の青年がゴミ山の上から下の広場に集合しているゴロツキ達に怒鳴るように話しかけた。
「オヤジ(スラムの主)達が言っていた今日は、上のお偉いさん達がこのスラム町にやって来るそうだ!」
青年は肩まで伸びた黒茶の髪をなびかせながら足元にあったボロボロの風呂敷を広げ、マントとに見立てた。
「上品なお客様が来るなら歓迎しなきゃいけねぇな……そうだろお前ら!!」
『「オオオォォォォォォッ!!」』
「スラム街に来たら!?」
『「金品を奪え!!」』
「刃向かう奴には!?」
『「地獄を見せろ!!」』
ゴロツキ達が拳を空に突き上げ青年の問いに答える。
「じゃあ行くぜ!めい一杯楽しませろッ!!」
青年が背中に背負う槍を掴み天に突き出す。
『「オオオォォォォォォッ!!」』
ゴロツキ達が一斉に廃棄物放置所から駆け出した。
その先頭を走る青年の瞳の色は空色だった。
※※※※※※
決勝戦開始数分後…
「・・・つーか、ここが本当に同じ王国内かよ。」
今いる場所まで目隠しをして連れてこられ、解放されたアダスが、辺りを見回して呟いていた。
スラム町の建物は全てがボロボロだった。
どこの家も壁にひび割れがあり、すきま風がヒューヒュー鳴っているのが聞こえる。
「最低階級がこうも酷いとはな……。」
アダスは歩きながら呟く。
「しかし、」
町中なのになぜ人がいる気配がない?いや、微かだけど殺気が感じるな……
人影は見えないが遠くの方で戦闘音らしき音が聞こえる。
アダスは愛刀の柄に手を添えながらスラム町の中を歩いた。
「・・・ここら辺は静かすぎる、これが嵐の前の静けさか。」
「全くその通りだな。」
「ッ!?」
アダスのすぐ横から若い男の声が聞こえた。
アダスが素早く横を向くと崩れた建物の壁に黒髪の青年が目を閉じて寄り掛かっていた。
青年の服装はツギハギの服に風呂敷のマントといったいかにもスラム育ちだと感じさせるが、背中に背負う槍がただ者ではないことを表していた。
「ここの住人か?」
「あぁ、ここは俺様の縄張りだからな。」
「丁度今から仕事があってな、アンタの持ち物全部よこしな。なぁに、命は残してやるから安心しな。」
青年の目が開かれた。
アダスと同じ空色の瞳が向けられる。
「・・・断る。」
「そいつは困るなぁ。」
青年が槍の柄を掴み、ブンブン回し始めた。
「へぇ、空色の瞳かぁ。なんか同じような瞳を持ってから親近感があったんだが、獲物になってもらうぜ。」
アダスは愛刀を抜いて構える。
「俺はアダスだ。」
「あん?」
青年が眉を潜ませた。
「俺の名前はアダスだ。記憶しておきな。」
「ハッ、名前を名乗るとは上等なタマだな。じゃあ、俺様も名乗ってやるよ。」
アダスに槍の穂先を向ける。
「俺様の名前はクラマ、この東スラム街の主、死刑執行人の息子だ。」
クラマと名乗る青年が言葉を言い切ると共にアダスに向かい走り込み槍を横薙ぎに払う。
アダスは右手の愛刀で槍の柄を柄頭で受け止めた。
「アンタ、いい刀持ってんじゃん。寄越しなぁっ!」
「生憎だがお前みたいな奴に渡す気になれねぇよ。」
アダスが槍を押し退け、切り返すのをクラマが巧みな槍さばきでいなす。
ズ、ズゥゥゥゥゥンッ……!
遠くの方で地響きが響く。
なんだ?・・・地震か?
バシュ、ヒュ~……ドォォン!
バシュ、ヒュ~……ドォォン!
バシュ、ヒュ~……ドォォン!
バシュ、ヒュ~……ドォォン!
バシュ、ヒュ~……ドォォン!
地響きがのが鳴り響いて約二分後にスラム街上空に五つの花火が舞い上がり、咲き乱れ散った。
「ん、祭りでもスラムで起こす気か?」
「・・・・・。」
クラマの槍を掻い潜りながらアダスは焦っていた。
開始してまだそんなに経ってないのに五人がリタイアだと!?ふざけんなよッ!
「おい!ちょっとここまでにしよう。」
アダスが槍をかわして後ろに大きく跳び間合いをあける。
「あぁ?逃げるのかよ。」
クラマが踏み込んで素早い突きを連続で放つ。
アダスは半転身して槍をかわし、かわしきれない突きは刀で受け流した。
「ここまでにしようと言ってるだろうが!!」
人がいない、舗装がされてない道を二人が刀と槍をぶつけながら走る。
が、二人の足は突如として止まった。
視線の先、薄汚れた川のボロボロな橋の上に、黒い影があった。
それは山羊の毛皮を被っていた。
毛皮から溢れる紫の髪は腰まで届き、露出された肌は大理石のように白い。
毛皮の隙間から見える紅の瞳は、自らの足元を眺めていた。
女の足元では真っ赤な液体が流れていた。
鼻先に強力な血臭が届き気分が悪くなる。
クラマと同じツギハギ服姿の男が、道に転がっていた。
手に握っている剣は、なぜか潰れ歪んでいた。
男は、何か重い物で何回も潰されたように腰から半分がひき肉見たいになっていた。
スラムに住んでいた男の目は、恐怖に見開かれていた。
死体を見つめる女の瞳には、紅の鬼火が燃え揺れていた。
「何じゃこ奴、歯応えがないのおぉ。うっかり殺してしもうたわ。」
女はつまらなそうに死体の頭を足先で突っついた。
「なぜこの街に住む者が妾を、いや大会出場者を襲うのか不思議よのぉ。」
この時代も古いが、女の喋り方はもっと古く感じる。
アダスは一歩足を引いた。
横でクラマも一歩下がる。
女の瞳が動き、アダスとクラマを捉えた。
「いたいた、大会出場者最後の一人と……誰じゃ?」
女の疑問は解らなくもないが、同意する気はない。
「まぁ、良い。…では、手合わせ願おうぞ。」
この瞬間、アダスは背筋に強烈な寒気を感じた。
・・・こいつは危険だ。
スラム町の一角に殺意とおふざけの敵意が膨れあがる。
「・・・あいつは南から来たゲルダか、やっぱり決勝で」
アダスが呟く横でクラマが走り出す。
槍を大きく引いて、遠心力を利用。
さらに捻りで生んだ回転力。
地面を蹴って強力な突きを放つ。
慌てて追いかけたアダスもついでにと左手の刀を高速抜刀し、飛燕の如く走り込む。
ゲルダは真っ赤な唇を微笑ませながら足を進める。
二人は、右に突きを左に斬撃を叩き込んだ。
二本の、銀色の閃光がゲルダを襲う。
ゲルダは左右から来る攻撃に対し、それぞれの手や腕で受け止めて見せた。
クラマの突き、多分クラマ本人の全力の刺突が静止していた。
ゲルダの右手が槍の穂先を握って止められていた。
アダスの右刃は腕に命中したが、服が少し切れただけで剥き出しの白い腕には赤い引っ掻き傷をつきただけだった。
アダスは勢いを止めずに、左の刀を振りかざす。
刀に刀気を宿らせゲルダのしなやかな体に刃を走らせる。
「フフ…。」
ゲルダがいかにも楽しそうに微笑み、手首を捻った。
視界が回る。
曇っている空、舗装されていない道が見えたということは、アダスは弾き飛ばされていた。
薄い壁を破壊しつつ、二枚目の壁に激突。
とっさに受け身をとったのだが、肺から息が漏れ気が遠くなる。
反動で壁から離れ、右膝をつき、額を押さえる。
後ろで二枚目の壁が崩れ落ちた。
同じようなに弾き飛ばされ、地面に叩きつけられ転がっているクラマが見えた。
自力で立ち上がれず槍を杖代わりにしている。
ゲルダは追撃をせず、ただスラム街の橋上で悠然と立っていた。
グレイとはまた違う恐るべき強者が眼前に立っていた。
この女は人ではない、そんな気がする。
アダスとクラマは立ち上がり、ゲルダと対峙する。
ゲルダの戦闘力はグレイ級だ。
下手に手を出せば確実に殺られる。
今生きていられるのはゲルダがこちらを嘗めて掛かってるからだ。
ゲルダはアダス達ではなく、自らの手についた小さな引っ掻き傷を眺めていた。
「まだ力不足だが、確かに愛しの人と同じ力……」
山羊の毛皮がずり落ちてゲルダの素顔が現れた。
魔性を秘める美人。
「いずれ今よりも強くなる可能性が高い、フフフ……。」
ズンッ!
とてつもない殺気が重力となり周りの建物を崩壊へと導く。
一般の、気が弱い人間なら、精神的に即死してしまうかも知れない。
「コイツはぁ、マジで人間か?」
重力に抗って身を起こしながら、クラマが問いた。
人のようで人ではない怪物ならアダスには心当たりがある。
それは魔族だ。
つい何日か前、魔将という位を持つキュアリスと名乗った人の姿をした魔族に出会っていた。
あの時はグレイがいた。
「人間かどうか……うぬ、そんなことに意味はない。」
ゲルダは一歩進んだ。
「妾はただ暇潰しがしたいからここにいる。さぁ、若人共よ戦と言う名の遊戯を楽しもうではないか!」
ゲルダが進む。
やっぱりこの女は危険だ。
人間じゃねぇ、魔族特有の狂った精神の持ち主だな。
「面白ぇ、殺ってやろうじゃねぇかッ!!」
「バカよせ!相手が悪い!!」
「知るかそんなもん!」
クラマがアダスの制止を押し退けて進み、下からの鋭い一閃。
ゲルダは平手で刃を打ち払い、横薙ぎの回し蹴りを返す。
槍の柄を突き出して、クラマが受ける。
が、槍ごと後方に吹き飛ばされた。
橋の上から川を越え、クラマは向こう岸の建物に激突した。
「チッ、アイツめ。」
アダスは後ろに下がり助走をつけて走り、ゲルダのいる橋を渡らず川の上を跳んだ。
風を切る音を耳にしながらギリギリで向こう岸に着地し、すぐ転がって体にかかる衝撃を分散。
顔に触れる川岸に生える植物の葉の感触を一瞬感じ、回転する。
上を向くと、視界いっぱいに広がる紫の髪と靴の裏。
慌てて転がって逃れると、アダスがさっきまでいた地面をゲルダの右足が足首までめり込んでいた。
そのまま右足を軸に、左足の踵が振り下ろされる。
ドォォォオン、
破壊音。
石やら土を浴びながら、アダスは転がって起き上がる。
「ッッッ、痛ぇ。」
壁に激突していたクラマが、肩を押さえながらアダスの横に並ぶ。
太陽が真上に昇る昼に、小鳥の鳴き声と建物と建物の間を通る風の音、川の流れる水音だけが響く。
川に隣接した土手の上で、アダスとクラマとゲルダの二回戦が開始されるその時
アダス達とゲルダの間に青い闘気を纏った短剣が刺さり、大きな亀裂を作った。
短剣が投げられた方向を、ゲルダ以外、アダスとクラマが探す。
そして二人の視線は一人の男に止まった。
「やっと来たか、愛しいロイス。」
ゲルダが無邪気な笑顔で微笑む。
スラムの建物と建物の間から、赤い髪に赤い大剣、古びたコート姿のグレイが現れた。
ゲルダはアダス達を見ていなかった。
「やっと出て来てくれた。」
女の目は潤んでいた。
「あとは愛しいロイスを押し倒してでも、夫にするだけじゃ!」
ズルッ!!
何でやねんッ!?この流れだと宿敵じゃねぇのかよ!押し倒すとか破廉恥だろ!
つーか何でグレイの本名を知ってんだよ?




