12話
白い雲に覆われた空の下。ベアリン王国の東部に広がる平原を割るように舗装された道を歩く二人の旅人の姿があった。
「見えてきたよ!スーザツ君!」
荷車を引く行商人が努めて明るい声をかける。スーザツの隣を歩く男はロスという名の行商人だ。この商人はスーザツと顔馴染みの男である。ロス商人はスーザツの実家である雑貨屋との定期的な取引のために、カルチへ向かう道中だったが、スーザツの事情を知るとイーストの街まで同行を申し出たのだ。
「(人口は5万人といったところか?小さい街だな。この程度で国有数の大きい街なのか…。)」
「…ほんとうですね!すごく大きいです!」
ロス商人に声をかけられたスーザツは失意を押し殺し、歓声を上げる。100万人規模の街を基準に持つスーザツから見れば、イーストの街は魔物の氾濫や隣国の侵略に対する防衛面、帰還方法の調査という情報収集の面で心許なく映る。
「スーザツ君はイーストの街は初めてなんだっけ?」
「はい。村を出たのも初めてです。」
「そうなんだね。イーストの街は大きくて治安もいいから、色々と落ち着いたら街を見て回るといいよ。」
「はい。そうします!」
スーザツはおのぼりさんを演じ、ロス商人に相槌を打つ。
「(この世界の人口5万人の街が果たしてどの程度賑わっているのか。実際に目の当たりにしたわけではないからな。迷宮から出土した魔道具も気になるし、この世界の街の基準として知っておいて損はないか。)」
イーストの街の主な産業は迷宮の出土品の取引であり、次いで広大な平原を利用した農業に力を入れている。故郷の生存者がいないとなれば、街で堂々と迷宮から出土した魔道具の収集・調査を行い、帰還の手がかりを得たいというのがスーザツの考えだった。
「(…生存者はいないとみなして、気兼ねなくこの街中を巡ろう。割り切らなければ、いつまでも故郷の亡霊に怯えることになる。)」
イーストの街の手前までの道中、スーザツの成長した空間把握能力をもってしても、故郷の生存者を見つけられなかった。であれば、口封じをするまでもなく魔物たちによって全滅したのだろう。スーザツは自分以外に生存者がいないと結論づける。
「スーザツ君は、あと二年もすれば成人だよね。将来のことは何か考えているかい?進む道によっては、僕の伝手で紹介できる人がいるかもしれないよ。」
スーザツの事情を慮るロス商人は沈黙を避けるように話題を振り続ける。
「…将来は、素材の採取を専門にした冒険者になろうと思っています。」
「うーん、冒険者か…。僕の知り合いで弟子にしてくれそうな人はいないなぁ。そもそも冒険者があまり弟子を取らないんだよね。スーザツ君が商人として実家みたいにお店を開きたいなら、商人仲間を紹介できたんだけど。」
「お気遣いありがとうございます。でも、僕には冒険者なら師匠として、ハントさんと父がいたので大丈夫ですよ。」
「…そうだったね。二人が採ってきた素材で作った商品はどれも質が良くて、お客さんに好評だったからね。彼らの技術を引き継いでいるスーザツ君なら良い冒険者になれるよ。」
「ありがとうございます、二人の名に恥じないよう頑張ります。」
「それに孤児院出身の冒険者は多いからね。スーザツ君が孤児院にいる間にも先輩冒険者がたくさん顔を見せるだろうから、冒険者について知りたいことがあれば、その時に話を聞かせてもといいと思うよ。」
「はい、そうします。」
「スーザツ君が銀等級の冒険者になったら素材採取の指名依頼を発注させてもらおうかな。」
「その時は恩人価格で受けさせてもらいますよ。」
「それは楽しみだ!冒険者の道具を揃えるときは是非とも僕を頼ってね!商人としてやってこれたのはスーザツ君たちと取引を続けてきたおかげだし、僕自身、この街の孤児院出身だからね。」
「はい、頼らせてもらいます。何から何までありがとうございます。」
「気にしないで、先輩として当然のことだから。」
「そういえば、イーストの街の孤児院はどんなところですか?」
スーザツは話題に上がった孤児院の情報収集を試みる。孤児院の運営者とのファーストコンタクトを良いものにするためにも、二年間暮らすことになる施設の情報は是非とも知っておきたいところだった。
「面倒を見てくれるシスターは優しい人ばかりだし、孤児院でお世話になっている子供達もみんな面白い子だよ。」
「そうですか。それを聞いて安心しました。」
「しかも、この街の孤児院は聖女イザベラ様が経営しているから、彼女を慕う沢山の人の援助もあって孤児院の中では余裕のある生活ができるよ。」
「(聖女イザベラ…。)」
「かつての白金等級の冒険者パーティー、“希望の剣”のメンバーですよね!父によく冒険譚を聞かせてもらっていました。今はイーストの街で孤児院の運営をしていらっしゃるんですね。」
「ああ、そうだよ。イザベラ様はイーストの街の迷宮で発生した魔物氾濫を食い止めたり、アダル国王を惑わして国を乱した魔女シンセリーを討伐したり。数々の功績を上げた、あの“希望の剣”の一員だったんだよ。」
「冒険譚の通り、すごい活躍をしていたんですね!そんな方に会えるなんて、とても楽しみです。」
"白金等級の聖女"と"魔女"。この二つの言葉に警戒心を抱きつつも、スーザツは憧れの人物に会えることに喜んでいるかのように大仰に振る舞う。
「そうでしょ!」
ロス商人は、スーザツに笑顔が浮かぶと安心したように微笑む。
旅の最後にロス商人と雑談を交わしながらやって来たスーザツ。故郷を出て四日目にしてようやくイーストの街にたどり着いたのだった。




