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首狩りの赤銅  作者: 星屑アート
プロローグ
13/13

11話

 穏やかな春の風が吹き抜ける焼け野原。滅んだ村では勝者が1人、立ち尽くしている。激戦の末に生を勝ち取った少年は息も絶え絶えで、満身創痍のため倒れ込むことすら叶わない。全身をアドレナリンが駆け巡っているためか、痛みはなく高揚感に満たされている。そして、心臓は未だ激しく脈打ち、口の端はぐにゃりと釣り上がっていた。

「(…やはり死ぬのは怖い。生きて、生きて、生き続けて、幸福に満ちた人生の階段を永遠に上り続けたい。)」

 昂ぶる心身の根底にあるのは、久しく忘れていた自身のルーツとも言える感情と、闘争本能。少年は原初に立ち返った感覚に襲われていた。

「(この世界に溢れかえる脅威を前にすれば、不老長寿なんて無意味に等しいな…クソ。)」

 魔物との戦闘を終え、後悔の感情が戻ってくる。高い水準の安全規則、優れた医薬学、国民性から生まれた良い治安。楽園のような世界に住んでいた時でさえ、死を恐れ、克服するために不老不死を求め続けていた。

 ましてや、この世界では強力な魔物や悪党といった死のリスクが街の内外に潜んでいて、ほんの少し選択を誤れば周囲を巻き込みながら襲いかかってくる。前世のほぼ全ての生涯を注ぎ込んで掴んだ不老長寿など、吹けば消えてしまう儚い存在だった。

「(強さは?規模は?頻度は?この程度の魔物の襲撃で村は壊滅。今回の事の発端は俺だが、赤の他人が引き起こす可能性だってある。平穏に生きることすらままならないこの世界で幸福な人生を歩むには、不老不死でさえ足りないだろう。)」

 肉体の記憶もこの世界の全てを教えてくれるわけではない。ただ寿命がないだけ、死なないだけ。辺境の開拓村の少年というバイアスを通して見たこの世界は、邪悪な暴力と理不尽に満ちており、幸せに生きるには心許ない。

「(強さが必要だ。それも圧倒的な。隔絶した高ステータスとそれを活かす技量と経験。この3つの柱がなくては、波のように押し寄せてくる脅威に打ち克ち、幸福な人生を歩むことはできない。)」

 この過酷な世界を幸福に生きるため、求めて止まない不老不死とは別の新しい要素を求める。

「(だが、強さを得るには危険と隣り合わせの場所に飛び込み続けなければならない…か。まさしく矛盾だな。)」

 しかし、少年が求める強さは強者との殺し合いの果てにしか存在しない。そのことを先の戦いで身に染みて理解した。そして、それは少年が最も厭う死のリスクを冒し続けるということであった。

「(目的のために危険を冒すという意味では前の世界と変わらない。だが、これまでとは変わって死に直結しうるリスクか。これまで以上に難易度の高い綱渡りを要求されるな。)」

 人身売買、非人道的な人体実験、違法な医薬品の使用。方向性は全く異なるものの、前世でも必要に迫られれば多くのリスクを冒し、その上で不老長寿を掴み取った。

「(...真に欲するものは降らず、買えず、奪えず、祈っても得られない。されど、正しく積み上げ続ければ、いずれ必ず届く。)」

 自ら危険な状況に飛び込むことに躊躇いはある。しかし、死に怯えて諦めるのは少年にとって耐え難い行為だった。

「(勝って勝って勝ち続ける。幸い、与えられたチートスキルは定番にして強力、転生した器は上々。)」

 生活基盤は失われ、魔物や逃げ延びた生存者からの怨恨を押し付けられた。しかし、死ぬまで(永遠に)共にする肉体の性能に関しては、これ以上の高望みはできない程に良いものだ。

「(ならば...今回だって届くはずだ。)」

 少年は不老長寿を成し遂げ不老不死の目前まで迫った過去の成功体験を心の支えに、自身を奮い立たせる。

「(実家でめぼしいものをかっぱらったら、さっさと街に行かなくては。長く休めばその分、追い剥ぎに鉢合わせるリスクが高まるだけだからな。)」

 村内に散乱する死体は春の日差しを受け続け、腐臭を放ち始めていた。春風に混ざった死肉の臭いを嗅ぎつけて魔物や野盗が寄ってくるのも時間の問題だろう。

 覚悟を決めた少年は村を出る準備へと行動を移す。

「(...と、その前に。『時間停止』)」

 少年は側で力尽きた魔物の死体に魔法を行使する。

「(ここに放置すれば誰が倒したのか間違いなく捜査されるし、店に売り捌いても自白するようなもの。とはいえ、捨てるのは勿体無い。解体の練習に使って、ほとぼりが冷めた頃に処分するか。)」

 魔法によって、白狼の親子の死体が死後十数分の新鮮な状態で維持される。

「(よし。『空間転移』。)」

 素材への処置が終わると、一瞬にして潰れた実家の目の前に移動する。

「(『時戻し』。)」

 少年は立て続けに魔法を行使する。魔法によって、廃村に不釣り合いな雑貨屋が蘇る。

「(朝の7~8時くらいか?襲撃された時には、既に村は起きていたな。)」

 そして、魔法の感覚から実家が壊れたタイミングを掴み、村が襲われた時刻を推察する。村人が眠りについている夜明け前に襲撃が起きていれば、寝込みを襲われたことを考慮して村人の逃走率はゼロと言い切っても良いと考えていた。しかし、遡った時間から鑑みるに、その断言はできない。

「(…ただいま。)」

 少年は生存者の口封じについて考えながら、感情のない帰宅の挨拶を内心でつぶやくと、実家に押し入り、荷造りを始めるのだった。


「(…こんなものか。)」

 少年は家族の私物と店の商品から役立ちそうなものを一通り回収し、準備を終える。

 店で出荷用に保管していた魔法薬によって傷は癒え、魔力と体力は完全に回復していた。そして、衣服を着替え、腰には父の形見の銀の短剣と子供用に短い直剣を差し、ポーチの中には冒険道具が収納されている。

 戦場の死体が動いているかのようなみずぼらしい装いは見る影もない。

「(必要なものはすべて回収した。....もう用済みだな。)」

 少年は魔物との戦闘を経て飛躍的に向上した身体能力を存分に発揮し、腰の直剣を振るう。思い入れのない実家が音を立てて瓦礫の山に戻る。

 実家の破壊工作を終えると砂埃を背に、側に置いていた背嚢を背負う。身動きを阻害しない程度に大きい背嚢には生活必需品だけでなく、今後、身を立てるのに必要そうな雑多な物が詰め込まれている。

 母の家系から受け継がれてきた調合の器材とレシピ。父から受け継いだ採取の道具と図鑑。そして、家の蓄財と旅の道具。最後に、証拠隠滅のための魔物の死体。スーザツはこの村で託された全てを背負っていた。

「(随分と荷物が多くなってしまったが、要らなくなれば処分すればいいだけの話だ。)」

「(さて、北と西のどちらに向かうか。)」

 近くの村は余所者の孤児を1人快く迎えることすらできない程に貧しい。従って、必然的に大きな街に向かうことになる。国の南東の端に位置するカルチ村から近い街は、国の南、村の西に位置するサウスの街と、国の東、村の北に位置するイーストの街の二つがある。

「(とはいえ、実質一択なんだよな。俺はもちろん、この村の生存者も。)」

 直線距離ではサウスの街が近いものの、村と街の間には山脈が連なっている。加えて麓には村の周囲よりも深い森が広がっており、強力な魔物の住処となっている。村とサウスの街を結ぶ道は極めて危険で人通りは無いに等しい。一方、イーストの街への道は比較的安全で、村の有事の際にはイ―ストの街に向かうのが村の規則となっていた。

「(サウスの街に逃げた生存者なんていないだろうし、村人の数値なら向かったとしても全滅と見ていいだろう。)」

 少年の記憶が正しければ、サウスの街方面からの来訪者は産まれてこの方一度もない。街までの道中に白狼と同等の魔物がうろついているのであれば、サウスの街方面に生存者はいないと思われる。

「(であれば、北に向かうか。)」

 今のスーザツの実力であれば、サウスの街にたどり着くことはできるかもしれない。しかし、未成年が1人で山脈を越えてサウスの街にたどり着くのは極めて不自然な事だった。であれば、北に向かうという選択肢しか残されていない。

「(村の襲撃のタイミングを考えれば、まだ生存者は隣の村に着いていないはず。)」

「(この村の真実を知る者は俺だけでなくてはならない。この村が襲撃された理由を知る者は皆殺しだ。...『時間加速』。)」

 少年は傲慢で残忍な思考とともに、滅びた故郷を飛び出したのだった。

ステータス...個々人の能力を6つの要素で数値化している。各要素はレベルが1上昇するごとに1~100上昇する。上昇値は個人、各要素で固有。上昇値が変化することはない。才なき者に現実を突きつける、この世界で最も残酷な数字。

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