第25話 誇りを胸に
俺が魔法学校に戻ってから数日が経った。ふと冷静さを取り戻すとギルバスは無事なのだろうか。
今となってはもうそれだけが気掛かりだ。いちよう俺はアバンによって城下町の外に出された。
だがその後はセシリーに任せてアバンはギルバスの元に行った。いくら騎士団長でも一人はきついだろう。
そんな今日、なんとアバンがギルバスを連れてきた。どうやら深手を負っている者の致命傷ではないようだ。
俺はほっとした。横のベッドに運ばれてくるギルバスを見て。最低かも知れない。だがほっとした。
そんなギルバスを見て俺はもっと強くならなければならないと思った。だから俺は魔細工を自身の装備にも付与させようと思った。
本当はもっと訓練や練習をした方がいいのだろう。だが今の俺にはそれが出来ないらしかった。皮肉だが。
とにかく俺はゆっくりと療養しなければいけなくなったらしい。それは……ギルバスも一緒だろう。
と言いつつも俺は自身の装備に魔細工を付与させ始めた。これはギルバスの篭手と同様に身体を強化する。
そもそも俺が焦るには理由があった。それは……アバン曰く王国軍と魔族が手を組み近々正義の名の下に魔法学校に侵攻するのだとか。
だからだ。だからこそに本当はこんなこと以外をしたいのだ。せめて全員分に魔細工を施すとか、な。
そうじゃないと王国の騎士等を相手にするは無謀過ぎる。こっちには英雄繋がりの子孫がいるにしても、だ。
もしかしたらマフティ様が代わりにして下さっているかも知れない。だがそれでもこっちが持つ可能性は低そうだ。
く。一刻も早く。復活しなければ、だ。とにかく今は俺の出来ることをしておこう。最悪。俺のみでも戦うことに――
「主は……本当に勇ましいな」
うん? ギルバスか。
「俺は……俺の出来ることをしているまでです」
流石に座って作業していたらこっちに注意がいくか。だが俺はやめない。やめたら駄目だからだ。
「そうか。我が裏切りをやめさえすれば……貴君のお父様は生きておったかも知れん。本当に……すまんの」
なんだろうな。ギルバスは俺のお父さんとどんな関係だったんだ? 凄く気になるのだから訊いて見るか。
「……あの!」
「うん? どうしたのですか。アレス様」
「ギルバス様とお父さんは一体どんな関係なんですか」
俺は訊いてみた。それも魔細工の作業をやめてまでも。
「我とどんな関係かと? なに。実に簡単なことだ。単に我が剣術を指導しておった」
なるほどな。俺のお父さんはギルバス様から剣術を教えて貰っていたのか。納得した。
「あの頃の才覚はずば抜けておったぞ。ホォ。ホォウ。懐かしいの。貴君の剣捌きはまるで父親譲りだ。ふけてしまいそうだ」
お父さんが? って言っても今の俺は本当のアレスじゃない。……一体。どこで本当のことを言おうか。実に悩む。ああ。駄目だ。出来ない。
「これからは……誇りを胸に生きたいと思います。償いなんて生温くてすみません」
ギルバス様。
「ところでアレス様。魔細工の方……順調ですかな」
あ。忘れてた。ここは聴き耳を立てるよりも手を動かそう。というか。俺のしていることが筒抜けか。それもそうか。相手は騎士団長だしな。
「順調です。俺……これから皆に迷惑を掛けることになります」
そうだ。今更だがそうなるんだな。これから。本当に死者が出ても可笑しくない戦いが行われようとしているんだ。俺は……皆と共に生きたい。
「ふむぅ。我の身が動く内は好きにはさせません。この命を懸けてでも」
出来れば懸けてほしいはない。だって心変わりをしてくれたのに一緒に生きられないなんて酷過ぎる。俺は……なんとしてでも全員を救いたい。
「出来れば戦いたくなんかない。命なんて懸けてほしいなんてない。俺って……駄目な人間かな」
あ。まただ。また手が止まった。これじゃあ先に進まない。だがギルバス様を会話をするとどうしてか不思議と安心してしまう。
「アレス様! 我が身を案じてくださり有難う御座います! しかし……アレス様への偏見は根強いのです。ここはどうか。我が顔を立てては下さいませんか」
はは。質問の答えが違ってる。だがギルバス様の考えはすっかりいい人になったようだ。俺にとってギルバス様は凄く懐かしく感じてしまう程の存在だった。
「ごめん。立てたくはないんだ。そもそもだ。たとえ勝てる戦いだったとしても俺は戦いたくないんだ」
これが俺の本音だ。この言葉が相手にどんだけ通じるかと言ったらきっと通じないだろう。だって相手にだってプライドがあるのだから。
「そのような未来がくるのであれば……きっと……我が力は不要ですな。お優しい言葉ですがアレス様。我が一生の忠誠はもう既に命を賭す物と考えております。以後お見知りおきを」
ギルバス様。それが貴方のけじめか。……その答えに偽りなしと捉えた。ギルバス様。俺は貴方に会えてよかった。だから俺……頑張るよ。俺……俺こそが命を懸けて戦うよ。絶対に。
「その眼差し。実にお父様にそっくりだ。どうやら覚悟を決めて下さったようですな。我ながら感極まりましたぞ」
ギルバス様。ああ。俺は貴方のお陰で絶対に立ち向かうことを憶えたよ。だからこそに思うんだ。平和に終わるのは相手次第だってことが、な。一体。どんな戦いになるんだ。これから。
「俺……決めました。相手の出方次第では戦うと」
あ。だがこれでは意味がないか。そもそも相手の出方次第と言ったが相手がもし嘘を付いて不意打ちをしてきたらどうするんだ。く。これは……慎重に判断する力が必要不可欠だ。
「甘いですぞ。アレス様。……王国軍は本気です。貴方様を潰す為なら平然と嘘を付くでしょう。絶対に信用してはいけません」
そうだな。それもそうだな。騎士団長が言うことだから本気だろうな。流石はアシュガルド王国の騎士団長なだけはある。きっと内部情報を知り尽くしているのだろう。
「分かりました。嘘を言われる前に俺は動きます」
こうでもしないとこの話は終わりそうになかった。別に一刻も早く終わらしたい訳じゃない。
「あ奴らは言葉ではくるめません。ですから最早力尽くでしか淘汰は出来ないのです」
確かに王国軍はともかく魔族は聴きそうにない。だとしたらやはりここは全力で挑まなければならないようだ。
「これからは本当の本当に身を引き締めて挑みます。だから俺に剣術を教えて下さい」
俺に足りないのは圧倒的に剣術とかだろう。かつてお父さんを指導してくれたお方だ。きっと頼りになる筈だ。
「剣術ですか。いいでしょう。ならば今は療養あるのみですな。アレス様。では我は寝るとしましょう。では」
そう言うとギルバスはさっさと寝始めた。一方の俺はもう一度と言わんばかりに手を動かし始めた。全ては決戦の為に。




