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ダンジョン&第16普通科連隊ズ  作者: tema
第一圏 辺獄の迷宮
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第一圏 辺獄の迷宮2 -解錠-

数人のゾンビはゆっくりと、だが着実に距離を縮めてくる。

その姿は、どう見ても作り物とは思えない。


ロボが踏み込み、剣を振るう。

細川さんが剣を構え、突きを放つ。

革鎧の若い男は、肩に担いだ鉄の棒をバットのように振る。

あ、空振った。


気付くと、俺は地面に座り込んでいた。

暢気に休んでいるワケじゃない。腰が抜けてるだけだ。

目の前では、ゾンビに杖を振るっているお姉様がいる。

杖がゾンビに当たる。だがゾンビは倒れず、杖が手を離れて俺の方に転がる。

思わず俺は、その杖を取った。


生まれたばかりの小鹿のように、脚が震える。

俺は、お姉様を後ろに庇い、ゾンビを杖で殴りつけていた。

杖はゾンビの腕に当たり、腕が千切れ飛ぶ。

再び杖を構え、頭に向かって振り下ろす。

ゾンビの頭は外れたが、肩から胸にかけてざっくりと食い込み--ゾンビは倒れた。


「ありがとう、助かったわ」

どどどうぅいたしましてぇ…

改めて恐怖に襲われる俺。

あちこちに散らばるゾンビの手足が目に入る。見たくない。


その手足が不意に色を失う。まるで土のように。

いや、これはまるで本当に土のようだ。

恐るおそる杖で突っつくと、ボロッと崩れる。

中まで土のようだ。


「奴等は、倒れると土に還る」

ローブの男が、眼鏡を光らせながら言う。

「原理は全くわからん。だが、事実だ」

そんなバカな。


その時、視界の端で革鎧の若い男がしゃがみ込むのが見えた。

次の瞬間、彼は吹っ飛んだ。

ロボが彼の襟首を捕まえ、投げ飛ばしたのだ。


「無謀なことをするな!」

細川さんが押し殺した声で怒鳴りつける。

「でも、中に解毒剤があるかも知れないじゃないですか!」

若い男が叫ぶ。


近づくと、彼らの前には石造りの箱があった。

箱の中央には鍵穴が開いていた。

「タダ、無理に開ければ爆発することだってある。諦めてくれ」

細川さんが、若い男の肩に手を置く。

「寺沢君、私なら大丈夫よ。きっと」

お姉様がもう一方の肩に手を置く。


「ミズ--彼女は毒にに犯されていてね、外に出るまで保ちそうにない」

ローブの眼鏡男が小声で教えてくれる。

「タダ--そちらの若い彼は彼女の教え子でね、助けたい気持ちは判るんだ」


箱を無理に開ければ、罠が発動するらしい。

では、無理なく開けられるなら、どうする?


この箱を開けるんですか?

気付いたら、そう言っていた。

ウエストバックから道具を取り出しながら。

険しい顔をして近づいてきた細川さんだが、俺が道具を広げると目を見張る。

「君は、何者だ?」


--


俺が子供の頃、金庫は楽しい玩具だった。

家には様々な金庫が置いてあり、その鍵を開けて遊んでいた。

開け方は、父さんや爺ちゃんが教えてくれた。


別に父さん達は犯罪者じゃない。

むしろ違法な事は頑としてやらない。

代々、鍵師を職業にしていただけだ。


「浩二、この技は決して悪いことに使っちゃいけないよ」

「もしお前がこれを悪いことに使えば、父さんは決して自分を許せない」

俺が高校に入学した時、爺ちゃんや父さんは、繰り返しそう言っていた。

そして貰ったのが、この道具だ。


--


「頼めるか」

そう聞く細川さんに頷く。


鍵師は、父さんの代で廃業した。

金庫は電子ロックになり、鍵師の手が届かないものになった。

父さんは縁を頼って会社勤めをはじめ、俺も会社員になった。


たとえ俺に子供が生まれても、この技も道具も継がない。継ぐ必要は無い。

鍵師の技は失われる。無価値なものとして。

だが、この技で人を救えるなら、父さんも爺ちゃんも、そして俺も、鍵師として誇りが持てる。

ただし、子供どころか彼女すら居ないのは、ここだけの秘密だ。


箱の前に座り、針金を鍵穴に挿す。

目を閉じ、息を細く吐く。

「針金の先に目がついているような感覚だよ」

爺ちゃんの言葉が脳裏をよぎる。

その感覚が久しぶりに甦る。


カタリ


手ごたえがあった。

正直、腕が落ちていた。冷や汗ものだった。

時間もかかり、針金の先もぶれ気味だった。

だが、これで--


--


「先生…」

若い男--タダ君の涙が落ちる。

お姉様--ミズさんの死体の上に。

箱は無事空いた。だが中身は金貨と杖だけで、解毒剤など入ってなかった。


ミズさんは、俺の目の前で苦しみながら息を引き取った。

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