第一圏 辺獄の迷宮1 -遺棄-
「益田浩二さん38歳、住所は東京都練馬区、有限会社The-Tech勤務、こちらへは旅行で?」
細川さんは、俺の免許証や保険証などを見ながら質問する。
俺は無論、素直に答える。
甲冑を着込んだ自衛官に職質を受ける。とてもシュールな光景だが、先ほど剣を突きつけられた時の恐怖は忘れちゃいない。
「ここはとても危険な場所です。色々疑問はおありでしょうが、我々の指示に従って頂きたい」
そんな言葉にも、素直にうなずく。
「皆、カツの装備を外す。手伝ってくれ」
細川さんの視線の先には、どう見ても死んでいる"彼"が居た。
「そんな!」
小さな声で叫んだのは、俺より年上のお姉様。
若い頃はさぞかし美人だったろうと思わせる容貌。
革鎧を纏った姿も結構似合っている。気がする。
ただしその顔色は酷く悪い。
「カツを抱え、益田さんを護衛することはできない。カツは此処に置いて行く」
ローブを着た眼鏡の男が遺体に近づき、篭手を外す。
つられるように、革鎧を着た若い男が具足を脱がす。
遺体の装備が、俺の前に積み上がる。
「着れるかどうか、試してみて下さい」
ほ、細川さん、ひょっとしてそれ、俺に言ってます?
遺体が纏ってたものを俺に着ろと?
誰か助けてくれないか、何か言ってくれないか見渡すと、ローブを着た眼鏡男と目が合った。
「疑問は尽きないだろうが命に関わる。着れるなら着た方が良い」
ローブの彼が言う。そして眼鏡の奥の瞳は真剣だった。
マジですか?
マジですね。
震える指を篭手に伸ばし、取り上げ--られなかった。
なんだコレ!
無茶苦茶重い!?
他の装備も試したが、どれも数10kgはありそうで、持ち上げるだけで精一杯だった。
唯一革の鎧だけが軽く、血にまみれたそれをライディングジャケットの上から身に付ける。
装備を外された"彼"は迷彩服を着ており、いかにも自衛官という感じだった。
冥福を祈るべく手を合わせ--ようとした俺の手を掴み立ち上がらせるロボ--いや甲冑姿の自衛官。
さっきからコイツだけは話そうともせず、表情も兜に隠れて読めない。
不気味だ。
遺体の"彼"より不気味だ。
「タダ、前衛に。益田さんは後衛に」
細川さんの声に革鎧の若い男が前に行く。
俺はローブの眼鏡男に手招きされ、その側に。
「前進する」
ズシャッ。
先頭を行くロボ--不気味なアイツが立ち止まる。
すかさず皆が構える。
俺?
俺は、おろおろしていた。
数瞬後、前方の暗闇から白い人影が現れた。
おろおろしていた俺が固まる。
何かの冗談か?
冗談だよね。
お願いだから冗談だと言ってくれ。
その人影は、あちこちに骨がむき出しになったゾンビだった。




