前域
カーブが迫る。
息を吸いながらブレーキを引き込む。
ブレーキを残しながら旋回。
出口が見えたら息を吐きながらアクセルを開け、シートに体重を預けていく。
ようやく取れた時期はずれの夏休み。
俺はツーリング旅行に来ていた。
ただし明日には、帰りのフェリーに乗らなきゃならない。
会社で待っている仕事を思うと憂鬱になる。
俺が勤める会社は、ブラックとまではいかないが残業休出が多い。
客からの無理難題で、徹夜になることも時々ある。
そういえば、あの報告書の期限は明後日じゃなかったか?
仕事に気を取られていなかったら、避けられただろうか?
いや、そんなことはあるまい。
見通しの悪いカーブの先に道路の陥没が見え--次の瞬間、俺は物凄い衝撃を受けて、あっさり気を失った。
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うあー
身体のあちこちが痛む。だが、幸い命はあるようだ。
手足の指も動くし、どうやら骨も折れてはいないみたいだ。
だが問題がある。
ここはどこだ?
遠く上の方、とても登れそうに無い彼方に、穴が見える。
おそらくアレが、俺が落ちた道路の陥没だ。
よく無事だったものだ。
そして俺が居る場所は、時代劇にでも出てきそうな石造りの場所だった。
目の前には愛車--というか、その残骸。
とほほ。
愛車の残骸の後ろは壁。
振り返ると、何処まで続いているか判らない通路。
誰が何のために、こんな通路を地下に造ったんだ?
シートバックからスマホを引きずり出す。
見た感じ壊れてないようだが、電源すら入らない。
困った。尤も、こんな場所じゃレッカーは呼べないだろう。
ガコン!
突然、右手から大きな音がした。
振り向くと壁には穴が開き、その奥から出てきたのは--ロボット!?
しかも2体。
重そうな外見にも関わらず、そのロボット達の動きは素早く、俺を取り囲むと幅広の剣を構えた。
隙があるかどうか判らんが、凄く手馴れた感じがした。
俺?
俺は壁に張り付き、ロボットに向けて手を突っ張り『来るな、来るな』と心の中で叫ぶだけ。
声も出やしない。
「お前、日本人か?」
ロボットが言った。
え?
ええ、ええ!
日本人、日本人ですとも!
相変わらず声も出ない俺の前で、ロボットは構えを解く。
もう一方のロボットが自分の顎に手をかけ、面甲を跳ね上げた。
「自分は陸上自衛隊、第16普通化連隊、細川忠利一曹です」
陸自?
ここ、自衛隊の基地か?
あ、益田浩二です。日本人です。
ようやく声が出るようになった。
気付けば、ロボットと思ったのは西洋甲冑を着た人間だった。
なぜ自衛隊員が甲冑?
後から何人かの人々が現れた。
皆、革の鎧やローブなど、ファンタジーな衣装を纏っている。
俺の周りに集まって、目を丸くして俺を見ている。
いや、2人だけ別の方向を見ていた。
1人は細川さんじゃない方のロボット--いや甲冑を着た人。この人は辺りを警戒していた。
もう1人は革鎧に兜を被っていて--
どう見ても彼は死んでいた。




