一幕
「ちょっといい? 田端さん」
学校での休み時間、廊下を歩いていた叶に声がかけられる。
「えっと、隣のクラスのリリカちゃんだよね。何かな?」
「その……あなた本条弓狩と話していたわよね? あの鬼……じゃなくてあの変人と友達なの?」
「あはは……噂ほど怖い子じゃないよ。無闇に暴力を振るったりもしないし」
鬼、の後には何が続くところだったのだろう。苦笑いしながら叶は答える。
「ふ~ん……」
「弓狩ちゃんがどうかしたの?」
「ううん、大したことじゃないの。ありがと」
それだけ言うと、リリカと呼ばれた女生徒は足早に立ち去ってしまった。
「……何だったのかなあ?」
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笹山リリカは目立ちたがり屋でプライドが高い。優秀な頭脳と端麗な容姿を持ち、才色兼備とは自分のためにある言葉だと思っている。整った顔立ちとハーフゆえの金髪を二つ結びにした彼女の姿は嫌でも人目を惹くだろう。学校一の人気者の座は私の物だ、と中学校へ進学する前の彼女は思っていた。だが、現実は違った。リリカよりも目立つ生徒がいたのだ。
本条弓狩。
まあ悪目立ちではあるのだが。リリカほどではない(とリリカは思いたい)が優れた容姿を持ち、長い黒髪に真剣を帯び妙な言葉遣いをするという目立つ要素満載の弓狩は、入学早々不良生徒に目を付けられた。しかし弓狩は自分にちょっかいをかけてきた不良を一人残らず叩き伏せてしまった。それ以来、弓狩は学校中から恐れられ、避けられている。だがその強さと凛々しさから隠れファンのような生徒も多い。人気という意味ではリリカの方が上だろうが、知名度では弓狩の方が上だ。
「気に入らない……! あの変人!」
とは言え弓狩に対して何が出来るわけでもない。いじめのような陰湿な手段はリリカも嫌いであるし、まさか本人に喧嘩を売るわけにもいかない。いつかどうにかして一泡吹かせたい、とリリカは思っていた。全く手段は思いつかないのだが。
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「遅い!」
「ギィィ!」
棍棒を手に打ちかかろうとする小鬼、『ゴブリン』の胸に刃が突き立てられる。急所を貫かれたゴブリンはあっという間に灰となって散った。
「ふう……これで最後か」
「お疲れクー、ユカリ」
複数体同時に現れたゴブリンだったが、如何せん一体一体の力は弱い。各個撃破され弓狩に傷一つ負わせられずに全滅した。
「しかし、何とも手ごたえが無いな」
「楽に勝てるに越したことはないクー。オーガの時みたいなのはヒヤヒヤするクー」
「無論痛い目に遭いたい、という訳では無いがな。どうも物足りん」
「物足りないままであることを祈るクー……」
初陣から一週間が経った。あれから幾度か魔物が出現したが、オーガのような強敵は現れずいずれも苦戦することなく撃退に成功していた。魔法少女としての活動は上々と言える。
「まあ何はともあれ今日は終わりだ。帰るぞ」
「クー」
刀を納め変身を解除する。魔法の衣装は光の粒子となって消え、瞬時に元の服装へと戻った。
「な、な、い、今のは一体……?」
今日の弓狩の戦い、その一部始終を遠目から見ていた者がいた。リリカだ。
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放課後、何だか慌てた様子で弓狩が飛び出していくのを見かけたリリカは好奇心からこっそり彼女の後をつけることにした。だが、軽い気持ちで追いかけたことを少し後悔していた。
「ど、どこまで、走るのよ……はあ、はあ」
弓狩の俊足についていくのは大変だ。才色兼備を自負するリリカではあるが運動はあまり得意ではないのだ。疲れてきたし段々馬鹿らしくなってきたしもうやめようかと思い始めたところで、ようやく弓狩が足を止める。市街から少し離れた人気のない道だ。周りを林に囲まれているせいでまだ夕方だが薄暗い。それに、何か言い難い寒気を感じる。
「あいつ、こんな場所に何の用なのよ……」
少し離れた電柱の陰から弓狩の様子を伺うリリカ。
「ギッ」
「ギィ!」
すると辺りからこの世の物とは思えない奇妙な生き物が現れ、弓狩を取り囲んだ。
「えっ……!」
驚くリリカを余所に弓狩は不敵に笑う。
「出たな物の怪。数を頼みに女子を嬲ろうとは不届き千万。その腐った性根ごと叩き切ってくれる」
傲岸に言い放ち、刀を掲げつつ弓狩は呪文を唱える。
「我は魔を狩る魔の刃、夜闇を払う剣なり! ――変身!」
眩い光が彼女を中心に放たれ、それが収まったかと思うと先程とは違う姿の弓狩が現れる。
「……!? んぐっ」
思わず大声を上げそうになり慌てて自分の口を塞ぐリリカ。
「魔法少女・魔侍狩弓狩……参る!」
自体を飲み込めないまま傍観するリリカを置いて、戦端が開かれた。
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昨日の敵は今日の友。刀と砲、影と蝶とが交差する。




