↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔刃少女血風録  作者: アワユキ
三章『天魔と試練』
11/17

幕間

【閑話 四】


 青い空、白い雲、そして空に輝く太陽。白い砂浜に、何処までも広がる水平線。海だ。

 季節は初夏に差し掛かり、海水浴の時季が到来した。弓狩とリリカと叶、そしてクーとタミンは海に遊びに来ていた。


「プライベートビーチなんて、ほんとにあるんだねえ……」


 水色のタンクトップとショートパンツを組み合わせた様な水着を着た叶が呆けた様に呟く。


「ふふん、すごいでしょ!」


 派手な赤色のビキニを着たリリカは踏ん反り返って自慢げな様子だ。この砂浜はリリカの家の私有地らしい。小さな入り江には、彼女達以外には誰もいない。引率として笹山家の家政婦の女性が三人を車で送って来たが、子供達だけで楽しんでもらおうという気遣いで、砂浜から離れた場所で待機している。

 余談だが、リリカが友達と一緒に海に行くからプライベートビーチを使わせて欲しい、と両親に頼んだ折、両親も家政婦もとても驚きそして喜んだ。リリカは友人は多いものの、学校の外で会う様な仲の良い友達は居なかったからだ。両親もリリカを良く知る家政婦も、癖の強い性格のリリカが実は学校で浮いているのではないかと心配していたらしい。


「すごいのはお前じゃなくてお前のご両親だろう」

「……なんであんたスク水なのよ」


 弓狩が着ているのは体をぴっちりと包む紺色の水着、所謂スクール水着だ。


「なんでと言われてもこれしか水着を持っていないからな。泳ぐのに何も支障は無いぞ?」

「まあ、いいんだけどね別に……」

「話には聞いてたけど、本当に何処までも広がってるクー!」

「すっごく広いですミン! すごいですミン!」


 クーとタミンが感嘆の声を上げた。魔法界には海は無いらしく、これが初めて見る海だそうだ。


「ねえねえ、妖精さんって泳げるの?」

「え? ……水に浸かるのは苦手クー」

「同じくですミン。でも見てるだけで楽しいですミン」


 そう言うと妖精達は砂遊びを始めた。動物の様な手をしているが意外と器用だ。


「それにしても……」


 リリカが自分と弓狩と叶、三人を見比べる。


「こっちの方は私の勝ちね!」

「何の話だ?」

「リリカちゃんスタイルいいもんね」


 またリリカが踏ん反り返った。どうやら三人の体つきを比べていたらしい。ハーフだからだろうか、確かにリリカは二人に比べると発育が良い。


「すたいる……体型の事か。リリカは少し肉が付きすぎではないか?」

「んひゃ! 何すんのよ!」


 リリカが奇声を上げた。弓狩の指ががリリカの腹の肉を摘まんでいるのだ。


「私に無駄な肉なんて無いわよ!」


 リリカが弓狩の指を振りほどいて叫んだ。


「でも弓狩ちゃんもすごいよね。なんていうか、かっこいいもん」

「かっこいい……そうか?」


 弓狩の体は日々の鍛錬でかなり引き締められている。均整が取れているという意味ならリリカよりは弓狩の方が上だろう。ちなみに叶は良くも悪くも無い、平均的な体つきだ。


「くっ……流石は私のライバルね!」

「何を言ってるんだお前は……」


 何時の間にかリリカのライバルとして認定されていたらしい。


「……よし、それじゃあの入り江の端まで競争するか、リリカ」


 弓狩が指差した先、入り江の張り出した陸地が途切れた箇所は浜から100メートル程離れている。そこまで行って帰って来るのは一般的な中学生の体力では少し難しそうだ。


「えっ何がそれじゃなの? ちょっと! 待ちなさいよ!」

「そうだな。準備運動はしないとな」


 そう言うと弓狩が体の筋を伸ばし始める。


「いやそういう事じゃなくて」

「よし! 行くぞ!」

「ああもう!」


 準備運動を終えた弓狩が海へ飛び込む。リリカも止むを得ず後を追った。


----------


「げほっ、うぇっ……」

「大丈夫? リリカちゃん」


 砂浜に立てたパラソルの下で、溺れかけて水を飲んでしまったリリカが叶に介抱されている。


「泳げないなら先に言えば良いものを」


 懸命に弓狩に着いていこうとしたリリカだったが、半分も行かないうちに力尽きてしまった。慌てて叶が助けに入ったので大事には至らなかったが。


「はぁ、はぁ……泳げるわよ! 25メートルくらいなら……そもそも、言う暇も無くあんたが飛び出して行ったんでしょうが!」

「すまん。海は久しぶりだから少しはしゃいでしまった。それにしても叶も中々泳ぎが達者だな。リリカ一人抱えて岸まで戻るとは」

「うん、水泳はちょっとだけね」

「よし! それじゃ次は叶、勝負だ!」

「いやいや……流石に弓狩ちゃんには勝てないよ。それにちょっと疲れちゃった。休憩にしよう」

「そうか……しょうがないな」


 弓狩もパラソルの下に入り、二人の隣に座り込んだ。


「ていうか、それ海にも持ってきてるのね……」


 日影に置かれた荷物の横には日本刀、朝景が立てかけられている。


「当たり前だろう。刀は剣士の魂だ。それにお祖父ちゃんの形見でもあるしな」

「孫娘に真剣を渡すお祖父ちゃんって……」

「この前も言ってたけどなんかすごそうね、弓狩のお祖父ちゃん……」

「ああ、凄かったぞ。それはもう強かった。鬼の様に強かった」

「あんたがそこまで言うって相当ね……」

「去年亡くなってしまったが、結局一度も勝てなかったな……今の私があるのもお祖父ちゃんが技や体を鍛えるだけでなく、剣士としての心構えも叩き込んでくれたお陰だ」


 弓狩が腕を組み、過去を思い出しながらしみじみと呟く。


「あの優しそうなお父さんからなんでこんな乱暴な娘が産まれてきたのかと思ってたけど、お祖父ちゃんのお陰というかお祖父ちゃんのせいというか……」


 以前リリカと叶が弓狩の家へ行った時、彼女の父親に挨拶した事がある。弓狩とは違う穏やかな物腰の人だった。


「うーむ、どちらかというと私は母さん似だと父さんには言われていたな」

「ちなみに、弓狩ちゃんのお母さんはどんな人だったの?」

「母さんも物凄く強かった。鬼の様に強いお祖父ちゃんと戦って三回に一回は勝っていたからな」

「そういう家系で育ったからこんな仕上がりに……」

「さっきから失礼な奴だな」

「や、ちょっと、摘まむな!」


 失礼な事を言うリリカの腹の肉を、また弓狩が摘まんでいる。


「そういえば、こないだ弓狩ちゃんちに行った時はお母さん居なかったね」

「ん、母さんは私が小さい時にな……」

「ご、ごめん」

「いや、気にするな。母さんの事もお祖父ちゃんの事も、もう過去の事だからな……」


 少しだけ、弓狩の表情に影が差す。


「えーっと……ん? 妖精さん達が作ってるそれは……何なの?」


 話題を変えようとした叶の目に、砂遊びをする妖精達の手元の物体が映った。


「これは四百分の一スケール、魔法城クー!」

「ほう、中々見事な城だな」


 かなり精密に作られた砂の城だ。


「ここの曲線、甘いですミン。もうちょっと削りますミン」

「何を目指してるのよ、あんた達は……」

「妖精族は遊びにこそ本気を出す種族なんだクー!」

「自慢にならないでしょそれ……」

「でも、すごいよこれ」

「まあすごいけどさ」


 城はまだ未完成の様だが、かなりの力作と言える。


「ちょっと気になってたんだけど、妖精さんって日本語上手だよね」

「……言われてみればそうね。ていうか魔物まで日本語喋ってたし」


 まともな交流など存在しないはずの異世界に、日本語が存在している筈はない。だが意思疎通が成立しているのも事実だ。


「いや、クー達も魔物も日本語なんて喋れないクー」

「何を言っている。現に今、会話しているだろう」

「妖精や魔物みたいな魔的な生物は、魔力に言葉を乗せて相手に伝える会話法を行っていますから言語の違いは関係無いんですミン」

「……何だって?」

「いわゆるテレパシーみたいなものだと思えばいいクー。ちなみに相手の言葉を聞く時は相手の言葉に乗った意思を読み取るクー」


 彼らは普通に言葉を話している訳ではなく、何やら超常的な方法で会話を行っているらしい。


「……成程、てれぱしーだな」

「分からないなら分からないって言った方がいいわよ」


 しかし、その説明は弓狩には少し難しかった様だ。


----------


「出来たクー!」

「我ながら素晴らしい出来ですミン」


 四百分の一スケール、魔法城が遂に完成した。中央に聳える堂々たる姿の主塔、それを取り囲む堅牢な城壁と尖塔を見事に再現した匠の一品である。


「まだやっていたのかお前達……」

「本当に無駄な事に全力ね」


 休憩した後、ビーチボールで遊んでいた弓狩達が妖精達の所へ戻って来た。


「すごーい……器用なんだね、二人共」

「この芸術を理解してくれるのはカナエだけだクー」

「ユカリンもリリちゃんも審美眼が足りないですミン」


 芸術への理解が足りない二人に、クーとタミンが憤慨する。


「分かった分かった。だが、砂浜でそんな立派な物を拵えても……」

「あっ!」


 弓狩の言葉の途中で、リリカが声を上げた。一際大きな波が砂浜を襲い、無慈悲にも妖精達の作り上げた砂の城郭をさらっていってしまう。


「ああ……」

「折角の芸術が……ですミン」


 無情な現実に、二人が打ちひしがれる。


「え、えっと、元気出して二人共」

「……大丈夫! この儚さも含めて芸術クー!」

「妖精族は終わった事は振り返らないですミン!」


 震えた声で言い切る様子は余り大丈夫そうには見えないが、本人達がそう言うのなら大丈夫なのだろう。


「正に諸行無常だな。よし、お前達も体を動かして嫌な事は忘れろ!」


 言って、弓狩がボールを掲げる。


「いいわね。ただのボール遊びとはいっても弓狩に負けっ放しはしゃくだし、全員で弓狩を潰すわよ!」


 弓狩の身体能力は、水泳のみならず様々な運動において発揮される。リリカと叶はその動きに着いていくのもやっとだったのだ。


「やるクー!」

「お覚悟ですミン!」


 意気消沈していたクーとタミンもやる気を漲らせる。遊びに全力という前言に偽りは無いらしい。


「その意気や良し! 来い!」

「あ、あんまり乱暴なのはダメだよ……?」


 ここに四対一の激戦の火蓋が切って落とされた。


----------


 平穏は終わり、真の敵が来たる。天を割り地を裂く、魔なる者の王が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。