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【三十一日目】

【三十一日目】

 体力は一朝一夕に身に付くものではない。

 エディさんのインドア派っぷりは筋金入りのようだった。

 全身筋肉痛で体を動かせないエディさん。

彼女はベッドでうつ伏せに寝て動けない。

しかし時々うつ伏せた顔を横に向けて、動かせない体とは対照的に滑らかに口を動かし、全身筋肉痛の責任を取るように何度も訴えかける。

 具体的に言えば「看病をしろ」と異議申し立てているわけですね。

 別に病気とかじゃないのに……。

 ただの筋肉痛なのに……。

 しかし俺は押しが弱いのかもしれない。それなりにお喋りな性格だとは思うのだが、肝心なところで弱いと言いますか……。強く言われると、どうも押し切られてしまう。

 俺は、全身筋肉痛で動けないエディさんの看病をしていた。

 「林檎食べる」と言われれば切り分けた林檎を口に運び、「水」と言われれば竹筒を口元に寄せて、「暑い」と言われれば大きな葉っぱを扇いで風を送る。

 まるで奴隷のような従順っぷりだ。

 いつの間にかそのような現状になっていたことを、はっ、と気付いた俺は、甘やかされてだるんだるんに弛んだエディさんに一喝、……もとい御願い。

 すみません、これから俺外に出かけるんで、ご飯をお任せしてもいいですかー?

 エディさんのキツイ顔が向けられる。

別に俺を睨んでいるわけではないけど――――、

睨んでいるわけではないと信じたいけれど、……うむ、結構心臓がドキドキする。普段の表情からして人を威圧する顔付きなので、一瞬で判断するとなると睨まれた印象が強い。気のせい、気のせい、気のせいだ。

 エディさんは何か言いたそうな顔をしたが(具体的には険しい表情)、最終的には口をへの字に曲げて、顔をうつ伏せた。

了承してくれたのだろうか? 帰ってきたら手料理はちゃんと振る舞ってくれるのでしょうか? 結構微妙な雰囲気だ。俺の直感でもどうなるか分からない。俺の勘は元々半分ぐらい外れる感じがするから別に勘が働かなくてもどっちでもいいのだが、帰ってきた時に何もないのは結構淋しい。

 ……ああ、そうだ。

 食材集めに外に出かけるその瞬間に、忘れていたことを思い出す。

 はいコレ、渡しておきますエディさん。保険代わりに持っていてください。と、俺はレーザーポインターをうつ伏せたエディさんの隣に置いた。

使用方法と使用目的は、見て理解しているはずなので、使えないことはないだろう。

 大抵の獣は目に強い光を当てられたら驚いて逃げだす。混乱して暴れ狂う場合もあるが、必要以上に近くにさえいなければ混乱している隙にこちらが逃げることぐらいできるだろう。

 だがレーザーポインターはあくまで保険だ。基本的に野生動物は草食肉食問わず危険性があるので、インドア派の虚弱児さんは体力と判断力がついて相手に慣れるまでは、必要以上に刺激を与えない方が良い。逃げるなら逃げて、隠れるなら隠れる、動かないなら動かないことがベストだ。

 とくにエディさんは逃げるだけの体力も無いようだし、足も遅いし……。

 レーザーポインターを渡すのはすこし早計だったかなと思いつつも、やっぱり手元に武器が無い状況は不安があるだろう。俺だってレーザーポインター一つ無くなるだけで、一気に危険度が増した気がする。人間誰しも、いざと言う時の保険があるだけで、随分と心が落ち着けるものだ。

 そろそろ外に出かけようと一言かけて洞窟入口を背にすると、その背中に言葉が届いた。俺は振り返ってみるが、同居人は相変わらずうつ伏せたままだ。

 それでも俺は、背中にかけてもらった言葉に元気をもらったような気がする。

 じゃあ、行ってきます。

 いい加減、お肉でも狩猟ってとってこようと思うから期待してな!






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