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3話 アッシュブロンドの美少女

 商隊が王都を出発して三日目の午前、事は起きた。


「………………ん?」


 先頭を歩いていた俺は、遠く前方の光景に違和感を見た。

 足を止めて、すぐに懐から双眼鏡を取り出して覗いて見る。

 すると俺の行動に気付いてか、御者さんも馬を止めさせる。


「リオ、どうした?」


 先頭の馬車の中にいるアンドリューさんは、どうしたのかと声をかけてくるが、ちょっと待ってほしい。


 ……山賊か野盗か、まぁガラの悪そうな、武装した破落戸が四人と、それに対して身形の良い女の子一人がレイピアを手に対峙している。


挿絵(By みてみん)


 どっちが悪者か、一目瞭然だな。


 状況確認完了、双眼鏡から目を離してアンドリューさんに目を向ける。


「アンドリューさん。前方に破落戸らしい男が四人、女の子一人に悪さしようとしているみたいなんで、ちょっと片付けてきます。それと、他の冒険者には周囲を警戒してもらってください」


 前方にいる四人だけじゃないかもしれないからな、念のためにと言うやつだ。


「あい分かった、頼んだぞ!」


 アンドリューさんからの許可を得て、俺は駆け出す。


 大きく息を吸い込んで、


「おぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 敢えて大声を上げて、向こうにこちらの存在を主張する。

 すると、破落戸四人と女の子の全員が、駆け出してくる俺に目を向けてくる。


「なんだぁお前?野郎共、伸しちまえ!」


 リーダーらしい男が、標的を俺に切り替えさせてきた。

 今の内に女の子が逃げて――商隊がいる方向へ――くれればいいんだが。


 手下の三人が、剣や手斧を手に襲い掛かってくるが、動きを見た感じ、多分こいつら素人だな。

 だったらロングソードは必要ない、無益な殺生をする趣味も無いし、徒手格闘で十分だろう。

 向こうの得物の間合いに入り、先頭にいる奴が手斧を振り上げたところで、


 ――【タイム連打】、発動――


 瞬間、世界が呼吸を止めた。

 ピタリと、光と風さえもその流れを止める。

 それに合わせて、俺の挙動もまた止まる。


 瞬きすら出来ない、全てが停止した世界。

 だがこの一瞬、()()()()()()()()()()()()()()()

 先頭にいる奴が、手斧をどのように振り下ろしてくるかを注視する。

 手斧の高さを見た感じ、首筋などの急所を狙ったものではないな、単に力任せに振り下ろすだけのようだ。


 確認完了、


 ――【タイム連打】、解除――


「死ねぇ!」


 瞬間、時の速度が元に戻り、手斧が凶刃となって振り下ろされるが、そうくることは既に"視“ているので、踏み込みを半歩ズラして躱し、躱した足を軸足にくるりと一回転して、


「ふんッ!」


 右の裏拳。

 遠心力のついた一撃は、目の前にいる奴の右側頭部のこめかみ辺りへ強かに打ち込まれる。


「こっ」


 裏拳を直撃し、短い呻き声と共に気絶した。

 スラム時代から生きるために勝手に鍛えられたこの裏拳で、ガキのはした金を揺すろうとするクズ野郎を何人もぶっ飛ばしてきたものだ。

 冒険者になった今でも、非殺生の対人攻撃手段のひとつとして数えている。


「こ、こいつ!」


 一人を倒されて、残る二人も慌てて攻撃しようとしてくるが、


 ――先程と同じように【タイム連打】を発動、得物の間合いと太刀筋を先読みしておき――


「んがっ」


「ぶべっ」


 攻撃を躱すと同時に反撃、意識を刈り取るために頭部の急所を正確に裏拳と、ハイキックを打ち込む。

 

 手下三人を無力化したところで、あとはリーダーのこいつだけだ。


「ぐっ、ク、クソッ……!」


 不利を悟ったのか、逃げようとしている。

 が、そうはいくか。


「逃がすか!」


 打ち倒した手下の手斧を拾い、下投げでリーダーに向かって投擲する。

 すると、


「おっ、うわっ!?」


 手斧が足にぶつかり、縺れて仰向けに転んだ。

 足のどこかに斧刃が食い込んで負傷させられれば御の字だが、結果オーライだ。

 立ち上がる前に背後を取り、今度は俯せに押し倒した後は、目に見えるように首筋にナイフを突き付ける。


「動くな」


「ッ……」


 こいつはここで殺さない。何故なら生け捕りにして情報を洗いざらい吐いてもらうからだ。

 吐かせるだけ吐かせたら、身ぐるみ引っ剥がした後で簀巻きにして、森の近くに放り出すだけだが。

 森の近くに放っておけば、魔物が勝手に"処理“してくれるからな。

 運が良ければ誰かに助けてもらえるかもしれないが、その可能性は限り無くゼロに近いだろう。


 リーダーを踏ん縛ってから、周囲を確認し――さっきの女の子が、遠巻きに見ていた。逃げても良かったのに。


「怪我は無いか?」


 見たところ怪我は無さそうだが、一応訊いておく。


「は、はい、大丈夫です。危ないところを助けていただき、ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げてお辞儀すると、彼女のアッシュブロンドのハーフアップが揺れ靡いた。


 こうして見ると、かなりの美少女だな。

 武装しているとは言え、着ている服も上等なものだろうし、どこか良いところのお嬢さん……だとしたら、こんな街道の真ん中に、それも一人でどうしたのか?


「俺はリオ、冒険者だ。近くに護衛している商隊がいるから、そこに助けてもらうといい」


「私は『アイリス』です。訳あって一人で旅をしていたのですが……」


 いや、良いところの、しかも見たところお年頃のお嬢さんが一人旅って。

 何やら"ワケアリ“のようだが、ともかくは彼女を連れて商隊と合流した方が良さそうだ。

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― 新着の感想 ―
やはり周囲の状況を把握するのに便利ですよね。 弱点もしくは天敵になるのは、依頼内容や達成条件によるかもしれんが、飛び道具の腕があまりにも下手で、予想外の方向に飛んじゃうような、軌道を予測できないような…
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