4話 事情聴取
「おぅリオ、お疲れさん……と、そちらのお嬢さんは?」
アイリスを連れて商隊の元へ戻ってくると、真っ先にアンドリューさんが駆け寄ってきた。
「何か訳あって一人で旅をしているらしいです。破落戸に襲われていたから、とりあえず助けましたが……」
商隊に同行する者達は、基本的に言い値で手数料を払っている。
それは商隊の維持費でもあり、同行者の食費でもあるのだが、自前で護衛などを用意出来ない者にとっては、高額の報酬を冒険者に払わずに安全性を高められるので、ぜひとも同行したいのだ。
商隊側としても規模が大きくなればそれだけ魔物や野盗も近付きにくくなるため、結果的に互いのためになる。
だが、こうして道中で人助けをした場合は、対応に困ることがある。
金にがめつい代表者なら、手数料を払えないなら同行させられないと厳と断る者もいると言えばいるからだ。
事態の流れから俺がアイリスを保護した、と言う形にはなったが、彼女を商隊に同行させるか否かはアンドリューさんの返答次第だ。
「先程、こちらの冒険者の方に助けていただきました、アイリスと申します。料金はお支払いしますので、商隊に同行させていただけないでしょうか」
話し言葉と言い、その所作と言い、やはりアイリスは貴族か王族か、それなりに高位の身分なのだろう。
「ふむ……」
アンドリューさんは白髭を扱きながら、何か考えている。
手数料を吊り上げてぼったくろうとか考える人では無いと思うが……
「アイリス……アイリス……もしやお前さん、"エイルブルー“公爵家の娘さんか?」
公爵家の娘?
アイリスは公爵令嬢だったのか。
「そうです。……故あって、今はもう公爵令嬢では無くなってしまったのですが」
「公爵令嬢では無くなってしまった?それはどういう……いや、うむ。手数料はいいからひとまずオレ達に同行するといい。詳しい話は後で聞こう」
前方の安全を確保出来たので、とりあえずは商隊を再出発させるのが優先だ。
俺も先頭の守りに就き直し、アイリスは先頭の馬車の中に入ったところでアンドリューさんは再出発の号令を上げる。
前方を注意しながらも、意識の半分くらいは先頭の馬車の中――アンドリューさんとアイリスの話に向けている。
話の内容は断片的にしか聞こえないが、冤罪だの、婚約破棄だの、追放だの、あまり愉快じゃない単語がアイリスの口から語られている。
なんとなくだが――冤罪で婚約破棄された上に公爵家から追放されて、行く宛も無く一人旅をせざるを得なかった……ってところか?
だとしたら酷い話だ。しかも追放ってことは、こんな魔物や破落戸が跋扈するような外の世界に放り出すってことだ。遠回しどころかド直球で「死ね」と言っているに等しい。
結果的に、アンドリューさんの商隊に助けてもらえたし、今日の夕方頃には流通都市のカイツールに到着する予定だ。
身の振り方に関しては、カイツールに着いてから考えても遅くは無いだろう。
……身の振り方について考えるのは、俺自身もそうだが。
まぁ今は護衛の仕事を全うしないとな、考えるのはそれこそその後でいい。
午後になり、一度足を止めて昼食だ。
食事を作ってくださる料理番の人から、具だくさんのスープと薄焼きのパンを受け取り、さてどこで食べようかと辺りを見回して――アイリスの姿が見えた。
一人で男に囲まれているよりは、同性の方々と固まっている方がいいだろう、と言うアンドリューさんの配慮で、事情聴取を終えたあとは女性が詰めている馬車の方に移動してもらったのだ。
そのアイリスは、女性の商人や冒険者と談笑しながら食事を楽しんでいるので、横からお邪魔することも無いな。
「おぉリオ、良ければこっちで一緒にどうだ?」
っと、アンドリューさんにお呼ばれしたのでそちらへ。
「お邪魔しますっと」
馬車台に腰かけて、いただきます。
「そう言えば彼女……アイリスはどうでしたか?」
先程の事情聴取のことだ。
断片的にしか聞こえて無かったから、聞ける範囲だけでも知っておこうと思ったのだ。
「うむ。彼女は王都のエイルブルー公爵家の一人娘、アイリス・エイルブルー。冤罪を理由に爵位を剥奪され、婚約者からも婚約破棄、トドメとばかり王都から追放と、踏んだり蹴ったりだったらしい」
やはり冤罪か。
しかしアンドリューさんはどこか納得出来ていない顔をしている。
「エイルブルー公爵家は、王家に深く根を張っている、清廉潔白かつ品行方正な貴族だ。冤罪とは言えただ一度の過ちだけで、当主の一人娘を追放するなど、普通では考えられん」
貴族間での共通認識などは、俺の知るところではないが……アンドリューさんから見ても、アイリスの追放刑は不自然過ぎると言う。
「それで、追放されて行く宛も無かったから、一人旅をしていたってことですか」
「そう言うことらしい……ひとまずはカイツールに連れていき、そこからどうするかは彼女と相談しながらだな」
それよりも今は食事だな、とアンドリューさんはパンを頬張り、スープの具を豪快にスプーンに掬ってガツガツといく。いい食いっぷりだな。
俺もアンドリューさんを見倣うように、美味しそうにがっついた。旨い。
食事が済んだら、カイツールまでもう少しだ。
これまでの道中と同じく、頻度は少ないが魔物を迅速に討伐しつつだが、なんとか日が暮れる前にカイツールの街並みが見えてきた。
アンドリューさんは先んじて、門番に身分証やら商隊関連の書類などを見せて、二、三確認事項を改めて、商隊はようやくカイツール入りだ。
さて、ここから俺はどうするかな……




