12話 ヴェイルワイバーン撃退戦
一方のアイリスは、ヴェイルワイバーンを相手に一人で立ち向かっていったリオの身を案じながらも、大荷物を運んでいる冒険者達の護衛に専念していた。
正確な状況は三人組の冒険者の内、一人が大荷物を運び、残り二人が進路を啓開し、アイリスは背後の守りについていると言う形。
「もう少しで拠点だ、すまないがそこまで付き合ってくれ」
前方にいるリーダーからそう言われて、アイリスは頷いてみせる。
拠点に入りさえすれば、ひとまず休むことが出来るからだ。
幸いにも、小型の魔物と交戦することなく、アイリスと冒険者達は拠点の中に入ることが出来た。
「ふぃー……なんとか逃げ切れたなぁ」
運んでいた荷物を下ろし、冒険者達は地べたに座り込んで一息ついた。
ここまで気を張り詰めていたアイリスも、一度緊張の糸を緩めるため、ポーチから飲料水の入ったボトルを取り出して水分補給する。
「ふぅ……」
身体に水分が行き渡り、クールダウンしていくのを感じ、緊張から冷静さを取り戻していく。
真っ先に思ったのはリオのこと。
恐らくはまだヴェイルワイバーンと戦っているだろう。
急いで助けに行かなければとは思うものの、スライムを倒すのにさえ一生懸命な自分が加勢しに行ったところで、足手まといにしかならない。
それは彼女自身が一番よく分かっていたし、リオもアイリスを庇いながらでは戦えないから、「逃げろ」と言ったのだ。
であれば今の自分に出来ることは、リオが拠点に戻ってくるのを信じて待つだけだ。
「助かったよ、礼を言わせてくれ」
すると、冒険者三人組のリーダーが声をかけてきた。
「いえ、私は何も。それより、どうしてあの飛竜に追われていたのですか?」
アイリスは気になっていた。
リオが言うところの、大型飛竜の縄張り争いに巻き込まれただけにしては、ヴェイルワイバーンがやけに執拗的に見えたからだ。
「あぁ、それはあれが理由だな」
リーダーが指した方向には、テント内の簡易ベッドに置かれた、彼らが運んできた大荷物だ。
「食糧品ですか?」
きっとあのヴェイルワイバーンは、縄張り争いに敗れたせいで腹を空かし、気が立っていたところに、(いい匂いがしてそうな)それを目当てに襲い掛かってきたのではないか、とアイリスは彼らの事情を知らないなりにそう予想してみたが、
「……まぁ、そんなとこだ」
リーダーの答えはどこか端切れの悪いものだった。
食糧品を運んでいるだけなら、「はいそうです」と答えればいいはずだが、何故そんな曖昧にぼかしたような答え方をしたのか。
「何にせよ、俺達にとっては大事な『依頼の品』なんだ。守りきれてよかったよ」
それに、と慌てて取って付け足したように。
「彼は大丈夫だろうか。上手い具合にやり過ごしてくれればいいんだが」
彼、と言うのはリオのことだ。
それはアイリスも心配しているところだが、確かめる術が無いのはもどかしい。
が、アイリスは内心で彼らを少し疑い始めていた。
彼らは何か隠しているのではないか?
それも、あまり表沙汰にされたくないことを。
火炎ブレスの隙、突進の勢いを殺した隙、飛び掛かって着地した隙……それらを全て【タイム連打】による時の一時停止と再生を高速で繰り返すことで見切り、ロングソードで斬り付けていく。
顔面に、翼膜に、腹下に、鱗や甲殻に守られていない部分を的確に突き、肉を裂き、出血させる。
ヴェイルワイバーンが繰り出す一撃必殺の数々を掻い潜り、少しずつ傷を刻みつけていく。
「ハァッ、ハァッ、フゥッ……」
反撃と反撃の応酬の合間に呼吸を整える。
【タイム連打】と言えども、当たり前だが万能ではない。
いくら消費する魔力量が限りなく小さいと言っても、このスキルはあくまでも時止めでしか使えない。
俺自身が強化されたり、相手を弱体化させるわけではないのだ。
だからこそ俺は、身体を鍛えることは怠らなかった。
【タイム連打】に頼らずとも戦えるように、ルイン達と違ってスキルによる攻撃力や、能力強化が望めない、俺なりの役割。
――【タイム連打】、発動解除発動解除発動解除発動解除発動解除……――
ヴェイルワイバーンは、俺に勢いよく尻尾で薙ぎ払おうとしてくるのが分かる。
尻尾の間合いから飛び退き、一歩遅れて棘の生えた尻尾が地面に叩き込まれ、棘が深く突き刺さる。
――腹の下を狙う好機!
着地と同時に駆け出し、踏み込み、下から掬い上げるようにロングソードの切っ先を奴の下腹部を斬り込ませ、引き裂いた。
明確に肉を斬り裂いた感触が、柄越しに届くと同時に鮮血を撒き散らし、ヴェイルワイバーンは鑪を踏む。
「今のは効いただろ」
と言いつつもすぐさま離脱し――次の瞬間には奴の尻尾が振り抜かれ、先端の棘が俺のジャケットを掠める。
あっぶね、ほんのもう少し離脱が遅れていたら、横合いからぶん殴られていたところだった。
冷や汗を感じながらも、ロングソードを構え直して奴の動きを注視する。
ヴェイルワイバーンは俺と正面から向き合い直し、睨み付けてくる。
グォルルル……ッ、と低く唸ったかと思えば、次の瞬間には翼を羽ばたかせて飛び上がり――そのまま明後日の方向へ飛んでいってしまった。
「…………行ったか」
飛び去った方角から、拠点の近くに向かったわけではない辺り……ようやく諦めてくれたようだ。
ヴェイルワイバーン、撃退。
ふぅ、俺一人でも撃退なら、なんとかなるもんだな。
ともかく脅威は去ったので、早くアイリスと合流しなければ。
ロングソードを背中の鞘に納め、一休みする間もなく俺は駆け出した。




