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34 暗雲

 王城では内密にフィリウスが呼び出されていた。

 ルーチェアットで行われる新大聖女の就任式典参加に向けての準備で忙しくしていたのだが、至急の話があると国王宮の中にある応接室に来いと指示されたのだ。

 ここに呼び出されるのは重要な案件の時だ。聖女召喚に使徒がいたと分かった時にもここに呼ばれた。

 何が起きたのか。

 国王宮の手前でガスパルにここで待つように伝えて、フィリウスは一人で奥へと進んだ。


「コンコルディア宰相がお見えになりました」

「通せ」


 中から聞こえてきた短い答えに、部屋の中に入るとすぐさま扉が閉じられる。


「挨拶はいい。座れフィリウス」

「は」


 小さな身体でソファによじ登るように座るフィリウスをじっと見つめながら、国王ラディスラウスはやりきれないような表情を浮かべて口を開いた。


「先程ルーチェアットから緊急の魔法書簡が送られてきた」

「緊急魔法書簡?」


 フィリウスの顔が小さく歪む。何よりルーチェアットからというのが自体が重い事を示していた。


「聖女が消えた」

「…………どういうことでちょうか?」


 確か通常の連絡では聖女アヤカは一昨日無事にルーチェアットに到着して仮住まいとなる神殿に入った筈だ。その時の様子に特記事項はなかった。

 これによりフィリウスは進めていたルーチェアットでの大聖女就任式典への参加の手配を本格化させたばかりだった。


「神殿に王室の者が挨拶に来たのだそうだ。それを見ていきなり消えたらしい。詳しい事が分からないためもう一度情報を取り寄せるとともに、緊急の転移陣を使ってよいか確認をしている」

「……あちらのおうしちゅのものと、にゃにかあったのでしょうか」

「それも含めて確認中だ。とにかくこれだかの説明ではわけが分からない。こちらとしては召喚国としてきちんと伝える事は伝え、最低限のマナーも学ばせた。アヤカは途中で少し疲れてしまったけれど、それでもきちんと旅立っていった。それなのにいきなり消えたとは」

「あちらはにゃんと?」

「…………マグナシルヴァの教育がきちんとされていなかったのではないかと言う者もいるようだが、それならば、そちらで聖女を傷つけるような事があったのではないかと、調査を依頼すると同時にこちらも調べに参加をする権利を主張した。だが…………」

 

 ここでラディスラウスは珍しく溜息を落とした。


「聖女に……万が一の事があった場合…………」

「………………」

「ルーチェアットは再召喚を希望(のぞむ)ようだ……」

「………………」

「だが、その際には………………その聖女に関わる者が残っていてはならない」

「………………」

「召喚は、全て新たに行われなければならない」

「………………それは」


二人の間に思い沈黙が流れた。


「以前、私は使徒が来たのは一度だけだと言った。だが、それは偽りだ」

「………………」

「使徒は二度、召喚に巻き込まれている。そして一度目は不要なものが来たとその場で殺された」


 フィリウスは思わず息を飲んだ。


「けれど使途を手にかけた者はその場で死に、その後召喚国は未知の病に襲われた」

「……それは……」

「二度目の時は、話した通り、手にかけようとした途端、城の中に電が落ちた。いいか、フィリウス。聖女がこの世界から消えてしまった事が確認出来ない限り、使徒に何かがあったらマグナシルヴァが滅びると思え」

「………………」

「ルーチェアットにはその旨しかと伝え、聖女がどうなったのかがはっきりするまでは使徒に手を出さぬように伝えている。勿論聖女の無事も早々につきとめなければならない。分かるな、フィリウス。聖女と共に、我らは使徒も守らねばならん」

「…………ぎょい」


 脳裏にリュカの顔が浮かんで、フィリウスは頭を下げながら言われている言葉の意味を胸の中に焼き付けた。

 消えた聖女がどうなったのかを出来る限り早く調べなければならない。

 それが分かるまでリュカに何かがあってはならない。

 そして聖女召喚をやり直す際にはリュカの存在は消さなければならない。


『フィル』


 脳裏に蘇る、優しい笑みと声。


「るーちぇあっとにそうさのためのものをてはいいたします。そしてしとしゃまにはしゅこしおかくれになっていただきましゅ」

「入ってくる情報はそのままそなたに伝えよう。聖女を無事に保護し、使徒を守れ」

「かしこまりましてございます」


 ソファから下りて、フィリウスは恭しく臣下の礼を取ると、足早に応接室を後にした。

 

 


遅くなりました~~~~!


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