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33 知恵熱と結婚式の準備

 エニグマの話はリュカにとって「そうだったんだ」の一言につきた。

 とにかくこの世界の男性も魔法を使わなければ子供を作る事は出来ない。

 裏を返せば神殿に行って専用の魔法陣を使えば子供を作る事が出来る。

 もしかして、もしかするとそれは自分にも当てはまったりするのだろうか…………

 そんな事をぼんやりと考えたら熱を出した。

 まさかこの年になって知恵熱を出すなんてと思いつつ、「やっぱりよかじぇにあたったのがいけなかったのら」と心配するフィリウスにリュカは申し訳ない気持ちになった。


「知恵熱なんていつぶりだろう……」


 ベッドに横になったままリュカはポツリと呟いて、溜息を落とす。

 そう。子供の話もそうだけど、ひと月に数時間だけ元の姿に戻るというフィリウスが、元婚約者に対して万が一の事があって不義を働いたなどと言われないようにと思っていた事も、なぜか喉に刺さった小骨のようにリュカの中に残っている。

 どうしてそれが気になるのか分からないけれど、あの彼の事をそんな風に思っていたのだと思うとわけが分からない感情が湧き上がる気がするのだ。


「変だよね……」


 今朝城に行く前にフィリウスはリュカの部屋に寄ってくれた。


『ひりゅまでにねちゅがさがらなければ、くしゅしをよぶようにした。はやくよくなりぇ、りゅか』


 そう言って額に触れた小さな手は温かかった。


「寝よう。とにかく寝て治そう」


 熱は結局二日後に下がった。薬師の作った薬はものすごく苦かった。


  -◇-◇-◇-


 結婚式に向けての動きが活発化してきた。

 日付も決まり、神殿で式を挙げた後にお披露目を公爵家で行う事も決まり、規模は小さいと言われたけれどそれでも婚約式よりも大きなホールを使うと聞いた。

 しかも式の後にはコンコルディア領にも顔を出すのだそうだ。

 家令のマリヌスも執事のウィクトルも張り切っている。

 聖女がそろそろ神聖国ルーチェアットに着くらしい。到着後に一度神殿に入り、その後王家と顔合わせをして今代の大聖女との交代式が行われたり、大聖女に就任した式典があったり、さらに皇太子との婚姻式があったりするらしい。聞いただけでも大変そうだあちらも大変そうだ。


「元気でいるかなぁ」


 自分の気持ちがいっぱいいっぱいになって、それでもここで生きていくしかないのだと旅立った彼女。

 頑張ってほしいなと思うけれど、それよりも元気で、幸せになってほしいと思う気持ちの方が大きい。


「リュカ様、仕立て屋が参りました」

「ああ、うん、はい……行きます」


 サーヴァントのスアヴィスに言われてリュカはソファから立ち上がった。そんなに寸法が変わる事はないと思うのだが、結婚式用の服を作るためにはまず採寸なのだそうだ。そしてきっと延々と布をあてられて、デザイン画をめくってめくってめくって……決めていくのだ。しかも神殿で着る服と、お披露目で着る服と、さらには領地で着る服に着ていく服と滞在中に着る服……を作るらしい。一体何着作るんだろう。

 ちなみにフィリウスの服はもう少し先、リュカが作ったものに合わせてギリギリになる予定だ。

 どうしてその予定なのか、誰も言わないけれどリュカには分かっていた。


(だって結婚式は彼女が大聖女となった式典の後だもん)


 あの夜、フィリウスは希望だといった。諦めていないと。

 就任の式典で召喚国の代表として望みを口にするフィリウス。それが叶ったら…………


「……俺、あのフィリウスと結婚式を挙げるのかなぁ」

「リュカ様⁉ どうされたのですか? どこか具合が悪いのですか?」

「ううん。大丈夫……」

「まさか、採寸が嫌でしゃがみこまれているのですか⁉ 大事なお衣装ですからね。頑張ってください。でも本当に気持ちが悪いなら……どどどどうしましょう」


 少し涙声になりながらオロオロとするスアヴィスに、リュカはノロノロと立ち上がった。


「大丈夫……ちょっと緊張しただけ」

「本当ですか? もしもどうしても無理でしたらウィクトル様にお話ししますので我慢はなさらないでくださいね」

「うん。なんか結婚式かぁって思ったらドキドキしただけだから」


 そう。それは嘘ではない。


「そうですか。でも分かります。やっぱり緊張しますよね。あとひと月とちょっとですもんね。それまでに私達サーヴァントがリュカ様を磨き上げますからね!」

「えぇぇぇ」

「お任せください! さぁ、素敵なお衣装を作りましょうね!」


 フンス! と鼻息が荒くなったスアヴィスにリュカは「ハハハ……」と乾いた笑いを落とした。



大変遅くなりました<(_ _)>


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