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24 話し合い

 結局リュカの体調が完全に元に戻るまで十日かかってしまった。

 合間にはフィリウスの両親が部屋に訪ねてきてくれた。心配をかけてしまって申し訳なかったが、早く元気になってほしいと励まされ、結婚式にはまた来ると領地に戻っていった。

 リュカとしては一週間くらいでもう大丈夫と言ったのだが、落ちた体力はなかなか戻らないものらしい。我ながら軟弱すぎると思ったけれど、サーヴァント達も護衛達も、マリヌスやウィクトル、そしてメリトゥムまでもが「そんな事はありません」というので、大人しくしていた。勿論講義も、課題も、散歩もなしだ。


 暇だったからというのではないけれど、その間にフィリウスに手紙も書いた。

 フィリウスは毎日顔を見せてくれた。朝食と夕食を一緒にとるようにしていたけれど、リュカは部屋でとっていたので、登城しない日はお昼に合わせて部屋に来てくれたり、城に行く日は行く前と帰ってきた時に顔を見せてくれた。

 それだけでなく、毎日花が届いた。花束では飾れなくなってしまうと思ってか一輪、もしくは一枝、異なる花が届く。

 赤い薔薇、白百合、ガーベラ、フリージア、スズラン、ライラック……

 ちなみに薔薇はロサ、百合はリリウム、ガーベラとフリージアはそのままで、スズランはコンヴァラリア、そして薄紫の枝で贈られてきたライラックはシリンガ・ブルガリスという名前なのだそうだ。

 そしてそれぞれに花言葉もあると、見舞いにきてくれたメリトゥムが楽しそうにおしえてくれたのだけれど、愛情だの祝福だの感謝だの、なんだかむず痒くなってしまった。そして貴族というのは大変だなぁとリュカは改めて思った。


 -◇-◇-◇-


 結局あの日の話が出来たのはそこから更に二日後の事だった。

 ゆっくりと庭を散歩していると「しゅこしいいかい?」とフィリウスがやってきたのだ。そうして庭の中にあるガゼボで少し早めのティータイムとなった。


「きょうは、たいしぇちゅなはなちになりゅので、じどうしょきをちゅかうことにちた」


 フィリウスがそう言うと、控えていた執事のウィクトルが彼の後ろにやってきて、リュカにむかって頭を下げた。


「私が、フィリウス様のお言葉をそのままお話させていただきます」

「うむ。うぃくとりゅ、たのんだじょ」

「畏まりました」


 そう言って威圧感のないようにという配慮だろう、彼はフィリウスの斜め後ろの椅子にそっと腰を下ろした。それを確認して初めて会った日と同じようにフィリウスがペンと紙をどこからか取り出し、そのままスラスラと文字を綴り始める。そうして書かれた紙は自動的にウィクトルの手元に落とされていき、彼はもう一度そっと頭を下げてそれを読み始めた。


『はじめに、大変な目にあわせてしまった事を心より謝罪する。申し訳なかった。そして、元気になってくれた事を感謝する。ありがとう。リュカ」

「…………そんな、助けてくれたのはフィルですよ」

「しょれでも、しゃざいはひちゅようだ。うぃくとりゅ、つじゅきを」

『あの日に起こった事を貴方がどれくらい覚えているのかは分からないが、私はここでその時の事を貴方に思い出させるような事はしたくない。貴方がされた事を具体的に聞き出すつもりはない。だが、あの日の事やその後の事を何も伝えないというのはありえない事だと思っている。もしも話を聞いている中で苦しくなってしまったり、辛くなってしまった時は遠慮なく伝えてほしい』

「分かりました。俺もきちんと分かっておきたいと思います」


 リュカの返事にフィリウスはコクリと頷いてペンを走らせた。


『まずは、あの男の事を話さなければならないだろう。彼はラウラ・オラティオ・デルフィーノ。デルフィーノ公爵家の三男で、私の元婚約者だ』

「…………」


 その瞬間、リュカは思わず息を飲んでしまった。そうして頭の中にうっすらと残っていた彼の声が、なぜかはっきりと聞こえたような気がした。


 —————どうしてですか! 誰とも一緒にはならないと! 傍に置く事はないとおっしゃったではないですか! その者が許されるなら、どうして私はお傍に置いていただけなかったのですか!


 ああ、だから彼はあんなにも自分を憎んでいたのだとリュカはやっと気づいた。


『勘違いをしないでほしいが、私と彼の婚約はリュカがこの世界に来たことで解消されたわけではない。私が呪いを受け、この姿になった後にデルフィーノ家ときちんと話し合いをして決めたのだ』

「そう、でしたか……」

『この姿では結婚は出来ないとお互いに思った。彼には傍にいるだけでもと言われたが、デルフィーノ公爵家がそれを拒んだのだ』

「そうなのですか?」


 それなのに彼は家の決定に従う事は出来なかったという事なのだろうか。そう思っているとフィリウスがゆっくりと口を開いた。


「リュカ、わたちがのろいをうけてこの姿になったのは五年前なんら」

「……え」


 三歳児の姿で五年……? それはどういう意味なのかと問いかける前にフィリウスが言葉を続けた。


「さいしょはこのしゅがたから、じょじょにせいちょうちていくとおもった。けれどかわりゃなかった。こんやくをはきちたのは、にねんまえら。ですふぃーのけが、らうらをたけにとちゅがせることをきめたのら」

「…………」


 リュカが何も言えずに黙り込んでしまった中、再びペンが動き出してウィクトルの手の中にはらりと紙が落ちた。


『呪いは恐らく命を奪うものだったのだろう。とても強いものだと聞いた。けれどそれを私とコンコルディア家の魔導師達が押しとどめた。解呪ではなく、呪いの進行を防ぐのが精いっぱいだったのだ。この姿でどうにか生き残ったけれど、かけられた呪いは私の中に留まった。今も解呪の方法を探してはいるがこの通りだ。本来であればこの事はリュカにももっときちんと話をしなければならなかった』


 ウィクトルの言葉の後にフィリウスは「しゅまない」と頭を下げた。


ちょっと長くなったので一度切ります。

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