1-51 宝探し
「どうも、C地区の皆さん。
A地区からやってきました作手美美です。
今日の御土産はバッファローと羊と野草やキノコです」
軽く笑顔と歓声が上がった。
やはり、みんな食糧問題は深刻なのだ。
まずはメリットのあるお話から。
「マルタさんにお渡ししてありますので、帰りには分配を貰ってください。
B地区の狩猟場は開放しましたので、追加の食料もおいおいに手に入るかと思います」
そこで手前に座っていた少し小太りな男性からスパっと手が上がった。
体はブルーとイエローの派手なキャンピングチェアに、どっしりともたれかかったまんまだが。
「その開放というのはどうやって?
他も、うちとそう変わらないはずなのだが」
どうやら、彼はどこかの農場、つまりここC地区のクラン・マスターなのらしい。
あれこれと情報をかき集めているようだった。
「ええ、そのお話をさせていただきに参りました。
皆さん、これを御覧になった事は?」
美美はそう言って例のカードキーを見せた。
「いや、ないな。
それをどこで?」
「今の状態になってから行われた唯一のイベントである対魔王戦で、唯一与えられた特別褒賞、その特別な褒賞を二年連続で入手した私のみが与えられた特別なアイテムで、閉鎖施設へ入場できる唯一のカードキーです」
美美の唯一連呼に、途端に騒がしくなるプチ広場。
そんな話は初めて聞くのだろう。
「これは、今までゲームの中ではまだ使用された事がないもので、目立たないように設置された小さなスリットに差し込んで使います。
B地区ではゲートの、これまた目立たない隅っこにありました。
そして、また解放時にはクエストがありました。
B地区の人にスリットを捜させるための告知と、中で私個人に与えられたクエストと。
それをクリヤしたので狩場を開放できたのです」
すかさず、彼は集まった人々を問い質した。
「誰か、何か開放のためのクエストを受けている者はいないか」
しばし、ざわめいただけで特に手を上げる物はいないようだった。
「うーん、前の時は街へ着いた時にはもうクエストが始まっていて、私はカードキーを使えば中に入れたんですよね。
クエストがないなら、スリットを見かけた方は?」
美美はプロジェクションの機能を用いて、スリットの画像を空中に投影してみせた。
あの意地悪く雑草の蔭に隠してあった奴も。
参加者の一人は、それを見て唸っていた。
「うーむ、こんな物がある事さえ知らなかったからなあ。
探せばあるかもしれんのだが」
「じゃあ、探していただけます?
どういう物かというとですね」
更に美美が、クエストをクリヤした際のあの泣きたくなるような逸話を語ったら場内大爆笑だった。
「いかにもオーディらしいよね」
「まあ、そんなもんやろう」
「うちも一筋縄じゃいかないかもなあ」
「いやいや、皆さん頑張ってくださいよ。
五万人のプレイヤーが期待していますよ。
あたしもいくらキーを持っているからって、肝心のスリットが見つからないんじゃねえ。
中に入れないと、なんともしようがないです」
今度は、ちゃんと現地のガイドさん付きだといいなと思いながら。
「あー、ユーラ。
今の話、遅れてきた連中が来たら話してやってくれ。
わしは今日来れないと言った連中のところを回ってくるからな」
「いってらっしゃい、マルタ。
じゃあ、うちの人達も『宝探し』にかかってちょうだいな」
にこにこと笑って、クランのメンバーを容赦なくスリット探しに追い立てるユーラ。
「うわー、とんでもない話になったな。
うちの農場にあるのか、そんなもん」
「そんな物があるなんて意識した事すらないからな。
しかも目立たないところに、さりげなく作ってあるらしいし」
「みんな、オーディのやり口を念頭に入れて探すんだ。
さっきの話も聞いたよな。
あの運営のやりそうな事を想定するんだ」
「それこそ難解なんじゃねえかよ」
皆は口々に感慨を述べながら農場内へ散っていった。
それから美美はユーラに確認した。
「あたし、ここに居た方がいいかな」
「あ、大丈夫よ。
でも、あなた達の内の一人はいてくれた方がいいかも」
「じゃ、あたしが残るから、イルマは魔法で探索してみてちょうだいな」
そう言ってのけたのは、当然爛ママだ。
「う、爛ママが残るのか。
ま、それも面白くていいか」
「もう、ミミちゃんったら。
でも、それが妥当よね。
またミックンと一緒に行くの?」
「うん。
『宝探しゲーム』なんだから、遊び人が活躍しないで誰が活躍するという話で。
あと、引き続き犬の鼻も当てにしてます」
「そうか、じゃあこっちは単独で、探査魔法で頑張るわ。
じゃ爛ママ、後はお願いね」
「はいな。
みんな、頑張ってね」
かくして、新しくエメラルド・ファームを訪問してきた遅刻メンバーは、ユーラと共に巨体のおかまプロレスラーといきなり邂逅して、仰け反る事になるのであった。