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1-49 またしても

「あのう、これは⁇」

「何がです?」


 チワワを抱き上げて、前足を弄って遊ぶ女性が訊き返す。


 その自然な動作はNPCには見えない。


 キャパの関係から、あるいはまた人間のプレイヤーと区別する意味もあるものか、NPCは人間っぽく作ってはあるのだが、そこまで精巧には作ってない。


 まあマネキンよりは遥かに人間らしいのだが、なんというか自動人形の域を出ないのが普通だ。


 それに人型のNPCは軒並み姿を消している事から、どうやら彼女はプレイヤーであるものらしい。


「あのう、あなたはC地区のプレイヤーの方なので?」


「そうよ。

 あたしは山岸由良。

 登録名はユーラよ。


 このエメラルド・ファームのクラン・マスターなの」


 彼女は肩にかかっていた、後ろに縛り上げてオレンジの飾り紐で纏めていた少し茶のかかった髪を、首を軽く振って払い落した。


 ツナギを着て麦藁帽子を被った姿は、いかにもファームの人間らしい。


「ああ、あたしA地区の自治会の者で食料調達委員会の作手美美といいます。

 登録名はカタカナのミミです。


 そっちは友人の美紅と、その子は大橋君。


 勇者クランのブリッジマンですね。

 あ、今自治会の議長は勇者レッドアントがやってくれています」


「へえ、A地区じゃそんなものを作っているんだ。

 まあA地区は基本居住区で人間も多いから、それくらいの組織があってもいいかもね。


 あっちも最近行ってないなあ」


 彼女は見た目二十代半ばから後半くらいだが、のんびりとした感じの顔の造作は、いかにもこの日常系ゲームの住人らしい。


 しかもファームの住人なのだし。


「もう向こうも、NPCが消えて商店やギルドなどもほぼ閉鎖状態でして。

 交通機関も動いていないです」


「あらー、いずこも一緒ね」


「こちらは、まったく人気がないんですが、皆さんご無事なので?


 うちの人間が中へ入れないか試していたんですが、どこも入れなくて」


「そりゃあ、そうよ。

 みんな警戒して引き籠っているわ。


 この前のイベ以来、お腹がすくようになったからね。


 ここの農場なんかへたすると戦闘ジョブの人間に襲撃されるんじゃないかってね」


 思わず美美は納得した。

 何しろ食料は一か月分しかないのだ。


 イベ配布の食料は他人から奪えない仕様なのだ。

 そうなると、後は。


「なるほど。

 一応、うちの方は自治会が機能していますが、それでも治安が絶対とは言い切れないです。


 早めに食料生産の道筋をつけないとマズイっていうんで、今自治体の重鎮でこちらの様子を伺いに来たところなんです。


 ちなみにB地区の狩場は開放しましたので肉と野草は手に入ります。


 そのあたりの食料はお分けできますよ」


「それマジ?」


「え、ええ。

 でも基本的にジビエだけなので、こちらの畜産物は欲しいです。


 それよりも野菜が欲しいですね。

 そのうちにジンギスカンも野菜抜きになりそう」


「あっはっは、なるほどね。

 でも、こっちの農場施設も凍結状態よ。


 今のところ、お手上げ。

 肉の供給はありがたいわね。


 食肉生産ファームのクラン・マスターが言う事じゃないけど。

 まあ中へお入りよ」


 中へ招かれた美美は周囲を見回したが、人の姿は見当たらない。


「他の方は?」


「ああ、治安の悪化を懸念して、みんな外にある居住区を出てファーム内に集まっているよ。


 今は生産も不可だから、この辺にはいないわ。


 C地区は他もみんな同じような物だろうね。

 おいで、皆に紹介しよう」


「ああっと、まだ見回りに言っている仲間が二名いるのですが」


「ああ、それなら玄関口のインターホンを押してくれれば誰か出るだろうからいいよ」


「は?」


「あははは。

 あの絵になっていた、あたしが出ていったドアだよ。


 あの横にあるインターホンの絵がそうさ。

 さすがゲームの世界だけあって出鱈目だねえ」


「ええーーっ、そんなあ!」


「な、なんてこったい……スリットばっかり探していて思いもよらなかった」


 そして彼女はくすくすと笑って付け加えた。


「最初にあれを押してくれたら、すぐに出たのに。

 知らない家を訪ねる時の基本でしょ」


 そう言われてみれば、ぐうの音も出ない一行。


「うはあっ」


「やられた。

 っていうか、何それ~」


「あれだけ苦労して壁沿いの地面を這いまわったのが、また空回りだったなんて!」


 そして、そのなんともいえない気分を分かち合うために、他の二人とイーグル達A地区のメンバーに手分けをして連絡を入れる三人なのだった。


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