不安と驚愕
死闘を繰り広げた『スマイル遺跡』から、何とか帰還を果たした俺達。
……もっとも、この集落の指導者ともいえるラプラプ王が敵側に捕まっただけでなく、肝心の救助対象である犬神 秋人を現地に置き去りにするという笑いごとでは済まされないレベルの結果となっており、これは物腰柔らかなヘンゼルさんにも流石に怒られても仕方ない案件かもしれない。
「これ、『え?君達って本当に何しに行ったの?』って話だもんな……マジで、どう話を切り出したら良いんだよ……!?」
俺達の帰りを待っていたであろうヘンゼルさんへの申し訳なさと、秋人の生死がどうなったのかという不安、そして、もし無事だったとしても確実にアイツに俺は殺されかけるに違いない、という憂鬱さが入り混じった感情に支配されていた。
そんな俺を見かねたのか、慌てたようにオボロが提案する。
「で、でもホラ!アタシ達ってあの遺跡内で大量の装備やアイテムだけじゃなく、この『ブライラ』の皆の治療に使えるかもしれない『完全治癒装置』を入手した訳だし?成果ゼロじゃないから何とかなるって!」
そのように力説するオボロだったが……俺はジト目で彼女へと返答する。
「確かに犬神 秋人はそういう風に言っていたけどさ、俺達は実際にその装置で本当に治療できるのかまだ一回も試してないんだぞ?あの『完全治癒装置』っていう情報自体が、俺達をハメるための遠回しな偽の情報かもしれないし、装置で本当に治療出来るとしても、使用の時に何か条件や副作用があったりなんかしたら、今度こそ単なる失敗じゃ許されないはずだ……」
“お菓子の家の魔女”が狙っていたから、奪われないように持ってきた装置だが……実際の性能が分からない以上、この『ブライラ』が現在治療アイテムが足りていないとはいえ、迂闊に使用しない方が良いはずだ。
俺があのとき”特上エビメダル”の効果を注意深く読み込んでいれば、犬神 秋人だけでもこの場に連れてくる事が出来たかもしれないけど……。
そんなことを悶々と考えていた――そのときだった。
「すまない、知らせを聞いて急いで来たんだが、少しばかり待たせてしまったようだね」
そう言いながら俺達の前にヘンゼルさんが姿を現す。
傍らにはこの『ブライラ』の男性プレイヤーであるゴチルスやハジーシャと言った面々が付き添っており、ヘンゼルさんもハジーシャさんの治療と休養による効果があったのか、ライカの“固有転技”による後遺症もなく、俺達がここを出発するよりかはかなり本調子を取り戻しているかのようだった。
そんなヘンゼルさんだったが、流石に俺達の方を見て明らかに困ったような表情をしつつも、俺達に向けて労いの言葉をかけてくれた。
「……残念ながら、全員とはいかなかったようだけど、よく無事にここまで帰ってきてくれたね。――おかえり。リューキ、オボロ、ヒサヒデ。」
……あぁ、これならもっと厳しく叱りつけられたりした方が遙かに精神衛生的にマシだった。
俺の不注意が原因なだけに、罪悪感がとにかく半端ない。
それは俺だけじゃなくオボロやヒサヒデも同様だったらしく、“特上エビメダル”を使用したのは俺だけのはずなのに、二人も申し訳なさそうに所在なさげにうつむいていた。
そんな俺達の心情を察したのか、「少し、歩きながら話そうか」とヘンゼルさんがこちら側へと提案してきた――。
ヘンゼルさんとともに集落内を歩き回りながら、俺達がいない間の『ブライラ』の状況を聞いていた。
なんでもヘンゼルさん曰く、俺達がスマイル遺跡へと向かっている間にも、何度か異種族達の襲撃があったらしい。
この『ブライラ』のプレイヤー達で太刀打ち出来ない以上、回復したばかりのヘンゼルさんの負担が増えてしまうのでは?と思ったが、この場に残した山賊団のメンバーである"線引きミミズ"が異種族お姉さん達を上手く絡め取ったり、"オーク"も派手ではないが防衛したりと、相手側の侵攻を食い止めるのに大分貢献したらしい。
新規のメンバーばかりだったが、山賊団の仲間達が役に立った事に安堵する俺達にヘンゼルさんが「何より」と告げる。
「僕の治療はハジーシャだけでなく、君達も知っているある人物も協力してくれたおかげでかなり良くなったからね。思っていたよりも早く本調子に戻れたんだ」
「治療の出来る、ある人物?……って、まさか!?」
驚愕した俺の声に、ヘンゼルさんが茶目っ気のある笑みを見せる。
そんな話をしているうちに、どうやらヘンゼルさんが連れてこようとしていた場所に俺達は辿り着いたようだった。
そしてそこには、俺の予想を裏付けるかのように、ある人物が静かに佇んでいた――。




