託された意思
全員がほぼ満身創痍の状態からの遺跡からの脱出となっていたが、この室内に来るまでのルートを覚えていた事もあって、出口までは意外と簡単に進むことが出来た。
後ろを振り返りながら確認したり、オボロの【獣性探知】で探ってもらっているが、エルフのお姉さん達が意識を取り戻して、こちらを追いかけてきている……という事態にも、なっていないようだ。
とはいえ、現在比較的余力があって戦う事が出来るのは、唯一オボロのみと言っても過言ではない状態のため、もしもこの状態で予期していなかったスパンキング・ゴーレムや“淫蕩を打ち砕く者”のようなユニークモンスターといった存在に再度遭遇することになったら流石にヤバかったかもしれないが……。
この遺跡に多くの異変をもたらした“お菓子の家の魔女”が既に姿を逃走したからか、そういった魔物達が本来の持ち場を離れて俺達の前に姿を現す事はなかった。
あとは、出口に向けてひたすら前へと進むのみ!!
……そんな感じに脱出しようとしていた俺達だったが、眼前で繰り広げられる光景に思わず足を止める。
「アレは……“セクサロイド”とかいうこの遺跡の魔物、でしょ?」
オボロがそのように疑問を呟く。
本来なら、セクサロイドはもともとこの遺跡を根城にしている魔物なので、それを見つけたところで特に何の問題もないはずである。
だが、俺達が見つめる先、そこには何体ものセクサロイド達が、周囲に対して何の警戒もなく無防備ともいえる姿でワラワラ、と何やら地面の方に屈みこんでいたのだ。
「何だ……?奴等、何かを漁ってやがるのか?」
セクサロイド達の様子を眺めながら、犬神 秋人が訝し気に呟く。
確かに彼が言う通り、魔物達は何かを探しているというよりも既にそこにあるものを拾っているかのような動作をしていたのだ。
一体、あそこに何があるんだろうか?
本当なら、極力無駄な戦闘は避けて迂回してでもこの場を速やかに離脱しなければならないんだろうけど……。
「どうする?リューキ」
「ピ~ス……」
セクサロイド達の不審な動きに警戒しながら、そっと俺の意思を訊ねてくるオボロとヒサヒデ。
そんな二人に対して、俺は――。
「……あそこに何があるのかは全く分からないけど、あんだけの魔物達が他の事に目もくれずに、無我夢中で漁り続けるような代物をみすみす渡してしまえば、何か良くない事になりそうな気がする……無防備な今のうちの一気にここで奴を倒すのがベストだと思う!」
死闘を繰り広げてきた俺達や、敵に長いこと捕らえられていた犬神 秋人にはそれほどの余力はない。
だが、セクサロイドくらいのレベルの魔物を相手に奇襲を仕掛けるなら、今の俺達で蹴散らす事は十分に可能だと判断していた。
そんな俺の提案に、オボロやヒサヒデも無言で力強く頷く。
犬神 秋人は何の反応も示さなかったが、文句を言わない辺り反対するつもりはない……と見て良いだろう。
こうして、方針は決まった俺達は、そのままの勢いで一気にセクサロイド達へと奇襲を仕掛けていく――。
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
「――スキル:【野衾・大】ッ!!」
俺とヒサヒデが叫びながら、敵へと突撃しようとする最中、スキルを発動したオボロがそれ以上の高速で敵の一団へと激突する――!!
「――ッ!?」
驚いた様子のまま、成す術もなくオボロによって蹂躙されていく魔物達。
それとは対照的に、その場に小走りで向かいながらも、奮い立たせたはずの感情の行き場を半ば失って、どうしたら良いのか分からずに互いの顔を無表情で見つめ合う俺とヒサヒデ。
……うん。もう本当に、オボロだけで良いんじゃないかな?
数秒にも満たないうちに繰り広げられたオボロの蹂躙劇によって、セクサロイド達はあっけないほどの光の粒子へと強制変化させられていた。
とはいえ何体かは取り逃がしたようだが、既に戦意もなさそうだし紛れもなく完全勝利と言って良いだろう。
魔物達が先ほどまでいた場所へとたどり着いた俺達は、そこにあった代物を見て驚きの声を上げていた。
「これは……この遺跡内のアイテム、だよな?」
セクサロイド達の腕から離れ、地面に無造作に落下していたのは、他では見たことのないこの遺跡由来と思われるアイテムや装備品と思われる代物だった。
それが一つ二つではなく、山積みになるほどいくつもある辺り、ただ単にこの通路に落ちていた……という訳ではないはずだ。
何より、俺達は出口に向かってもと来た道を辿っていた以上、来る前にはこんな大量のアイテムが道端に落ちていたなんて事は絶対にありえない。
――だとするなら、これは……。
「……ラプラプ王の部下の人達が、私達のいるところまでこれを運ぼうとしてくれていたのかな……これって」
確認、というよりも、どこか確信したように俺が考えていたのと同じ答えを口にするオボロ。
ラプラプ王の“固有転技”で呼び出され、この遺跡内の他のルートの調査を引き続き命じられていた兵士達。
ラプラプ王が命令していたのか、彼ら自身の意思なのかは分からないが――ラプラプ王が魔女に連れ去られてこの遺跡内から姿を消した事によって、それと同時に彼の“固有転技”で呼び出された兵士達も消える事は避けられない中、兵士達は何とか最後の力を振り絞って俺達のもとまで入手したアイテムなどを届けようとしたのではないだろうか。
途中で“固有転技”の効力が尽きたのか、魔物達にやられたのか……事実が本当にそうなのかすら、今の俺達には確かめる術はない。
だが、それでも俺は、ラプラプ王という存在なら、俺達にそんな意思を託していたとしても不思議じゃないな、と感じていた。
「まぁどのみち、曲がりなりにも“山賊”を名乗ってるんなら、これをこのまま放置するわけにはいかないよな……!!」
そう自分を奮い立たせるように呟き、俺は眼前に広がる宝の山に手を伸ばす。
見つけた全てのアイテムや装備を、“プレイヤー”である俺とオボロは自身のアイテムボックスへと収納し終えた。
そして、感傷に浸る間もなく、これ以上の騒動を避けるために俺達は出口に向けて疾走していく。
今は少しでも早く、『ブライラ』に帰還して、他の皆とともにラプラプ王を助け出すために……!!
そんな想いを胸に抱きながら、俺達はようやく遺跡の外へと脱出した。
ラプラプ王がいなくなったことを、『ブライラ』の皆にどう伝えたら良いのかは分からないけど……。
このアイテムボックスに収納した『完全治癒装置』や遺跡内で入手した回復アイテムがあれば、ヘンゼルさんの治療は今よりも出来るはずだ!
俺達は息も絶え絶えになりながらも、このままの勢いで岐路に着くことにした――。




