遺跡内での決戦
自身に向けて放つ"パリピ発勁"による"BE-POP"の回復――。
衝撃が身体中を走り嘔吐きそうになりながらも、それとは別に、違和感がすぐに俺の中に生じることになった。
「そんな……最初に使った時ほど、"BE-POP"が回復していない……!?」
"パリピ発勁"の効果によって、確かにエチチッ!な気分にはなっているのだが……初回に比べると、回復量の伸びは緩やかなものだった。
思い返してみれば、これまでに俺が"BE-POP"を急激に高めることが出来たときは、全て感情が激しく揺さぶられるほどの事態や未知の状況下においての事だった。
二度目となるこのやり方では、耐性と言うか慣れてしまったため、"BE-POP"の回復も俺が思ったほどの効果を得る事が出来なかったらしい。
「だとするなら、今はこの状態で戦闘に挑むしかないって事だな……!!」
自身の現状を口に出して再確認した俺にオボロ達が呼びかけてくる。
「顔色あんまり良くないけど、しっかりしてよね?――ここで、アンタが自滅しちゃったら、アタシ等も一気にマズくなるんだから!」
「ピーッス!!」
そんな二人に頷き返しながら、俺は前を見据える。
「あぁ、俺は大丈夫だ。それじゃあ、ラプラプ王や兵士達が何かされる前に、一気にアイツ等のもとに行くぞ!!」
その前に、と俺はオボロに一つ頼みごとをする事にした。
「オボロ、魔術師らしいエルフのお姉さん達をどうにかする手段なら、俺に考えがある!!――だから、敵の意識がこの乱戦に向いているうちに、オボロはアイツ等の後方で囚われているあの犬神 秋人っていう奴を何とか助け出してくれッ!!」
今は“お菓子の家の魔女”にとって、あの装置を手に入れるために犬神 秋人の協力が必要なことと、眼前に迫ったラプラプ王達に応戦する事に集中しているが、もしも状況が魔女達にとって不利になったら最悪の場合、奴等は捕えている犬神を人質にするかもしれない。
オボロの【野衾・極】で魔女を討ち取れれば、一番ではあるが……あのスキルは狙いが不安定なところがあるため、乱戦最中で攻撃に必死になっている味方のラプラプ王や兵士達を巻き添えにするかもしれないし、そのうえ万が一、あの得体の知れない魔女を討ち漏らしたりすれば、敵陣の只中に単身で乗り込むことになったオボロが窮地に立たされることになるに違いない。
詠唱中のエルフのお姉さん達を狙っても、彼女達は微妙に間隔がばらけているため、魔女同様に瞬時に戦闘不能ないし無力化するのは、流石に困難を極めるだろう。
そのため俺達は、それぞれ分散しながらこの状況を打破するしかない――!!
「ラプラプ王達はシャドウビースト達の討伐、オボロは犬神 秋人の救出、そして、俺とヒサヒデで術式を発動しようとしているエルフのお姉さん達を無力化する!!――そうなりゃ後は、あの"お菓子の家の魔女”を倒すだけのはずだ!」
「……分かった。じゃあ、アタシはそっちをやるから、アンタ等も死なないようにね!――ヒサヒデ、リューキ!!」
「あぁ、分かってる……!!」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
そう答えながら、俺とヒサヒデは奴等の意識をこちらに向けさせるために声を張り上げながら走り出していく――!!
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
「ピ、ピ、ピ~~~~~~~~ッス!!」
こちらに襲い掛かろうとしたシャドウ・ビースト達なら、無防備になったところを兵士達が斬り伏せてくれるし、それが間に合わなくても、コイツ等くらいの魔物なら今の俺達のレベルなら十分に何とか出来る。
何より、こうする事によってひっそりと動こうとしているオボロの方から、俺達に注意を向けさせる事も出来るはずだ。
そうこうしているうちに俺達は、奴等のもとにまで肉薄することに成功する。
魔術師エルフのお姉さん達は、自分達の間近に迫った俺達に多少驚いたような表情を浮かべていたが、すぐに勝利を確信したような笑みを浮かべる。
どうやら、術式の詠唱が完成間近らしいが――ここぞとばかりに、俺は勝負を仕掛ける!!
「果たして、このシスタイガー大森林で生まれ育ったアンタ達に、コレを突破する事が出来るかな?……しかとその目に焼きつけやがれッ!!」
そう叫ぶや否や、俺はアイテムボックスからあるものを取り出して、瞬時に相手の方に向かってそれらを投げつける――!!
だが、エルフ達は見えざる障壁のようなものを展開していたらしく、俺が投げたものが彼女達にぶつかることはなかった。
もしも、この状態でオボロがスキルを使用して突撃していたら、本当に不発で終わっていたかもしれなかったな……と安堵するが、それとは別に俺が投げつけたものがむなしく地面へと落下していく。
あの障壁がどんな効果かは詳しくは分からないが――彼女達の余裕の表情からして、自分達が発動する術式を阻害するような効果はないか、もしくは障壁を経由しない"場”そのものに影響を与える効果なのかもしれない。
どのみち、このままなら数秒後には俺達がその術式の餌食になっているに違いないが――そうなることはなかった。
何故なら彼女達は皆、完成寸前だった術式の詠唱を中断して、ある一点に視線が釘付けになっていたからである。
エルフの魔術師達が見つめる先にあるもの――。
それは、先程俺が彼女達へと投げて地面へと落ちていったBL本の数々であった。
俺は、あの主が不在となった部屋を探索していたときに、あの室内にあったBL本をいくつか拝借していたのだ。
そうしようとして理由というのは、なんてことはない『男の俺でも、これだけ面白い!と感じた作品なんだから、こういう本も持っていればこの先何かの機会に活かせるかもしれない』という思いつき程度のものだった。
だが、ラプラプ王の話を聞いているうちに、『ひょっとしたら、この遺跡内で見つかったこのアイテムなら、シスタイガーというエロに満ちた場所で生まれ育った"異種族”という存在にも、何らかの効果があるんじゃないか』と、俺は考えるようになっていた。
とはいえ、実際にどうなるかはなってみるまで流石に分からなかったが……俺の放ったBL本は単なる目くらましという以上に、エルフのお姉さん達が攻撃を中断するほどに、虜にすることが出来ていた。
ここぞとばかりに、俺はヒサヒデと目配せを行う。
「ヒサヒデ、ここが正念場だ……一気に、キメるぞ!!」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
そうして俺達は、BL本を読んでいるエルフの魔術達の前で、駄目だしと言わんばかりの猛攻を行う――!!
「ッ!?み、みんな見て、アレを!!」
さっそく気づいたのか、その内の一人が盛大に驚愕の声を上げる。
そんな彼女につられたように他のエルフ達が本から目を離してこちらを見たかと思うと――すぐに、
『キャーッ!!♡』
と、黄色い歓声が巻き起こっていく。
彼女達の視線をひしひしと感じながらも、俺とヒサヒデは一切そちらの方へ向かずに、ただひたすらに無言で互いの顔を見つめ合う……。
「え、なになにコレ?一体ナニがどうなって、ナニが始まっちゃうの!?」
「決まってるじゃない!私達の新たな人生、そのものよ!!」
俺達の姿を見ながら、キャー、キャー♡と、盛大にハシャぎ続けるエルフ達。
その後も、自分で服の胸元をはだけさせてから物憂げな表情を意識している俺に、背後からヒサヒデが抱きしめるかのような形で俺の服の中に腕を入れたり、互いに腕を組んだまま背中同士をくっつける事によって、『喧嘩をしていても、似た者同士で仲の良さが伝わってくる二人』を演出する……などのサービスショットを大盤振る舞いで、直にエルフ達に見せつけまくっていく――!!
『キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ♡』
「も、もうダメ!!……あまりにも尊過ぎて、あてくし、これ以上は耐えられない……♡」
「他の存在と比べても、エルフは長命だと言われてきましたが、その生の意味もこの瞬間に立ち会うためにあったのだと今更ながらに気づかされました。……お母さん、私のことを生んでくれてありがとう……!!」
「ア、アヘェ~……この二人の仲は、ずっと永遠なり~♡……でも、人間の男の子の方が、フクロウが他の男に靡いていると思い込んで、精神闇堕ちする展開もアリっちゃ、アリィ……!!」
――こんなことを始めておきながら何だけど、人を使ってなんて妄想してんだアンタ!?
……とはいえ、エルフのお姉さん達が
『あぁ、アタシ等そういうのは、二次元とか創作物だから良いんであって、本物は無理。っていうか引くわ~……』
みたいな傾向であった場合、俺とヒサヒデの捨て身の作戦は不発どころか、盛り上がった彼女達の気分を一気に下げて冷静に現実へと引き戻してしまう危険性もあったのだが、どうやら今回は盛大な賭けに出た俺とヒサヒデの作戦勝ちのようだ。
あまりの興奮の前に、彼女達が意識を失って倒れたことによって、彼女達が施した障壁術式とやらも解除されたようだ。
あとは、彼女達の背後に守られるように佇んでいた"お菓子の家の魔女”に対して、俺とヒサヒデは真剣な面持ちで対峙する。
「さぁ、これで残るはアンタ一人だ!!――ここで、一気に決着をつけさせてもらうんだズェ……!!」




