”魔女”が求めるモノ
敵の背後にある装置へと鋭く言及するラプラプ王。
だが、対する魔女は先ほどとは異なり、その指摘は想定内だと言わんばかりに何ら動じることなく、答えを返す。
「私が身を寄せている神獣:マヤウェル様を祀る神殿では、エルフの神官達を通じてこの『スマイル遺跡』にまつわる伝承というのもいくつかあったの。……その中には屈強な機械の魔物やユニークモンスター達が守る遺跡内に眠っている装備やアイテムの話があったけれど、私が最も惹かれたのがこの装置だった……」
そう口にしながら振り返り、視線(?)を装置の方に向ける"お菓子の家の魔女”。
その動向に俺達が警戒し続ける中、再び魔女が話をし始める。
「私はこの装置が欲しかったのだけど、遺跡内の装置は私が使う"魔術”とは異なる系統のシステムで守られているらしいから、捕らえたもののなかなか素直にこちらに協力してくれないイヌガミ君、という"転倒者”のボウヤに協力してもらう事にしたの。……まぁ、見ての通り結果は芳しくないのだけれど、ね?」
魔女の発言と装置をモノに出来ていないらしい相手――そして意識がないまま捕らえられた犬神 秋人と思われる男の様子から判断するに、彼は最後まで魔女に協力することなく抵抗し続けたに違いない。
……それにしても、粗暴な印象を受ける人物だが、犬神某には機械のプロテクトを突破する能力、とやらがあるのか?
とてもそんな知的そうには見えないが……。
とはいえ、仲間がそんな扱いをされている事にラプラプ王も怒りを覚えているのか、一層強い"圧”とでもいうべきものを放ちながら、魔女へと訊ねる。
「話をはぐらかしているのは自分でも分かっているだろう。……お前達がここで何をしようとしていたのかは、見れば大体察しがつく。我が聞いているのは、その装置がどのような性能なのか、という事だ……!!」
それを聞いてから、ハッと気づかされる。
確かに過程を説明されたところで、これがどのような脅威的な装置なのか分からないままだ。
魔女はこの装置を使って、一体何を企んでいやがったんだ……?
そんな疑問を持った俺達に対して、"お菓子の家の魔女”がフフッ……と笑い声らしきものを漏らしながら返答する。
「流石にそんなことまで、敵である貴方達に教えてあげる義理はありません。――答えが知りたければ、野蛮な"山賊”とその郎党らしく、力ずくで私達から聞き出しなさいな」
それを合図に、エルフの魔術師達がこちらに向かって杖を構える。
対するラプラプ王は、「あぁ、無論だとも!!」と答えながら、自身の"固有転技で一気に三十人近い兵士達の残影を呼び出す。
どうやら、ラプラプ王はここで勝負を一気に決めるつもりらしい。
剣や槍を持った兵士達は一斉に魔女達に殺到し、後方の兵士達は彼らを援護するかのように優れた技巧で矢を放っていく――。
本来のラプラプ王が生み出せる全力からは程遠い人数らしいが、それでも圧倒的な人数差なら、例え相手が得体の知れない"お菓子の家の魔女”であろうと簡単に蹂躙できる……はずだった。
「――出てきなさい。私の"闇”から生まれし獣達よ……!!」
魔女がそう口にするのと同時に、彼女の足元――影がモゾモゾと動き始めたかと思うと、ラプラプ王に負けじと大量の獣たちが出現する。
その数、およそ五十近く。
そして俺達は、その魔物の存在を知っていた。
「コイツ等は……!?ライカが使役していた“シャドウ・ビースト”って奴等か!!」
“シャドウ・ビースト”。
確か、追い詰められたライカが自分や部下が逃げる用の足止めとして呼び出した魔物のはずだ。
でもって、その後速攻『ブライラ』のスケベプレイヤー達によって倒されたので、俺の中ではあまりコイツ等が強いというイメージが浮かんでこない……なんせ、今の俺達はあのプレイヤー達よりも強いはずだしな。
とはいえ、それこそラプラプ王の兵士達が当初持っていた"数の多さ”という優位性によって、シャドウ・ビースト達は突撃してきた兵士達の方に奇襲を仕掛けていた。
兵士達は今のところ、上手く対処出来ているようだが――この乱戦を囮にエルフの魔術師達が呪文の詠唱らしきものを行っているのを目にする。
こちらの兵士達の矢は、突如出現したシャドウビースト達が盾となる形で届いていない。
エルフ達が高威力の攻撃魔法か、場を搔き乱すような効果の補助魔法を使うつもりなのかは分からないが、もしもあの術式の発動を許してしまえば、確実に俺達の方が不利になることは間違いないはずだ。
正直言うと、遺跡内のモンスターとの連戦で、地味に体力やら"BE-POP"やら存在力を消費していて回復出来ていない俺達ではあるが……見たところ、このシャドウビースト達はライカが使役していたのと同じ30レベルくらいで、今は兵士達に意識が向いている最中なので、俺達なら何とか出来る相手だと判断した。
「ラプラプ王がド派手におっぱじめちまったけど……どのみち、ここでキメるつもりしかないよな!――それじゃあ、アイツ等を何とかするために行くぞ!オボロ、ヒサヒデ!!」
そんな俺の発言に対して、二人が力強く頷く。
「あったり前よ!!――あの"魔女”とかいう奴倒して、全部終わらせるんだから!」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
そんな二人を頼もしく思いながら、俺は敵のもとに突撃する前に今の自分が出来る最後の準備を行うことにした。
「とりあえず、少しでも戦える状態にしないとな……――"火"とはすなわち、身体の奥底からムラムラとエッチな気分にさせる在り方なり。……燃やし尽くせ!天空流奥義:"パリピ発勁"ッ!!」
自身の"BE-POP"を回復させるため、俺は両手の掌を交差させる形で自身の胸元に揃え、そのまま勢いよく自身に向けて"パリピ発勁"を放つ――!!




