遺跡の指向性
スパンキング・ゴーレムに若干手こずった俺達だったが、それ以降は難なく敵を攻略しながら順調に進んでいく。
オボロは叩かれたところがひりつくのか、【野衾】関連のスキルを使うどころか、歩くのもなかなか大変そうであり、この状態でスパンキング・ゴーレムがもう一体出てきたりすれば流石に俺達も危うかったかもしれない。
だが、現在ここに来るまであの最初の一体以外見かけておらず、ラプラプ王の推測によると
・帰還した兵士の話では、本来この通路にスパンキング・ゴーレムはいなかったはずであり、敵側が自分達の足止めをするために他の場所から調達したのではないか。
という事だった。
どのような方法を使ったのかは分からないが、あの巨体を複数調達するのは確かに難しいだろうし、最悪出てきたとしてもあと一体くらいが限界じゃないか?というのが俺達が移動がてら出した結論だった。
……というか、そうでないと流石に困るのだが……。
そんな感じで、しきりにこちらの精力を搾り取ろうとするセクサロイド達に対しても、慣れてきた俺やヒサヒデは「そういうの僕達、結構なんで……」と断りながら誘惑を振り切り、オボロやラプラプ王が敵の機械仕掛けの身体を粉砕していく――。
途中で帰還した兵士が言っていた通りの、優雅な雰囲気漂うティータイム用のセット一式があり、王族としてセレブ的興味を惹かれたラプラプ王や、昆布型ビキニアーマー姿のヒサヒデが『事後の余韻に浸りながら、下着姿のまま優雅に紅茶を嗜む貴婦人ごっこ』をしきりにやりたがって、席につこうとしたりと一悶着あったりしたが、俺とオボロが何とか引き離してこのトラップを突破する事に成功した。
もう一つの転がってくる巨大な米俵も、聞いていた通り急いで道を引き返せば何とか回避出来たため、今のところは特に問題なく行けている。
慢心するわけにはいかないが、張り詰めていた緊張の糸が緩んできたとき、ラプラプ王が俺達へと話しかけてきた。
「今は敵の転倒者や捕らえられたアキトに意識を向けるべきなんだろうが……皆は、この遺跡に関して何か感じたりすることはあるか?」
……ちょっとした雑談、なんだろうか?
ラプラプ王の意図は良く分からないが、俺は思ったことを口にする。
「そうだな……この遺跡内のモンスター自体は今までに遭遇した事のない機械系とはいえ、『あぁ、結局コイツ等も“シスタイガー”っていう場所の魔物なんだな』って感じだけど……“ユニークモンスター”やここに仕掛けられたトラップは、なんかやたらとチグハグというか、テーマがバラバラな気がする……かな?」
そんな俺に続くように、オボロやヒサヒデも自分の意見を述べていく。
「アタシも、あのウネウネしたのに捕まって変なことされそうになったけど……今になって思うと、確かにあの機械のトラップはエッチな事というよりかはあの発言通り、こっちに元気を注入というか、回復しようとしていただけかもしれない。……まぁ、そんなはずないんだろうけど」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
そんな俺達の発言を黙って聞いているラプラプ王。
どうやら、考えこんでいるようだが……これは、そんなに重要な話題なのだろうか?
気になった俺は、ラプラプ王に訊ねてみることにした。
「ラプラプ王は、この遺跡が何なのか分かったんですか?」
そんな俺の質問に、若干“困惑”に似た表情を浮かべながらもラプラプ王が返答する。
「何の確証もない話なのだが……この遺跡内の罠や“ユニークモンスター”という存在には、“淫蕩”とでも言うべきか。そのような『安易な性欲の暴走を許さない』という意思があるように、我には思えたのだ……」
「『安易な性欲の暴走を許さない』、という意思……?」
確かにあのユニークモンスターの名前が“淫蕩を打ち砕く者”だからとはいえ、そんな安直な……と思ったりしたが、不思議なことに俺はラプラプ王の発言を笑う気にはなれなかった。
それどころか、これまでのこの遺跡内での出来事を思い返してみると、確かに色々カオスと言っても良いくらいにバラバラとはいえ、あの“淫蕩を打ち砕く者”だけでなく、トラップの数々……果ては、あの無人の部屋で見つけたBLな本の山すらも、このシスタイガーで幾たびも目にしてきた安易なエロとは真逆の指向性を持っている代物のように思えてきた。
……でも、そんな事があり得るのか?
“シスタイガー大森林”の只中にありながら、安易なエロを否定するような場所が存在するだなんて……。
ラプラプ王はそんな俺の意図を汲み取ったかのように、さらに推論を続ける。
「この遺跡内に生息している“こけしオートマタ”や“セクサロイド”のような普通の魔物達は、あくまで住み着いているだけでシスタイガーという地に適した性質を持っていると思うが……それ以外のユニークモンスターやトラップ類、いや、ひょっとするとこの遺跡自体が、もともとシスタイガーの者達にとっては相性が悪い、または忌避するように出来た場所なのかもしれぬ。……それがどんな意味を持つのかは、情報が足りなさ過ぎて流石に分からぬがな」
ラプラプ王の発言に共感しつつも、理屈で言えば納得しきれていない俺。
それはオボロやヒサヒデも同じようであり、そんな俺達を見ながらラプラプ王が苦笑とともに告げる。
「まぁ、これはあくまで我の所感だ。何の根拠もない事ゆえ、あくまで意見の一つとして頭のどこかに置いていてくれれば、それで構わない。……っと、いかんな。王たる者でありながら、このような不確かな言を口にするなど。我もこの地の淫蕩にでも当てられたのやもしれぬ」
そんな風に軽口を叩くラプラプ王。
そうこうしているうちに、再度セクサロイド達が出現してきたが、スパンキング・ゴーレムはいなかったため、問題なく全てを倒しきってから俺達は駆け抜けていく。
「見えたよ――あそこが、間違いなくアタシ達の目的の場所のはず……!!」
すっかり痛みが引いて先行していたオボロが、後方の俺達に向かってそう告げる。
俺達が見つめる先にあったのは、帰還した兵士が語っていた重厚な扉だった。
この先に――犬神 秋人と敵側の“転倒者”がいる。
意を決した俺達は、これまでより一層気を引き締めながら、扉を開けて部屋の中へと足を踏み入れていく――!!




