探索再開
ユニークモンスターを倒したことによって、それと同じ名前を冠した【淫蕩を打ち砕く者】という重要アイテムを入手しただけでなく、ヒサヒデの体調を戻す事に成功した俺達。
さらに俺達は、強大なユニークモンスターを倒したことによって、レベルも上がっていた。
俺:レベル40
オボロ:レベル58
ヒサヒデ:レベル48
ラプラプ王:レベル67
苦戦した割にはレベルは線引きミミズの時ほど伸びが悪いが、あの“淫蕩を打ち砕く者”というユニークモンスターは強かったとはいえ、分裂しまくったミミズと違って単体だし、それにみんなもレベルが高くなってきた分、より多くの経験値が必要になっているだろうから、これは仕方ないと言えるのかもしれない。
……ただ、ようやく40レベル台に到達したとはいえ、俺はこの中で一番低かったんだから、もう少しレベルアップしても良いんじゃねぇかな……。
“山賊”のマイナス補正である以上、今さらな不満ではあるんだろうけど……。
まぁ、そんなことを言っても仕方ない。
少しずつでもレベルが上がっているのは確実だし、ラプラプ王のスキルで生み出した兵士達が何体も粉砕されたりしたが、俺達自身は誰一人欠けることなく無傷同然で生き残ることが出来ている。
この調子で、再び犬神 秋人の探索に乗り出そうとしていた時に――ラプラプ王が、俺達に提案してきた。
「遺跡内の散策はしばし待ってくれまいか。……この先の道も、我の“固有転技”で生み出した兵士達に様子見をさせるとしよう」
思慮に長けたラプラプ王らしい慎重な提案。
それに対して、「私は別に良いけど……」と前置きをした上で、オボロが心配そうにラプラプ王に訊ねる。
「ラプラプ王は、そんなに存在力を酷使するようなことをして本当に大丈夫なの?……さっきの戦闘でも物凄く“固有転技”で、兵士達を生み出していたじゃん……」
そんなオボロの問いに対して、バツの悪そうな苦笑を浮かべながらもすぐに真剣な顔つきをしてからラプラプ王が答える。
「オボロの言う通り、今の我が自身を維持するための存在力を残した状態で、新たに呼び出せる同胞達の残影は、最大で残り37体。……お前達が懸念している通り、確かにあまり余裕のある数字、とは言えないだろうな」
だが、とラプラプ王は告げる。
「それでも、この“固有転技”をさらに使用してでも、我々はこれ以上この遺跡内で“淫蕩を打ち砕く者”以外のユニークモンスターと遭遇するかもしれない、という可能性を何が何でも避けなければならないはずだ」
その言葉を聞いて、ハッとさせられる俺達。
……そうだ。
確かにこの遺跡内の事がロクに分かっていない以上、この場にいるユニークモンスターがあの一体だけ、と断言する事は出来ない。
とはいえ、ユニークモンスターは(今のところ用途は不明だが)重要アイテムとやらをドロップするみたいだから、出来ることなら倒してそれらを入手したいところではあるが……。
「流石に、“BE-POP”や存在力をかなり消費している今の俺やラプラプ王の状態で、またあのドスコイレベルの敵と戦うことになったら、今度こそ終わるよな……」
それに今は一刻も早く、捕らえられているまだ見ぬ味方を救出する必要がある。
例え、この遺跡内に他にユニークモンスターがいたとしても、そいつへの挑戦はある程度自体が解決して万全となった後日にでもすべきことのはずだ。
そう考えた俺は、ラプラプ王に向き合う。
「今回は向こうから、こちらに迫ってくる形だったが、ここから先は下手に強敵が陣取っているエリアに俺達の方から遭遇したりしないように、確かにこれまで以上に慎重になるべきかもしれないな。……ラプラプ王!それじゃあ、無理のない程度で“固有転技”をお願いします!!」
そんな俺の発言に、ウム!と笑みを見せながらラプラプ王が答える。
「心得た!……それでは、五体ほど呼び出して我等の前の進路に行かせるとしよう!!」
そういうや否や、ラプラプ王に呼び出された通りの兵士達が、軽快な動きで俺達が向かう先――“淫蕩を打ち砕く者”が出てきた進路へと進んでいく。
それに続く形で、俺達もいよいよ遺跡調査を再開することにした。
先ほどのように、トラップまでは察知出来ないものの、最低限の警戒としてオボロに【獣性探知】をしてもらいながら、俺達は先へ急ぐ。
ラプラプ王曰く、兵士達が何を見聞きしたり入手したりしたかなどは、実際に彼らが自分のもとに帰還するまで分からないが、彼らはラプラプ王の“固有転技”という扱いであるからか、離れていてもラプラプ王の位置がなんとなく分かるし、ラプラプ王も彼らが何体消失したのかは分かるようになっているのだという。
先に異なる進路に向かった別動隊ともいえる兵士達は、まだ“正解”の道筋を見つけることは出来ていないようだが、今のところは誰一人欠けることなく生き残っているらしい。
俺達の進んでいる先でも、偶発的に戦闘らしき音が聞こえてくるが、敵はこけしオートマタのような普通の魔物達らしく、そちらも問題なく兵士達のみで対処が出来ているようだった。
そんな感じで移動しているうちに、またも三方向への分岐点が出てきた。
間違っている道に進んで引き返していては時間がもったいないため、俺達はこれまで同様に先行した兵士達に斥候として動いてもらうことにした。
兵士達は2・2・1ずつ分かれて、それぞれの道へと進んでいく……。
それから、十分ほどだろうか。
一人で向かっていた兵士が、こちらへと引き返してきていた。
その兵士曰く、彼が向かった先には一つの部屋があったらしいのだが……それが、どうにも異様であるらしい。
様子から見るに、強大な魔物がいるというわけでもなさそうだが……その部屋には、一体何があったんだろうか?
俺達は兵士の案内通り、その異様な部屋とやらへ向かうことにした。




