その手に掴んだもの
ヒサヒデが“淫蕩を打ち砕く者”の倒れた場所から見つけ出したアイテム。
その正体は――。
「……って、それ!アイツが身に着けていた昆布じゃねーか!?」
疲労感も忘れて、思わず大声で叫ぶ俺。
ヒサヒデが嬉しそうに持っていたのは、紛れもなく“淫蕩を打ち砕く者”が自身の上下に身に着けていた昆布型のビキニであった。
俺のツッコミに同調するかのように、オボロがため息をつきながら説明する。
「……だから、アタシもそれを拾うのを躊躇ったワケ。どんな効果か知らないけど、リューキみたいなスケベ男子にこれが見つかったら、どうせアタシやキキーモラさんにこれを身につけろ!とかセクハラまがいな事を要求してくるかもしれないし……」
「そ、そんな事するか!お前、俺のことを何だと思ってんだよ!?」
「……さっき自分に"パリピ発勁"を打ち込んだとき、何を考えたか正直に言ってみなさいよ」
……ッ!?
よく周囲をつぶさに観察しておられる……ッ!!
精神的童貞の段階は既にとうの昔に越えているものの、生身の女子による鋭い洞察力を前にして、俺は自身の想像力や心構えだけではどうにもならない領域があることを思い知る。
それでも、ラプラプ王の特訓を通じて教わった“マクタン男児の心意気”を思い出し、何とかこの場を乗り切ろうと必死に思考を張り巡らせるが上手い策が思いつかず、口をもごもごさせるだけの結果となってしまった。
そんな俺の内心を分かったうえで見て見ぬフリをしてくれたのか、オボロが言葉を続ける。
「明らかにサイズがブカブカなうえに、直前まで他人が身に着けていた昆布ビキニなんて、アタシ触れるの嫌だし、それをさらに装備するなんて本当に論外だから!!――それを使わせたかったら、アタシやキキーモラさん以外の別の誰かに頼むことね!」
まぁ、ここまで強情にきっぱりとノーを突きつけられると、流石に冗談でも「コレを一回だけで良いから、身に着けてみてくれよ!」なんて言えないよな……。
下手したら、【瘴気術】か【野衾・極】を喰らって死ぬかもしれない。
でも、普通の【野衾】ならミニ丈着物でおっぴろげ!な感じの光景を視界に焼き付けることが出来るかもしれないのでワンチャンと言えるかもしれない。
……と、そんなことを考えている間にも、ヒサヒデが入手したこの昆布型ビキニをこの先どうするべきか、と考えていたそのときだった。
「ピ、ピ、ピ~~~ス♡」
なんと、あろうことか面白がったヒサヒデが、先程の“淫蕩を打ち砕く者”同様に、手にした昆布型ビキニの上側(?)を自身の胸部に巻き付け始めたのだ。
その光景を見ながら、俺達が「ヒサヒデの奴、何やってんだか……!」と笑い合っていたが、異変はすぐに表れることとなる。
「ッ!?ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
なんと、突如ヒサヒデがスッキリした言わんばかりに、元気よく声を上げ始めたのだ!!
喜びハシャいでいる様子を見る限り、どうにも単なる空元気……という訳でもないらしい。
タイミングからして、あの昆布には何かパワーアップさせたりする効果があるのだろうか?
ふと見ると、テンション上がったヒサヒデが落としたのか、地面に下の方に巻かれていたと思われるもう一つの昆布型ビキニがあった。
俺はそれを渋い顔をしながらも拾って、さっそく確認してみる。
装備アイテム:【昆布型ビキニアーマー】
昆布の形をしている、セクシーさを猛烈に跳ね上げることが出来そうな装備品。
この装備のみを身に着けている状態に限り、スキル・魔法による効果を一切受け付けなくなる。
【防御力 30%DOWN↓】
【敏捷力 30%UP↑】
……なんだ、コレ。
傍目から見ても、滅茶苦茶ヤバい性能じゃないか!?
防御力が紙装甲になるのと、これのみの装備でないと効果を発揮しないのがかなりの痛手だが、それを補って余りある代物に違いない。
……でも、便利ではあるけれど、なんで回復効果がある訳でもないのに、ヒサヒデはこれを身に着けた瞬間に元気になったんだろう?
「それでどうだったのだ、リューキよ?」
「ヒサヒデが身に着けたあの装備って、あんな見かけの割にそんなに良さげなもんだったの?」
俺の様子から何かを感じたのか、ラプラプ王とオボロが問いかけてくる。
俺は二人にこの【昆布型ビキニアーマー】の性能について説明を行う。
オボロはこの装備の詳細を聞いて露骨に嫌そうな表情をしていたが、ラプラプ王は俺の説明を聞くと、おもむろに「恐らくだが……」と自身の推察を述べる。
「この【昆布型ビキニアーマー】の効果は、戦闘をしていない時にも適用されるのではないか?」
「まぁ、身に着けている間は攻撃を受けないって表記されていたけど……あっ、そういう事か!」
そんな俺の気づきが正解だと言わんばかりに、ラプラプ王がニッ、と笑みを浮かべながら答える。
「あぁ、そうだ。今までヒサヒデを弱らせていたのは、“ヴァイブス・ハウンド”という魔物の振動によって生み出された超音波スキルによるもの。ゆえに、その効果が【昆布型ビキニアーマー】によって遮断されたことによって、ヒサヒデが本来の調子を取り戻せるようになったのだろう」
それを聞いて、オボロも納得したように頷く。
「なるほど、だからあのユニークモンスターは、アタシの【獣性探知】にも全く引っかからなかった訳なんだ……!!」
「恐らく、ではあるが。……如何せん、我は他のユニークモンスターとやらに遭遇したことがある訳ではないため、はっきりと断言する事は出来ぬが、今回の敵がオボロのスキルで感知しなかったのは、おそらくあの装備品の影響であると考えるのが自然であるはずだ……!!」
……スキルや魔法で状態異常などにさせられることがないどころか、察知すらも遮断し、純粋なダメージ以外の攻撃を受け付けない最強の装備。
ようやく【昆布型ビキニアーマー】の凄さに気づいて、俺はそれを装備したヒサヒデの方に視線を向ける。
「ピ、ピ、ピ~~~ッス♡」
……いや、やっぱ普通にアレはナシだな。
効果を発揮するために、あの格好にならなきゃならんっていうのは、いくら俺が【山賊】だからって文明を捨てすぎにも程があるだろ……。
俺だけでなく、オボロもラプラプ王も同じような表情を浮かべている。
結局満場一致で俺達は、ヒサヒデに昆布型ビキニアーマーの下半分を渡し、装備して十全状態になったのを確認すると、再びこの遺跡内の調査再開へと乗り出していく――。




