勝利への一撃
残り少ない“BE-POP”で、この状況を打開するために出来る俺の最大の一手。
俺は現在進行形で暴れ続けている“淫蕩を打ち砕く者”を倒すために、両手の掌を交差させる形で自身の胸元に揃え、そのまま勢いよく天空流奥義を放つ――!!
「――"火"とはすなわち、身体の奥底からムラムラとエッチな気分にさせる在り方なり。……燃やし尽くせ!天空流奥義:"パリピ発勁"ッ!!」
刹那、俺の叫びに呼応したかのように、自身の両手からズドン、と身体の中へと衝撃が走っていく。
現在の自分が打てる最後の“BE-POP”を、こんな自爆同然の形で使用した俺の事を、他の誰かが見たら愚かな行為と嘲笑うかもしれない。
現に予想以上に衝撃が強すぎて、こんな熾烈な戦闘中にも関わらずあまりにも無防備にせき込みながら地面に倒れ込む事になった辺り、自分でも結構無謀な事をしたと思うが……それ以上に、今の自分に駆け巡っていく感覚が、俺の選択が正しい事を何よりも証明していた。
天空流奥義:"パリピ発勁"。
両掌を通じて対象をエッチな気分にさせる指向性に変質した俺の“BE-POP”は、その効果通り俺の精神を急速にムラムラしたものへと昂らせていく――!!
――これまで幾度となく、眼前で繰り広げられていたヒサヒデの戦闘場面。
――生まれて初めて直に触った異性の身体ともいえる、マッスルネガティブ発言ウサ角お姉さんの腹筋の感触。
――俺を気遣ったときに触れた、キキーモラさんのドタプン♡クオリティの柔らかさ。
――そして、いつもと違って、キス待ち状態の顔をしていた時のオボロ。
俺の脳裏に、これまで遭遇した様々な光景が鮮明かつ刺激的に浮かびあがっていく――!!
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
全身に、これまで枯渇寸前だったとは思えないほど意思の力である“BE-POP”が膨れ上がっていくのを感じる。
気が付くと俺は、刹那的衝動に突き動かされるまま、勢いよく立ち上がっていた。
「ッ!?ピ、ピ、ピ~~~~~~~~ッス!!」
「なんと……!!これが、リューキの本気だというのか!?」
離れた場所から、ヒサヒデやラプラプ王が俺の方を見て驚愕の声を上げる。
最大の敵である“淫蕩を打ち砕く者”も、今この場に置いて誰を一番警戒しなければならないのか分かっているかのように、攻撃の手を中断してこちらを睨みつけている。
黒い靄越しでも伝わってくる、殺意や憤怒で歪んだ顔つき。
普段の俺ならコイツを目にした時点で盛大に男の子要素が萎えてしまう事確実だが、今の俺は自身の全身を駆け巡る"パリピ発勁"の効果と、『もしかすると、この死闘の行方を決するのは俺なのでは……?』という浪漫溢れるシチュエーションの相乗効果によって、これ以上とないくらいテンションは最高潮だった。
俺は“淫蕩を打ち砕く者”の殺意に漲った瞳を見据えながら、奴に向かって力強く宣言する。
「今の俺は、お前が否定した"パリピ発勁"の力で、ここまで立ち上がることが出来た。……お前がどんな存在かは分からないが、真に自分が正しいと誇れるのなら!この俺を、その名前の通り粉砕してみせろッ!!――“淫蕩を打ち砕く者”ッ!!」
言い終えるのと同時に、俺はスキル:【凌辱に見せかけた純愛劇】を発動する。
対象は当然、こちらに激しい敵意を向けている“淫蕩を打ち砕く者”である。
身体能力を強化した俺は、奴に向かって勢いよく駆け出していく――!!
「……ドスコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッイ!!
対する“淫蕩を打ち砕く者”は、これまで以上に闘志を漲らせながら、最強クラスの張り手の嵐を撃ち放つ。
この状態での全力の行使は無理があったのか、張り手を一発放つたびに奴の顔だけではない身体の至るところが罅割れ、そこから光の粒子が天に向かって漏れ出していく……。
こっちは一発でも喰らったら即死、奴は一発放つごとに身体が崩れていく、という互いに厳しい極限状態の最中、それでも俺は奴のもとへと疾走する。
スキル:【山賊領域】を使用出来るほどじゃないが、あと数回はスキルを使用出来るくらいには“BE-POP”が残っている。
一時的でも構わないから奴の動きを止めるために、スキルを使おうとしていた――そのときだった。
突如、こちらを睨んでいた“淫蕩を打ち砕く者”の顔面に向かって、勢いよく高速で何かが飛来していく。
奴の顔面にへばりついた者の正体――それは言わずもがな、【野衾】を使用したオボロだった。
「――アンタがこの猛烈系ドスコイ女子を自分に夢中にさせたおかげで、何とかここまで近づけた!!……後は盛大にやっちゃえ、リューキッ!!」
「……ゴワスッ!!」
「って、うわわっ!?」
自身の顔面に張り付いたオボロを力ずくで引きはがそうとする巨体女子。
このままだと俺が技を決める前に、オボロが捻りつぶされることになる――!!
だがオボロは、そんな事はさせないと必死に腕を躱しながら、さらにスキルを連続で使用する。
「……アタシの攻撃がロクに通じなくても、目くらましくらいにはなるでしょ!――スキル:【瘴気術】!!」
「ッ!?チャ、チャ、チャンコッ!!」
オボロの身体から出てきた瘴気が、奴の視界を塞いでいく。
突然の事態に敵が驚愕の声を上げる中、瘴気の向こうからオボロの声が聞こえてきた。
「今だよ、リューキッ!!……今度こそ、勝負を決めちゃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
……全く、せっかく姿を隠しているのに、自分から声で敵に知らせるような真似をしてどうするんだよ。
まぁ、顔に張り付いている以上、隠形というよりかは相手をパニくらせるのが目的だろうし……そんな事よりも、ここまで決死の覚悟で道を開いてくれたオボロの意思に報いるためにも、俺は勝負を決めるための渾身の一撃を放つ――!!
「――"闇"とはすなわち、人の宿業によって生み出されたダークネスな悲劇の連鎖を、共鳴しあう孤独な魂のぶつかり合いで断ち切る在り方なり。……引きちぎれ、天空流奥義:"ロンリネス共振"ッ!!」
渾身の“BE-POP”を込めた俺の右腕が、奴の腹部へと盛大に放たれる――!!
“ユニークモンスター”であるコイツに効果を発揮した"ロンリネス共振"と、【凌辱に見せかけた純愛劇】による能力値の底上げによる相乗効果。
コレで完全に奴を倒しきるという俺の想いがこもった、最大の一撃。
逆に言えば、これを受けてまだ健在なら、俺は奴の反撃を受けて瞬殺されることになるのだが……。
けれど今回は、どうやら俺の意思が通じたらしい。
俺の掌底が撃ち込まれた腹部から、ピシピシ……と音が聞こえ始めたかと思うと、盛大に奴の身体が罅割れ、そこから光の粒子が漏れ出しながら全身が崩れ去っていく――!!
「……ゴ、ゴワス――!!」
オボロが慌てた様子ながらも無事に逃げるように飛び立っていく中、黒い闇で構成された“淫蕩を打ち砕く者”の外殻が消失し、内部からの光の粒子が、消える間際に最期の力を振り絞るかのように、辺り一帯を覆い尽くすほどの一際眩しい閃光を盛大に放っていく――!!
「うわっ!!眩しっ!」
「ちょ、ちょっ!!コレってマズくない!?」
「何だ、この光は……!?」
「ピ、ピ、ピ~~~ッス!?」
俺と同様に、他の皆も予測していなかった事態を前に困惑の声を上げる。
だが、それも一瞬の事であり、俺の脳裏にはある光景が急速に浮かび上がっていく――。




