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“淫蕩を打ち砕く者”の体力は残り半分。
敵はレベル99の強敵にも関わらず、現在この戦闘中で俺達が受けたダメージは未だゼロ。
このまま一気に全員で勝負を決めてみせる――と意気込んだそのときだった。
突如、自身の視界がぐらつくのを俺は感じる。
身体が急に軽くなるようなこの感覚……恐らく、これは
「――俺の使用出来る“BE-POP”が、大分消耗しているって事か……!!」
それも無理はないだろう。
なんせ【山賊領域】は、発動する段階でもかなりの量の“BE-POP”を使用するうえに、今もこうして発動し続けている間にも徐々にではあるが消費しているのだ。
“淫蕩を打ち砕く者”の動きを鈍らせることが出来ているのは便利だが……長期戦になれば、圧倒的にこちらが不利になる。
そう判断した俺は、ラプラプ王と彼によって生み出された兵士達とともに、再度ヒサヒデに手を伸ばそうとしている敵に向かって疾走していく――!!
「よそ見してんじゃねぇ!!……テメェの相手は、まだこっちにもいるって事をなぁ!!」
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』
兵士達による数に任せた攻撃と、俺の"ロンリネス共振"による攻撃を受けて、敵の身体がここに来て初めて、目に見える形で盛大にぐらつく。
敵に真正面から組みかかっていたヒサヒデも、このまま真正面で同じ場所にいるだけでは不利と判断したのか、いったん身体を離してから、今度は相手の右足にホールドするような形で抱え込んで動きを阻害しようとしていた。
「……ドスコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッイ!!」
しびれを切らした“淫蕩を打ち砕く者”が雄叫びを上げながら、腕を振り回したり足を振り上げてヒサヒデや俺達を踏みつけようとするが、単調かつ遅い動きであったため、どれだけの破壊的な衝撃がフロア内に響きわたるほどの猛攻であっても、避けるのは造作もないことだった。
――このまま行けば、確実に勝てるッ!!
内心で俺がそう勝利を確信していた――まさに、そのときだった。
ピタリ、とこれまでの凶暴さが嘘のように、突如相手の動きが制止する。
相手の体力は残り僅かであり、このまま無抵抗のままなら俺達全員で一斉攻撃をすれば、確実に相手を倒せるだろう。
……にも関わらず、ここに来て敵が自殺同然とも言える沈黙と停止を行う理由が分からない……。
もしかすると、線引きミミズの時のように“ユニークモンスター”であろうとも、戦意喪失して俺の味方になりたがっているのだろうか?
だが、そんな俺の予想など、うぬぼれた妄言に過ぎないのだとすぐに思い知らされる事となる――。
兵士達から攻撃を受けている間にも、“淫蕩を打ち砕く者”がスゥ……!!と深呼吸を行う。
それと同時に、何やら奴の“闘気”とでも言うべきものが跳ね上がるのを俺は感じていた。
そんな俺の想いに呼応するかのように、ラプラプ王が驚愕の表情を浮かべながら盛大に叫ぶ!!
「これは……奴の存在の密度が跳ね上がっているのか?――ッ!?何が起ころうとしているのかは分からんが、このまま放置すれば確実にマズイ事になる!皆の者、今まで以上に渾身の力で奴にトドメを刺すぞッ!!」
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
兵士達がこれまで以上に決死の形相を浮かべながら、全力を振り絞った攻撃を放っていく――!!
……だが、それが間に合う事はなかった。
攻撃が届く間際、敵がおもむろに何かを口ずさむ。
「■■解■――”■■■■■■”」
……ッ!!
なんだ?一体、今何が起こったんだ!?
人型である以上、コイツが言語らしきものを口に出来たとしても、それ自体はまだ理解なり納得は出来るかもしれない。
それよりも明らかな問題なのは、現在俺の身に起きた感覚。
奴が詠唱らしきものを口にしたのと同時に俺は、自身の【山賊領域】の効果が雲散霧消したのを感じていた。
確か俺の“BE-POP”は残り僅かだが、こんな形で急にスキルが消えるのは不自然以外の何物でもないだろう。
それよりも、今のは“淫蕩を打ち砕く者”が何かをしたのだと、判断する方が自然に違いない。
そんな事を思考するよりも先に、反撃しようとしたその瞬間――。
物凄い風圧を横に感じる。
それと同時に、“淫蕩を打ち砕く者”に殺到していた十名近くのラプラプ王の兵士達が、瞬時に影も形もなく消滅した――。




