思わぬアクシデント
先陣を切ったオボロに続く形で、『スマイル遺跡』内部に突入していく俺達。
まだ見張りが敗れた事が知られていないのか、敵の増援はまだこちらに来る様子はない。
その間に、俺達はこの遺跡内を探索する事にした。
制限なしに設定されたオボロの【獣性探知】のおかげもあり、遺跡内に侵入した俺達はこれまで敵に遭遇することなく、先に進むことが出来ていた。
「貴重な遺跡だから、おいそれと【野衾】系を使う訳にはいかないけど……索敵なら、アタシに任せて!」
制限つきながらも、自分は活躍出来るのだといわんばかりにオボロが得意げにそう口にする。
そんなオボロとは対照的に、遺跡内に入ってから明らかに元気がなくなっているのがヒサヒデだった。
「オイ、大丈夫か?ヒサヒデ……」
心配した俺からの問いかけに対しても、ヒサヒデは弱々しく「ピース……」とだけ口にする。
そんなヒサヒデの様子を見ながら、ラプラプ王が分析する。
「フム……どうやら、先程から遭遇せずにやり過ごしている敵の中に、ヴァイブス・ハウンドがいるのかもしれないな。姿が見えないとはいえ、奴の振動による音波を耳にした事によって、ヒサヒデは先ほど同様に気力を削がれてしまっているのだろう」
ラプラプ王の発言を聞かされて、ハッ!と気づかされる俺とオボロ。
そっか……確かに、機械系以外の魔物を退ける事が出来るヴァイブス・ハウンドを、遺跡の入り口だけに配置しなくちゃいけない理由はないもんな。
なまじ、ヒサヒデは聴覚に優れた梟型の魔物だから、俺達が考えている以上に結構厳しいのかもしれない。
ここにはあと、どれだけのヴァイブス・ハウンドがいるのかは分からないけれど、周囲の機械達に影響が出ないなら、当然の如く遺跡内を巡回させていてもおかしくないだろうし……。
となると、犬神 秋人を捕えている異種族達対策にヒサヒデを連れてきたけど、野生育ちのヒサヒデが苦手な機械系の敵が多いうえに気力も弱っている辺り、いざという時以外は今回はあまりヒサヒデの活躍をアテにする事は難しいと判断すべきだろう。
せめて、ヴァイブス・ハウンドか奴の使うあの魔物除けのスキルをどうにか出来れば、話も変わってくるかもしれないが……。
そんな状況を理解したのか、オボロが困惑した表情で口を開く。
「ヒサヒデを本調子に戻すためには、ヴァイブス・ハウンドを何とかしなくちゃいけないけれど、それだと敵に遭遇しないために索敵してるのが無意味になっちゃう、か。……アタシの【獣性探知】じゃ、魔物が近づいてくる事が分かっても、それがどんな種族なのかまでは分かんないしな~……」
「ウム、そうなるな。……とりあえず、ヒサヒデはこの作戦において重要な役割を果たしうる存在だ。無理をさせすぎる訳にはいかぬため、周囲に警戒しながら今のように休ませながら進むべきだと我は判断する。リューキ、オボロ、何か異論はあるか?」
ラプラプ王がそのように俺達へと確認してくる。
当然、俺達の答えは決まり切っていた。
「ん、異議なし!ヒサヒデは大事なアタシ等の仲間だもんね♪」
「いや、俺は少しだけ異論があるな。――この山賊団の首領として、その提案を切り出すのは、この俺に任せてもらいたかったな、ラプラプ王……!!」
そんな俺達の意見を受けて、ラプラプ王が口元に笑みを浮かべる。
「まったく、リューキめ……早くも、我が教えた“マクタン男児の心意気”をモノにし始めたか。――いや、山賊ならばこれも“BE-POP”と言えるのかな?」
そう言いながら、互いにフフフッ……!と不敵に笑いあう俺とラプラプ王。
そんな俺達を見ながら、ヒサヒデが珍しい事に申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「ピ、ピ、ピ~~~ス……!」
「なに、そんなに気にすんなよ、ヒサヒデ。この『スマイル遺跡』に着くまでの間、追いつけるようにヒサヒデ達は俺の事を待ってくれてたんだ。だから、今度は俺がヒサヒデを助ける番だ」
「ッ!?……ピ、ピ、ピ~~~ッス!!」
そんなやり取りをしていると、オボロから「ハイハイ!ま~た『男同士だからこそ通じ合える~~』みたいな事しちゃって!」とからかわれる。
それに対していつもと同じように軽口を返しているうちに、ヒサヒデの調子も幾分か戻ってきたようなので、俺達はさっそく遺跡の調査を再開する事にした。
……しかし、犬神 秋人の身の安全がかかっている以上、時間をかける訳にいかないのもまた事実。
ヒサヒデの調子を、何とか出来る方法があったら良いのだが……。




