覚醒 25~27
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あっ、時計を見ると十二時四十分だ。しまった!急がなくっちゃ。
今日は色んな事をしたので、いつもより時間がかかったんだ。
僕は大急ぎでまた教室に戻る。教室ではみんなが、僕の来るのを
今か今かと待っていた。
「遅いぞ! 早くしろ! このデク野郎!」
「そうよそうよ、私なんかさっきからウズウズしてるんですから
ね! いい? 今日は私が一番よ!」
「はい。じゃ、始めてください…」
僕は教室の真ん中で正座をさせられ、目の前の、今はビーさんの
相手を務めるんだ。ビーさんは僕をいきなり蹴り上げると言った。
「ちくしょう!どうしてこの私が怒られるんだよ!悪いのはシステ
ム自体じゃなくて操作をした研究員なのに。え? どうしてだよ!」
僕が起き上がり、また正座をすると、
「え? 今朝何て言ったんだよ? 私の事、何て言ったんだよ?
忘れたなんて言わせないよ!」
ははぁ、ビーさんは今朝、出がけに研究員と揉め事を起こして、
所長にきつく怒られたんだなと察した僕は、
「ビー、あんたが悪いんじゃないの! あんたはこのシステムの発
案者なんでしょう? どうして研究員を庇ってやることが出来ない
の? まったく、創られた天才だって言ってもしょせんは子供なん
だから!」
と、エネルギー研究所の所長の声色で返事をした。
ビーさんはこれを聞くと血相を変え、僕を滅多やたらに蹴り上げ
始めた。
「ちくしょう! ちくしょう! 思い知ったか! どうだ!思い知
ったならきちんと謝れ!」
半分なきながら、もう半分は笑っているようなビーさんに
「ビー! 所長のこの私が悪かったわ! 後で操作をした研究員を
きつく叱っておくから許して頂戴ね」
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僕はまた声色で、今度は泣く真似も付け加えながら、許しを乞う。
ビーさんはハァハァという激しい息づかいのまま、虚脱状態で教室
の床の上に座り込んでしまった。
「おい! もういいんだろ? 次は俺の番だ!」
ビーさんを押しのけたのはティー君だ。ええと、彼は…ああ、ま
たあれだな。僕は今度は立ち上がり、ティー君に説教を始める。
「おい!ティー、お前また設計を時間までに上げなかったな。この
ラボの評判を落とすのは、お前のようなウスノロなんだよ! あ?
聞いてんのかティー? お前、都市工学の天才だかなんだか知らね
えが、今度時間を守らなかったらクビだからな? わかったか!」
ティー君が所属している都市工学研究所の主席研究員のまねをし
て、僕はティー君の頭をグリグリとやる。ティー君は僕のその手を
とり、
「あ? このへなちょこの低能野郎! この俺様のどこがウスノロ
なんだよ! お前はすぐにクビだって言うけど、本当にやめたら困
るのはお前だろうが! 第一、お前ら、俺がいなくてちゃんとやっ
ていけるのか? あ?俺ばっかりに大変な部分を押しつけやがって。
本当にウスノロなのはお前たちだ! 分かったか!」
思いの丈を吐き出すようにしてまくしたてたティー君は、僕の手
を逆関節で決めたまま頭突きで攻めてくる。僕はここでいつものよ
うに
「うう、ティー様、許してください。本当にやめさせるつもりなん
て、これっぽっちも無いんです。わたしら凡人の、ウスノロ研究員
ばかりのラボに参加して頂けるだけでも光栄なんですから。私が悪
うございました。堪忍してください」
「あ? お前は口だけだからな。ようし、じゃ、態度で示してみろ。
ん?」
これもまたティー君がいつも通りの展開だ。で、僕はティー君の
上履きを舐めるんだ。動物のようにペロペロとね。
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「ようし、今度だけは許してやる。だがお仕置きは、お仕置きだ!」
そう言うなり、ティー君は僕の顔面を思いっきりキック! また
僕の鼻から大量の血がほとばしり、教室の床を染める。
「ねえ、あと五分しかないのよ? 早く代わってよ!」
鼻を押さえてる僕にいきなり椅子で殴りかかってきたのは、アイ
さんだ。普段は力が無さそうにも見えるのに、こんな時はもの凄い
怪力ぶりを発揮する。彼女は聖楽の生まれ変わりだと言われている
程の音楽家だ。
「やい! ホールのオバン! 私が挨拶したのによくも無視してく
れたわね! おまけに私のピアノが煩いって文句も言ってくれた
ね!あんたのお喋りの方がよっぽど煩いんだよ! え? わかって
るのかよ?」
僕が何か言おうとする間も与えず、アイさんは椅子攻撃の手を緩
めようともしない。
その時、昼休み終了のチャイムが鳴らなければ、僕はどうなって
いたか分からない位だった。
僕の周りにいたみんなは、この時ばかりは一致協力して乱雑にな
った机や椅子を片付け、さーっと席に着いてしまった。僕はまだ教
室の床にへばりついたまま、自分の鼻血に染まってる。
「ちぇっ、今日の昼休みは三人しか出来なかったじゃない。ま、あ
とは放課後だね」
転がったままの僕の耳に、誰かの言葉が聞こえてくる。へん、も
っと沢山の時間やりたいと思うなら、せめて給食の後片付けは当番
がやったらどうなんだ? と思ったけど、口には出さなかった。




